認知症の高齢者2040年に584万人、7人に1人…九州大などの研究チーム推計
■背景
世界には認知症を発症している人は約5,000万人いると言われており、その数は2050年までに、1億5200万人まで増えると推計される。軽度認知障害(MCI)は認知症の前段階として重要な状態であり、通常の老化と、認知症やアルツハイマー病との間の状態とされる。MCIの発症を予防することは、将来の認知症発症を減らす可能性があると考えられる。
近年、口腔の健康状態の低下と認知機能低下や認知症発症との関連が多くの研究から報告されている。
しかし、口腔の健康状態の低下や認知機能の低下も長期の経過をたどることから、因果関係を明らかにする手法として代表的なランダム化比較試験は困難である。そこで本研究においては、観察研究において未測定の時間不変の共変量(性格など)によるバイアスを取り除く方法である固定効果分析を使用し、口腔の健康状態の悪化が主観的な認知機能低下の発生確率を増加させるのかについて検討した。
■対象と方法
本研究では日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを使用した。2010年のベースライン時点で主観的な認知機能低下がないと回答した、13,594名の65歳以上の地域在住高齢者を対象とした。「周りの人から「いつも同じ事を聞く」など物忘れがあるといわれますか」「自分で電話番号を調べて、電話をかけることをしていますか」「今日が何月何日か分からない時がありますか」といった質問に対し、認知機能低下を示す回答をした人を主観的な認知機能低下ありとした。そして、嚥下機能低下「お茶や汁物でむせることがありますか」、咀嚼機能低下「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」、口腔乾燥感「口の渇きが気になりますか」、歯の本数(20本以上/ 0-19本)との関連を調べた。年齢・婚姻歴、等価所得・教育歴、高血圧・糖尿病の有無、飲酒歴・喫煙歴・日々の歩行時間の影響を除外した解析を行った。
■結果
13,594名の主観的な認知機能低下のない対象者(55.8%:女性)を対象とした。平均年齢は男性が72.4(SD=5.1)歳、女性が72.4(SD=4.9)歳であった。質問紙調査を用いた6年間の追跡調査の結果、調査に参加した男性の26.6%、女性の24.9%で主観的な認知機能低下がみられた。嚥下機能、咀嚼機能、口腔乾燥感、歯の喪失があっ
た人では、主観的な認知機能低下が見られた人は、それぞれ男性では、35.2%、34.9%、36.7%、29.0%、女性では31.5%、31.3%、31.5%、26.8%だった。ここから、それぞれの口腔状態の低下がみられた対象者は、そうでない対象者よりおよそ10%ポイントほど認知機能低下の発生が多かったが、この数字は年齢や既往歴などの差異を反映している可能性がある。そこで関連する要因を考慮した解析の結果、嚥下機能が低下した人は、そうでない人より男性では8.8%ポイント、女性では7.7%ポイント高く、咀嚼機能が低下した人は、そうでない人より、男性では3.9%ポイント、
女性では3.0%ポイント高く、口腔乾燥感が現れた人は、そうでない人より男性では2.6%ポイント、女性では6.4%ポイント高く、歯を喪失した人は、そうでない人より、男性では4.3%ポイント、女性では5.8%ポイント高かったことがわかった。
■結論
口腔の健康状態が低下した対象者は主観的な認知機能低下の発生確率が高かった。口腔の健康状態のうち、嚥下機能が低下した対象者は主観的な認知機能低下の発生確率が最も高かった。