古今亭志ん朝の噺、「三枚起請」(さんまいきしょう)によると。
江戸にはカラスが多かったので、「三千世界のカラスを殺し主と朝寝がしてみたい」という時代の噺です。
通りかかった亥のさんを呼び止めた棟梁です。
母親が言うには遊びが過ぎていると、心配しているがその訳を聞くと、吉原にお気に入りの女の子(女郎)が出来て、女の子は自分に夢中で、相思相愛の仲だという。
年期(ねん)があけたら一緒になろうと話し合っている。
「年期(ねん)があけたらお前のそばにきっと行きますことわりに」と言う事もあるから気をつけろと注意すると、堅い物があると言って見せる誓紙であった。
見ると「一つ起請文の事也 私事、来年3月年期が明けそうらへば 貴方様と夫婦になる事実証なり 新吉原江戸丁二丁目朝日楼内喜瀬川こと本名中山みつ」。
棟梁は考え込んでしまった。
この女郎(おんな)は元品川にいて、去年吉原に住み替えてきた。
歳は二十五で、色が白くて、チョット小太り、目はパッチリしていて・・・、そうだと言われ、起請文を投げ出す棟梁、慌てて拾う亥のさん。
「だから見せたくなかったんだ、その上クシャクシャにして」、
「そんな物欲しかったらやるよ。俺だって持っているんだ」、見ると全く同じ物だった。
亥のさんより前から、品川時分からの付き合いで、来年3月年期があけたらと付き合い、未だ独り身なのはその為だという。
二人とも騙されていたのだった。
そこに清公がやってきた。
おしゃべりの清公と言われ、立腹したが、「亥のさんが起請を貰ったが騙されたからおしゃべりするなと言うとこに、お前が来たので『おしゃべりするな。清公が来た』となってしまった」、と逃げをうった。
腹に収めて「そーぉ、騙されたの。その誓紙見せてみな」。
みるみる顔色が変わってきた。
同じ喜瀬川だった。
「もう一枚出そうだ」と亥のさんの突っ込みにも、真顔で事情が少しばっかり違うのだという。
「山谷の仕事帰り吉原で登楼(あがった)ら喜瀬川が出てきて親切にしてくれた。
本物かと思って裏を返したら変わらず、馴染みになってしまった。
暮れの事『20円都合してくれ。他の人に頼んで年期あけの時ゴタゴタするのはやだからアンタに頼む』
と言われ『それはそうだ』と帰ってきたが文無しで、妹に頭を下げて夏冬の着物を借り出し
質屋に持っていったが木綿物で6円にしかならなかった。
もう一度妹に頼み前借りしてもらい金を作った。
女郎(おんな)は喜んで、その時書いてくれたのがこの誓紙だ。
騙された俺はいいが、暑さ寒さで苦労している妹を思うと不憫でならねぇ」。
分かるが暴力で訴えると野暮になるからギャフンと言わせてやろう。
と言う事で夕方待ち合わせて吉原に出掛けた。
見世に揚がって女将(おかみ)に話すと、女将も騙されていたという。
二人を戸棚や屏風の陰に隠れさせ、棟梁が一人対応する事になった。
丁子が立ったから待ち人が来るかと思ったらその様になったと、喜瀬川は喜んで部屋に入ると、
棟梁はしかめっ面をしてキセルをふかしていた。
なだめすかしていたが、
「私もタバコを吸いたいよ」、
とキセルを受け取ったが、ヤニがイッパイで吸えない。
通してあげるからと紙を渡されたが、それが誓紙。
「それは広告だろ」。喜瀬川の怒る事。
「やめろぃ、ピイピイ騒ぐな。誓紙って何枚書けば気が済むんだ」、
「一枚に決まっているだろう」。
「唐物(とうぶつ)屋の若旦那亥のさんにも書いただろ」、
「亥のさん?あ~~、若い、白くてブクブク太った、水瓶に落っこったおまんま粒みたいの」。
「水瓶に落っこったおまんま粒、出て来な」、
「水瓶に落っこったおまんま粒とは何事だ」と飛び出てきた。
「そこにいたの。白くて綺麗」、
「まてまて、経師屋の清さんにも渡したろう」、
「二人だけだよ。清さん? あ~、ヒョロヒョロと背の高い日陰の桃の木みたいのだろ。背が高いだけでキザでやな野郎なんだ」。
「お~ぃ、日陰の桃の木、出て来な」、
「日陰の桃の木とはなんだ」、
「スラッとして様子がいいよ。どうしたの。あっ、そう~、・・・騙されたからと言って3人で掛け合いに来たの。 ふん。
何言ってんだよ。
こっちは騙すのが商売。
殴る蹴るがしたかったら、私の身体には金がかかっているんだ。
店に行ってお金を積んでからやりな。
どうするんだぃ。ハッキリしなぁ」、
「ふん。大層な啖呵切りやがったな。
言われなくても分かってらぁ。
起請を書くような汚い真似はするねぇ。
いやで起請を書く時は熊野でカラスが三羽死ぬと言うんだ」、
「あ~ぁ、そうかい。私は嫌な起請をどっさり書いて世界中のカラスを殺したいよ」、
「カラスを殺してどうするんだぃ」、
「勤めの身だぃ、朝寝がしたいよ」。
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