おきると荘の書斎

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旅の途中

2015-01-22 00:25:00 | 小説
あと少しで終わります。
何の構成も無しに思い付きでバシバシ書いてるので、まとまりが無い話になってしまっているかもしれません。

が、一度自分の中で物語が完結してしまうと、それを文面に起こし切る作業が億劫になってしまうというゴミみたいな性能を持っているので、こういう書き方の方が書き切ることはできるんですよね。

なんかすみません。1人でも読んでくれている人がいたならば、幸せなことです。



サイコドラマ⑭


 守りたいものが、崩れていくこと。つかもうとしたものが、離れていくこと。

 12月になった。センター試験が近付き、僕の余裕も焦りに変わっていた。クラスの中では、多くの人が自分の能力と向き合い始め、周囲の他者と向き合うことをやめた。僕の苦手な雰囲気だった。結局のところ受験は個人戦なんだと、見せつけられているような気がした。
 学校が終わると、僕は校門の外で村谷さんが出てくるのを待ち、一緒に図書館に向かった。
 「私、誰かと一緒じゃないと成長できないタイプなんだよ」と、村谷さんは言っていた。
僕は、そういうタイプの人間が自分だけではないことに安心し、救われた気持ちになった。ようやく落ち着いていられる場所を見付けたような心地だった。もしかしたら、村谷さんもそんな風に感じていたのかもしれない。僕は、勉強では全然村谷さんに敵わなかったけれど、そんなことはどうでもよかった。あの日以来、村谷さんの傷痕は増えていない。口には出さなかったけれど、その事実が誇らしかった。そして、傷痕のことを気にしている間、僕は村谷さんのことを心配していることができた。
 「小池君は、大学に入ってどうするの?」村谷さんが、不意に尋ねたのは、午後7時を過ぎた頃だった。
 「どうするって?」僕には、質問の意味が理解できなかった。
 「大学に入って、何をするの?」
 「うーん、全然決めてないよ」
 「そうなんだ。そういえば、前にもそんなこと聞いたことがあったね」
 「そうだね。僕の答えは、相変わらず要領を得ない」僕がそう言うと、村谷さんは笑った。
 「やっぱり、将来が見えない人を見てるとイライラしたりするの?」と、僕は聞いた。
これは僕が、好史が村谷さんに追い詰められていると勘違いしていた頃に、ふとよぎった考えだった。村谷さんは、好史の先行き不透明な部分が許せないのではないか。
 「全然そんなことないよ」村谷さんは驚いたように言った。「責めてるように聞こえたならごめんね。実は私もあまり決まってないから、時々皆に聞いてるんだよね」
 「そうなんだ」僕はそう言いながら、好史の言葉を思い出していた。
 「勉強が出来なくて嫉妬して、躍起になっても全然追いつけなくて。高い志を見せられて悔しくても、自分のしたい事なんてはっきりと分からないし。馬鹿なんだろうな」好史は、そう言っていた。
 「そういえば好史は、村谷さんは志が高いって言ってたけどな」何気なく僕は言った。
 「そう見えてただけだよ」村谷さんは答えた。「私、好史といる時は、肩肘張っていないといけなかったから」
 「どうして?」
 「それは、好史が不安定になっちゃってたから。いつだったか分からないけど、将来どうしようとか、もっと早く勉強始めてれはよかったとか、凄く不安な状態になっちゃってさ。私がしっかり励まさないといけないと思って」
聞きながら僕は、同じようなことを好史も言っていたな、と思った。きっと、どちらも本当にそう思っていたんだろう。
 「私、最近夢を見るんだけど」
 「どんな?」
 「好史とファミレスにいる夢」村谷さんがこう言った時、僕の胸はちくりと痛んだ。
 「そうなんだ」
 「それで、何を話すでもなく好史のことを見てたら、急に崩れ始めるの」
 「えっ、何が?」僕は、すぐにはその状況が思い浮かべられなかった。
 「好史が。ボロボロって。泥みたいになって。本当に浮ュなって、叫びそうになるんだけど、身体が動かないの。その辺で夢だってことは分かるんだけど、やっぱり寝ている自分の身体は動いてくれない。その上、好史が崩れていく夢が、勝手に私の頭の中に流れ込んでくる。起きてるのに、夢を見させられている感じがして。それが浮ュて、最近あまり眠れないんだよね」
 「夢だと言っていいのか分からないけど、浮「体験だね」と、僕は言った。
言いながら、僕はこうして村谷さんの所に居ていいのだろうか、という思いが、勝手に頭に浮かんでくるのを感じていた。
  「村谷さん」僕は言った。「俺は村谷さんを慰められているだろうか」
 「えっ」村谷さんは、小さく言った。
 「俺は、村谷さんのことを、少しでも慰めることができているかな」僕は、悔しかった。悔しくて仕方がなかった。そして、悔しくなっている自分を抑えられないことが、情けなくて仕方がなかった。
 「ダメだ。俺は自分のことしか考えられないクズだ」僕は席を立ち、伝票を取った。
 「違う、ちょっと待って」村谷さんの声が聞こえた。
 「ごめん、違うんだ。俺が悪いんだ。恥ずかしい話だよ」
僕は、レジで精算を済ませ、そそくさと駅に向かった。我ながら自分勝手だと思った。

十四幕は、ここで終わる。