ベリーダンススタジオ★☆★ぱわふるマドンナ★☆★ 主宰・坂口せつ子 

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すてきな命 vol.14

2007-04-02 22:34:22 | すてきな命
 豊田喜雄さん、八十二歳、吾妻郡長野原町川原湯温泉で「やまた旅館」を五十六年経営してきた。妻である小富士さん八十三歳の作る料理はおいしい。一ヶ月前、四百八十年の歴史ある川原湯神社が火事のため全焼してしまった。あまりのショックに膝から力が抜け、全身が震えた。この町の入り口に「八ツ場ダムに沈む川原湯温泉へようこそ」という大きな看板がある。建設省が四十九年前に、突然ここにダムを造ると一方的に告げ、町民はこぞって反対運動を続けてきた。

 豊田さんも生真面目に反対運動を続けた年長者の一人だ。「もう手が震えて書けないんだよ」と言って、私に新聞の切り抜きや燃えたあとの神社の写真とともに手紙をくれる。私の宝物だ。

 豊田さんは「湖底の蒼穹(そら)」という本の中で『この世去る時来るともふるさとを湖底に沈めることは許さなじ』と歌っている。もう、多くの同胞が死んでいった。自然環境の厳しいこの土地で、先祖から受け継いだ生きていくための多くの知恵といっしょに、この大地がダムの底に沈む。この事実は悲しい。川原湯を夜歩くと、ネオンの無い昭和の初期に戻ったような温泉街、暖かい人々、風や川の音、虫や鳥の声、生きている森、心洗われる。やはり悲しい。
(坂口せつ子)

(高崎市民新聞 2001/5/24)

すてきな命 vol.13

2007-04-02 22:32:17 | すてきな命
 ヴァイオリンの音が響くと、からだをくねらせ、笑顔を見せ、声を出した。「めぐちゃん」が喜んでいる。めぐちゃんは産まれた時、心臓と呼吸が五分間も停止してしまいましたが、現代医学と本人の生命力によって一命をとりとめることができました。でも、そのために重い障害を持つことになってしまいました。

 食事をすることも、お風呂に入ることも、歩くことも、誰かの手を借りないと一日を生きていけません。そして医療的支えを必要とします。そんなめぐちゃんのお父さんは、「めぐみのように一番弱い人たちが暮らしやすい社会は誰もが暮らしやすい社会」と考えています。穴澤雄介のヴァイオリンの音色をめぐちゃんが聞くのは一年ぶり二回目。一回目のとき、私はめぐちゃんが喜んでいるのか、うるさがっているのか、いやがっているのかわからなかった。めぐちゃんにこのところ数回会いに行った。喜びとそうでない表情が少しわかる気がするようになった。人間は、現場に居合わせないと、苦しみも、哀しみも、喜びも、伝わらないことが多い。バランスのとれた社会づくりのためにも、めぐちゃんからのメッセージを受け取ることは、何より大切なことと思う。めぐちゃんが私を見て「ニコ」とわらってくれた。
(坂口せつ子)

(高崎市民新聞 2001/5/10)


すてきな命 vol.12

2007-04-02 01:14:52 | すてきな命
 五月三日からシティギャラリー「すてきな命」展に、写真を展示する。険しい極寒の山々で撮られた写真だ。マイナス四〇度、十五分間立ち止まっていると死んでしまう。気がつくと、汗が二十センチ位のつららになっていたりする。衣食住と生きる為のあらゆる知恵を必要とする。吹雪の中、重いカメラでダイヤモンドダストを撮った。雪と氷と光のハーモニー。二年前、「カムチャッキーの巨人」という写真集を出した。恐ろしくも美しい果てしないカムチャッカの自然の写真集だ。橋本勝さん、蔵前産業株式会社の社長でもある。なぜ山へ登るのか。お金が通じない世界への魅力。常に自分との戦い。そして助け合うしかない。登った人がすごいのではなく、助けた人が大切という。一人の力ではなく、全体の問題。持ち場の人が責任を持って仕事をすることが大切。会社も山も同じ。まちがいはまちがいと言わないと全員が遭難してしまう。スイスではアルピニストでなければ村長になれないそうだ。山の厳しさを経験し、身に付けたあらゆる知恵は、責任ある仕事をする人々の栄養源であることを橋本勝さんは証明してくれる。そして大自然への愛しさ、世の為に役立とうとする男らしさに大ロマンを感じる。
(坂口せつ子)

(高崎市民新聞 2001/4/19)


すてきな命 vol.11

2007-04-02 01:02:52 | すてきな命
 「オーイ、お兄さん、ジュースおいしかったよう。ごちそうさま、気をつけて雪かきしてね!」。私とファーストフード店から車で出るとき、閉めた窓の外にいる青年に向かって、聞こえるはずもないのだが、大きな声であいさつをした。「てっちゃん」と私が精神科であったとき、彼は十六歳だった。私にはてっちゃんと同じ年頃の、離れて暮らしている息子がいる。てっちゃんと息子は重なる。店で、てっちゃんとジュースを飲んでいたら、ピカピカ高校生ギャルが座った。制服をミニではき、膝をひろげてタバコを吸っている。てっちゃんは私に、真っ赤な顔をして「かわいんね」を繰り返しうつむく。ああ、てっちゃんは、なんてかわいい!

 何年か前に施設に移ったてっちゃんは、とても健康的になった。お母さんは小さいときに亡くなり、お父さんは一年に一度来るという電話があって、来なかったりする。そんなことを私に「お父ちゃんは忙しいんだよね。そうだよ、忙しいんだ」と大きな声で言って、下を向いて涙ぐむ。「エアロビクスの先生に会えて今日はいい日だなあ」そんなことをいつも言ってくれるてっちゃん。ゆとりを持ってもっと会いに行きたい。てっちゃんのことを思うと元気になる。
(坂口せつこ)

(高崎市民新聞 2001/4/5)