第12回日本ホラー小説大賞受賞作
(ホラー大賞って、まだやってたんだ…っと少々驚いた)
本の帯に「激賞」って書いてある
「激賞」=さかんに褒める(国語辞典より)
「絶賛」=この上もなく褒める(国語辞典より)
さかんに褒められるよりも、この上もなく褒められた方が…上かね?
なんぞと思いながら、この本を手に取った(笑)
色々と面白い本や漫画を紹介してくれている「小耳書房」のさくらどんのオススメ
※さくらどんのレビューはコチラからどうぞ~
神社のお祭りには、参道を利用し夜店の屋台が並ぶ
子供だった私は、右手で父親の浴衣をつかみ、左手に綿菓子とヨーヨーを持ち
頭には、鉄腕アトムのお面をかぶっていた
そろそろ帰ろうかと、夜店の並ぶ参道から一歩外れると
参道からの薄明かりに照らされた、ほの暗い闇が広がっていた
祭りから離れれば離れるほど、闇が濃くなっていく
夜店の喧騒で今まで聞こえなかった下駄の鈴が、チリンチリンと闇になじむ
前方の闇から、アコーディオンの、もの悲しい旋律が聞こえてきた
暗闇に慣れてきた目で見ると、白い着物を着た数人の男達が演奏している
戦争で片腕や片足をなくした男達が、物乞いをしているらしい
恐怖よりも好奇心の方が勝った私が、そちらへ駆け寄ろうとすると
父親の重い手が私の肩をつかんだ
「行ってはいけないよ」
その言葉の意味が解ったのは、それから数年あとである
白い着物を着た男達は、片腕や片足が戦争で失われたように見せかけ
小銭を稼いでいたのである
夜店の並んでいる明るいところにも、嘘・偽りが渦巻いていたが
夜店から外れた暗いところにある嘘・偽りには、物悲しさが漂う
っというのは、私の体験だが…(笑)
このお話の「夜市」では、
恐怖より好奇心の方が勝った少年を、止める大人が側に居なかった
しかも、少年が飛び込んでしまった「夜市」は、
人ならぬ者たちが、尋常ではない商品を扱い売る「市」であった
大きな代償を支払って、「夜市」から脱出できた少年は
その代償を取り戻すために、ふたたび「夜市」へと出かけていく
ふむ。なかなか面白い(笑)
ところで、大賞をとったこの作品「夜市」よりも、読者に評判が良いのは
一緒に収録されている「風の古道」の方である
この歳になっても、相変わらず落ち着きのない私だが
子供のころは今よりも、もっと落ち着きのない子供であった
落ち着きがないうえに、好奇心旺盛であったから、手がつけられない
町内に私の知らない道はないっと豪語してやまないほど
あちこちに入り込み、もぐりこみ、登っていた
ある日、駄菓子屋の吉田商店で買った、5円の紐付き飴を口に含み
町内の探検をしていると、紙芝居のオヤジが屋台をひいて歩いていた
ポケットを探らなくても、小遣いがないのは解っていたが
遠くからでも話の内容を見聞きすることはできるだろうと、後を付けた
飴をしゃぶりながらトボトボと後を歩いていったが
紙芝居のオヤジは、いっこうに店を開く気配がない
フっと気が付くと、私は迷子になっていた
来た道を急いで引き返したが、見知った道には出ない
紐の先の飴はもう消えていたが、
紐だけでもしゃぶっていなければ、泣き出してしまいそうで
口から垂らした紐をなびかせ、私は、見知らぬ道を走り出した
どこをどう通ったかは解らないが、空に「松の湯」の煙突が見えたので
煙突目指して塀を乗り越え、無事に家へ帰りついた
っと言うのも、私の体験なのだが…(笑)
この「風の古道」では、幼いころに体験した「迷子道」へ
もう一度、友人と二人で入り込んでしまうというお話。
ここで言う「迷子道」とは、人ではないモノ達が便利に使う道で
我等人間が普段使っている道の、ちょいと横に存在している
そこで見聞きした不思議な話が面白い
子供のころに後を付けた紙芝居のオヤジですら
迷子になって見ると「お化け」に見えた
それが、本当に人でないモノだったら・・・(笑)
どちらの作品も、皮膚に泡が立つような怖さはない
私の思い出話が読めたのなら、大丈夫。読める(笑)
風の古道は漫画の「蟲師」に世界が似ている気がする
続編が出てもおかしくないほど、シッカリとした世界が出来上がっている
どちらも面白かった。
つい…風呂で読んで、湯あたりしてしまったがな…(ハハハハハハ)