夕闇通り探検隊(プレイステーション)
2008年1月22日掲載
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「世界の謎を解くのは君だ!」と言いながら、プレイヤーはキャラを移動させるだけで、ムービーの中で謎が勝手に解明される、というゲームってありませんか? そういうゲームに当たると、「私に謎を解かせてくれ! プレイに関係ない謎は無用!」と文句の100や200も言いたくなります。
作り手がプレイヤー自身に謎解きをさせたいのであれば、ゲームの中で答え合わせをしないのも一つの手法でしょう。「それではプレイヤーに投げっぱなしだ!」という批判もあるでしょうが、プレイヤーが自分で結論付け納得することが出来れば、それは謎を解いたことになるのです。
と、ここまで、あえてゲームの謎とストーリーの謎をごっちゃにして書きました。ゲームである以上、それらは同一のものであってほしいからです。
謎解きはゲームの基本です。プレイヤーがプレイの中から事象のルールを推定し、望ましい展開に向けて行動できるようになれば、それはゲームとして「良い謎」でしょう。
本作「夕闇通り探検隊」は、3人の中学生が同級生達から聞いた心霊現象の噂を解決するゲームです。ホラーゲームではあるのですが、それだけに留まらない表現力のある作品として、一部では評価が高くなっています。私としても、30年のゲーム暦で間違いなくベスト10に入ります。
主人公は、謎を分析するナオ(頼りないが誠実)、謎と同化するクルミ(天然で癒し系)、謎を否定するサンゴ(実はツンデレ)の3人です。プレイヤーは3人の役割をうまく分担して、町中に潜む44もの噂の真相を解くことになります。また、3人の人間関係にも注目です。
中学生時代は、心身の成長や人間関係の複雑化や行動範囲の拡大など、生活や心理が大きく変化する時期だと思います。そういう視点から町全体の移り変わりを捉えると、そこには多くの謎が見えてくるのです。それをゲームとしてまとめた本作には、いくら唸っても唸りきれません。
グラフィックやマップはリアルです。それも描き込まれたリアルではなく、実写画像をぼかした「半リアル」が想像力を刺激して、脳内で自分の知っている町並みや人物に近似されるのです。
さて、「とにかくストーリーを追いたい」という人にとって、本作は厳しいゲームかもしれません。ボタンを押していれば謎が解決するわけではないからです。自分で噂の解法を推理し、適切な対応をするキャラを選び、関係する場所に行かなくてはいけないのです。
ここに敷居の高さを感じるプレイヤーも多いかと思います。ですが、これこそがゲームの謎であり、同時にストーリーの謎なのです。難しすぎる謎はありません。攻略情報が必要なのはせいぜい2箇所でしょうか、いずれも独自の会話中断システム絡みです。
このゲームでは、情報、状況、これまでの履歴、付属のマップ、さらには人間関係を読み解けば、ほとんどの謎は解けるでしょう。もし解けなくても、ストーリーは進みます。ゲーム進行とストーリーは完全に一致し、ある意味で両者の理想的な関係がこのゲームにはあるのです。
以上、謎解きが面白いのだと書いてきたのですが、実はゲームの発端となる「人面ガラスの噂」と、それに大きく関係する100日目の「○○○○の噂」は解決することが出来ません。解決済みの表示はどうやっても「42/44」以上にはならないのです。
ですが、「それでも確かに自分は謎を解いたんだ」という実感がかえって強く感じられたのです。ゲームの中で明確な答え合わせはありませんし、全てを理解したわけでもありませんが、私は謎に沿って行動し、その結末を納得して受け入れることが出来たのです。
最終日に起こる出来事は劇的です。一人の命を救うため、半信半疑ながら再び町中の心霊スポットに単身訪れるナオ。文字通り鳴りをひそめていた音楽は厚みを増しながらプレイヤーに迫ります。人面ガラスの呪いとは? その時サンゴとクルミは? 謎を解くのはあなたです!
蛇足ですが、雰囲気ぶち壊しとも言われるスタッフロールの音楽は、100日目を迎えた彼らがしばしの沈黙を経て新たな青春を謳歌する音楽です。夕闇の時間が終わり、夜を越えて、彼らは真昼の太陽の下を生きるという喜ぶべき音楽なのです。ぜひベストエンドを体験してください。
みなさんがゲームに求めるものは、心に残る物語だったり、不思議体験だったり、謎解きだったりするでしょう。それらの全てが「ゲーム」の名実の下に高度に統一されたのが本作です。何かとお膳立ての多い「映画的なゲーム」とは一線を画すプレイ体験があなたを待っています!