ついに「パワードスーツ」の時代がやってきた-。
政府は平成27年度防衛省概算要求で、「高機動パワードスーツ」の研究開発費として9億円を計上、本格的に兵士の“強化”に乗り出した。
一方、ほぼ同時期にお隣の韓国でも「未来戦闘兵システムと戦闘ロボット」の開発を発表した。
こちらはテレビでよく見られる戦隊ヒーローのような外観で、装甲化された歩兵を目指すという。
ところが、韓国国内では「旧式装備の更新が先だろう」との批判が噴出。
過去に大失敗に終わった“不良ロボット”に対する不信感もあり、実現性に疑問符がつけられている。(岡田敏彦)
自衛隊初のパワードスーツは実用性重視
防衛省が研究開発に乗り出すのは、大小の火器や暗視装備など個人用の装備品を装着または携帯した隊員が迅速に行動できるようにアシストするための高機動パワードスーツ。
パワードスーツという概念が生まれた元祖は、ロバート・A・ハインラインのSF小説「宇宙の戦士」に出てくる強化防護服で、人気アニメ「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツのヒントにもなったともされる。
防衛省が目指しているのは前者に近い等身大のもので、人が装着することをイメージしている。
防衛省によると、パワードスーツの目的として「島嶼(とうしょ)部攻撃等への対応」と「大規模災害等への対応」をあげている。
対戦車兵器などの重量物を携えながら迅速に活動できることや、災害時に要救助者を背負って安全な場所まで搬送するなどの利用を考えているという。
防衛省発表のイメージ図をみても、現在民間企業が開発しているお年寄りのリハビリ用や農作業用として実用段階に入りつつあるものと似た形。
両脚の外側と腰に装着するタイプで、民間用よりも防塵・防滴性能を向上させるなどのヘビーデューティー仕様になる。
同省では平成12(2000)年度にも重装備の運搬を助けるパワードスーツを試作しており、最新タイプはこれよりも着実に進化させたものとみられる。
また、今年度は両腕を持つ“ロボット”も導入するが、こちらは履帯で動くショベルカーのアームを2本にしたような形状。
どちらも未来兵器を思わせる斬新なデザインではなく、あくまでも実用性を重視した現実的な仕様になっている。
韓国の「未来兵士」は近未来的なヒーロー?
一方、韓国軍も昨年11月、「アイアンマンと類似した未来戦闘兵システムとロボット開発に着手する」などと発表した。どんな装備になるかの参考となるのは、韓国軍などが2013年11月に発表した10年後の「未来兵士」だ。
それによると、黒ずくめの外観に通信機器を内蔵したフルフェイスのヘルメット▽個々の兵士の血圧や脈拍を軍司令部で把握できるセンサーを備えた新素材の防弾ベスト▽手足はパワーアシストで半ロボット状態▽アームは銃とスマートフォン同等のシステムを装備し、攻撃と通信を同時に行える-などなど。外観も、テレビでおなじみのヒーロー戦隊ものや米国の大ヒット映画「アイアンマン」に近い。
韓国軍が開発に着手するのは、こうした近未来的なタイプだと韓国内ではみられている。
「不正の温床」「旧式装備の更新が先」と猛反発
ところが、この最新鋭装備に韓国の若者たちが猛反発している。
韓国では昨年、軍の救難艦に軍用ソナーと称して安価な魚群探知機を納入し、関係者が賄賂を受け取っていたことが発覚。
以前から装備品をめぐる不穏な噂が絶えなかったことも手伝い、今回の装備開発についてもネット上では「また軍に不良装備が納入され、誰かの懐が潤うのか」などとまことしやかにささやかれている。
さらに、徴兵制の弊害もある。
韓国では基本的に男性全員が徴兵され、毎年約20万人が入隊し、約2年間の軍務に服する。働き盛り、あるいは大学で学んでいるべき若者約40万人が国の経済活動から切り離され、その衣食住はすべて税金で賄われている。
中央日報などでは、韓国の大学卒の初任給は日本より上だとしているが、一方で徴兵された二等兵の月給は約11万2千ウォン(約1万1千円)という貧しさ。
ここまで切り詰めなければならないほど、軍は慢性的な予算不足に陥っている。
それだけに、最新の“アイアンマン装備”にも徴兵経験者らは辛辣(しんらつ)で、「水筒やガスマスクすら1970~80年代の旧式なのに」「新装備導入より先に防弾チョッキをそろえるべき」「まずライフルにスコープをつけろ」と、軍の実態を知り尽くした本音が噴出している。
時速9kmで泳ぐ高性能「魚ロボット」
そして、以前に大失敗に終わったとされる「魚ロボット」の存在が、不信感に拍車をかけている。
李明博・前大統領は在任中の目玉事業として、貯水量増大などを目的に漢江(ハンガン)など国内大規模河川に16カ所の堰(ダム)を設ける「四大河川事業」を実施した。
現地紙ハンギョレ(電子版)などによると、工事直後に堰が崩れるなど欠陥が発覚、治水面でも効果がなく巨額の予算を投じたのに「大失敗」と評価されている。
この事業の環境評価のために開発されたのが、問題の魚ロボットだった。
中央日報や聯合ニュース(いずれも電子版)によると、開発は2010年から3年間にわたって行われた。
事業計画書では、秒速2・5メートル(時速9キロメートル、約4・9ノット)の高速で泳ぎ、ほかのロボット魚とデータリンクして群れを作り目標に到達するなど、斬新な高性能をうたっていた。
欠陥だらけで結局は無駄金に
ところが、実際に監査院が昨年3月に試験したところ、仰天の事実が明らかになった。
計画では秒速2・5メートルで泳ぐはずが、テスト時には秒速23センチと10分の1。また、魚ロボットには水温や酸性度、濁度などを測定する5種類のセンサーを装備するはずだったが、試験時には濁度の測定センサーは欠品。
残る4種類のセンサーのうち、ちゃんと作動したのは電気伝導度センサーだけ。
ほかの魚ロボットとの連携プレーについても、連携(データリンク)に必要な水中での通信性能は、計画書では通信速度4800bps、距離500メートルだったが、試験での実力は200bps、50メートルと無惨な結果に。魚ロボット同士の群集制御や位置認識に関しても、製作された9台の魚ロボットのうち7台が故障したため「試験ができなかった」(韓国監査院)という有り様。
結局、総事業費57億ウォン(約5億7千万円)が無駄金となった。
「そもそも必要か」と疑問の声
韓国ネイバーニュースは「あらゆる不正を搭載したロボット魚の登場だ」と皮肉をこめて報じたが、それもそのはず。そもそも河川の水質検査で魚ロボットが本当に必要なのか、と指摘する声もある。
よくよく考えてみれば、調査員がボートに乗れば済む話。橋の上から調査機器を吊り下ろせば、ボートすら不要だ。
それなのに、高速で泳ぐ魚ロボットに何の意味があるのか、さらにその速度でバッテリーが何時間持つのか、どんな運用と回収を行うのか-など疑問ばかりが浮かび上がる。
技術だけでなく、要求性能の設定や開発環境にも問題があるなかで登場する“韓国版アイアンマン”。いろいろな意味で、独創的な一品になりそうだ。
中国では「防御力低いアイアンマン」登場
ちなみに、中国ではさらに驚きの「アイアンマン」が登場して話題になった。
今年1月、大量のアイフォーンを中国に密輸入しようとした香港の男が逮捕された。
94台ものアイフォーンを体中にテープで巻き付け、まるで体をアイフォーンの鎧で覆っているような状態だった。上から服を着て隠していたが、関節がほとんど動かず姿勢も動きもおかしいことから、税関で即座に見破られた。地元マスコミは「防御力が極端に低いアイアンマン」と報じられている。
FaceBookに戻る