尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

シジミのボタン

2006年04月01日 21時13分27秒 | 詩の習作
風のように
降りてくる沈黙は
いつも母の沈黙である
火事のように
遠くで誰かを呼ぶ声は
父の怒った声である
チロチロと
水の流れる
ひそひそ話は
赤子を売り渡す
市場の囁きであった

僕は
言葉を覚えようと
しなかった
シジミの目と
口を体の
ボタンにして

降りてくる沈黙は
いまでも母の沈黙である

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奇妙な影

2006年04月01日 00時51分42秒 | 詩の習作
陶器のテーブルには
パンと葡萄酒が置かれていた
あなたは
あなたの形で
わたしは
わたしの形で
まぶしい
初夏の光をまねた
ライトを浴びつづけ
アドリブの
おしゃべりは絶えなかった
ただ
ふたつの影は
影絵のように
黙っていた

奇妙なことに
影が
立ち上がらなければ
われわれは
おしゃべりを止めることも
立ち上がることもできなかった
それぞれの影に
導かれて
舞台の上手と下手に
別れた

上演の期間中
われわれは
夫婦のように暮らしていた

陶器のテーブルは
陶芸家に返され
葡萄酒は
アル中の小道具係が飲み
カビの生えたパンと
すべての台本は捨てられた
演出家は気が狂い
彼と噂のあった女優
つまりあなたは行方不明だ

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