桂文生の噺、「権助魚」(ごんすけざかな)によると。
奥様、権助を呼び出し、「最近のご主人は様子がどうもおかしい。どこにその女性が居るか知ってますか、また、知らなければ後を付けて教えて欲しい。それには何でも買ってあげるから言いなさい」、「それでは、今川焼きを」、「どちらなんだい」、「この前を行って三河屋さんを入った所です」、「そんな近くに女が・・・」、「いえ、今川焼き屋が」。
「そうじゃなく、女の家だよ」、「それは知んない」。と言う事で奥さんに1円貰って買収され、亭主の後について、女の家を探る事になった。
亭主に権助をお供に付けて家を出したが、ご主人悟って権助に2円をあげて寝返らせた。
作戦は「家に帰ったら、『旦那さんは両国橋で中村さんにバッタリ会って、柳橋の料理屋さんに上がって芸者さんを揚げてドンチャン騒いで、日和が良いので隅田川に出て網打ちをした。そして旦那さんは明日の昼頃湯河原から帰ります。』と言い、魚屋さんで網打ち魚を買って、これがそのお土産だと言えば家内も納得するだろう」。
ところで「網打ち魚はさっきの2円から買うのか、改めて貰えるのか」。改めて1円貰って右左に。
権助、魚屋で網打ち魚を物色。「これは何ですか」、「それはニシンとスケソウダラで、当然網で捕ったものだよ」。「貰っておこう。目にワラを通した、これは何ですか」、「目刺しで、それも網捕り魚だ」、 「貰っておきます。ここに赤く足の多い魚は何です」、「日本人か?それはタコだよ。赤いのは茹でたからだよ」、「網捕り魚なら貰っておきます」。「ここに板っ切れに乗った白身魚は何ですか」、「蒲鉾だよ。それも網捕り魚だ」、「貰いましょう」。と言う事で、意気揚々と家に戻ってきた。
奥様に早速ご報告。「旦那さんは両国橋で中村さんにバッタリ会って、柳橋の料理屋さんに上がって芸者さんを揚げてドンチャン騒いで、日和が良いので隅田川に出て網打ちをした。そして旦那さんは明日の昼頃湯河原から帰ります」。「権助、ちょっと待って頂戴、お前が出たのが2時ですよ、今は2時25分じゃないですか。25分の間に芸者揚げてドンチャン、その上網打ちなんか出来ないでしょ」、「出来ましたよ。ほれ、この通り網捕り魚持ってきました」、「見せてご覧なさい」。
「始めに来たのがニシンとスケソウダラで」、「嘘おっしゃい。それは北海道の魚です」、「デモ行進があって、旗立てて東京湾から隅田川を上がって来たとこ捕まえた。その次に泳いできたのがこの目刺しだ。はぐれちゃいけないと言ってワラ通して団体で来た。その後に来たのがタコで、網で捕ったらガタガタ震えていたので風呂に入れたら真っ赤になった。その後に来たのが蒲鉾で、泳ぎを知らないから板につかまって来た」。
お清に出刃包丁を取りにやらせた。タコは海の魔物だから、これを食べたら、どんな人間でも本当の事を言ってしまうので、権助に食べさせると言う。
「さあ、お食べ」、「奥さん、その手は食わねえ」。
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