「キューブリック・ハウス」
恋人たちが去ったあと
冬の公園の日だまりを
見知らぬ鳩が埋めていた
ノアの放った鳩の末裔だろう
噴水が高くなると水を怖れ
噴水の形で飛び去った
キューブリック・ハウス
その夜
見知らぬ詩の一行目が降りてきた
音符のように咥えられている
オリーブの葉を探したけれど
見出し得ないまま
終わりの行が
ふんわり着地した
キューブリック・ハウス
灯りを消すと
丸い思い出の日だまりでは
すくめる首でリズムをとって
昼間の鳩が遠ざかっていく
そうさ男まで
糧を求めてさまよう一日の終わりには
平和の象徴の鳥と同じ大きさに
縮んでしまう
その名前のない男の物語を
僕は今日も生きた
羽ばたきのかわりに
寝返りをうって
彼の一行を明日へと改行すると
キューブリック・ハウス
ここはなお方舟の底ではないか
お前こそノアの末裔
とばかりに闇が揺れたのだ
陽はまた昇る
夜が明ければ
ふたたび
自分をまぶしい空へ
放つだろう
おおい
鳩よ
※鳩は夕方になってノアのもとに帰ってきた。 見よ、鳩はくちばしにオリーブの葉をくわえて いた。ノアは水が地上からひいたことを知った。 彼は更に七日待って、鳩を放した。鳩はもはや ノアのもとに帰ってこなかった。
(創世記八章一一~一二節)