最近、征希(4期生・カイロプラクティク自営)の治療はカリスマ性を帯びてきている。
的確なのだ。
こちらの身体に気がかりな箇所があると、場所を言わなくとも征希の指が探り出す。
先週の治療では右ひざの状態がよくないことを宣告された。
しかし同時に津シティマラソンを走れるための治療も試みてくれた。
右ひざが外に開く傾向にあります。それをロックします・・・厳かにカリスマはのたまう。
「一度も後ろを振り向かなかったよ」
アキラの親父は言う。
「征希の治療のおかげで自由の翼・・・前へ跳んでいくようだった。そう・・・絶好調だったんだ。記録がそれを証明している・・・22分7秒」
5kmの号砲、またぞろ千葉真子により轟く。
一斉に5kmマラソンの走者が走り出す。
森下の姿が見てとれる・・・なにしろ180cmのタッパだ。
アキラの親父とアキラはそのあたりにいるんだろう。
しかし、ハナッからアキラの親父は飛ばすはずだ。
5kmマラソンのスタートを見届けると、俺とブーちゃん、そしてミスマッチの2人組が移動を開始。
同じ敷地内だがかなり離れたところにあるジョギングのスタート場所に急ぐ。
並んでいると前の小道を2kmマラソンの走者が疾走していく。
その中に千葉真子、手を差し出す沿道の人たちと握手しながら走っている・・・手馴れたものだ。
5kmマラソンに10分送れてジョギングスタート。
考えてみれば学生時代を除けば、人といっしょに走るという行為は始めての経験。
今までは一人、そしていつも深夜だった。
BGMはいつだって車のエンジン音。
それが今は人のざわめきや沿道の歓声・・・これならウォークマンはいらない。
さっき「ウォークマンを忘れてきた」と言って後悔していたのは森下。
あっちはどうなってる。
「最初っから親父についていこうとしてたんですけどね。スタートダッシュか、するすると前のほうに・・・必死に追いかけましたよ。なんとか視界から逃さないようにって・・・それもあってか、1kmのラップも2kmのラップもいい。折り返してからがきつかった。だらだらと続く上り坂、それでもなんとか親父の背中を視界にとらえてスパートしたんですよ」
里恵は携帯のカメラを構えてゴールに続く曲がり角に陣取っている。
「来た!」
親父が駆けてくる。
「えっ!」
その後ろに苦しそうな形相、でもなんとか追いつこうともがいているアキラ。
親父がゴールに続く曲がり角を曲がる。
その刹那・・・。
「曲がるときは電光掲示板しか見てなかったよ。アキラが後ろに付いていたなんて全く分からなかった。だって・・・俺は絶好調、この調子なら絶対にぶっちぎり・・・そう思ってたさ」
アキラの親父、22分7秒。
そしてアキラ・・・22分6秒。
ちなみに今日アップした
里恵のブログの
写真・・・アキラに抜かされた一瞬の親父の唖然とした表情を捉えている。
打ち上げは『ありがとう』
遅れてやって来た征希が尋ねる、「で、結果はどうでしたか」
「めっちゃくちゃ調子は良かった。・・・しかし負けた、1秒差で負けた」と親父。
「そうですか、絶好調でも負けたと・・・つまり、原因は年齢ですな」
座敷は笑いに包まれた。
『ありがとう』で親父はアキラに負けた金を払ったらしい。
1秒40円・・・そして1秒差でまさに40円。
50円玉をアキラに渡し、「釣りはいらん。取っとけ」
鈴木のセンセは今夜も塾に泊まりだ。
奥さんには二泊三日と言って出てきたという。
勉強する中3が減ってきた午後11時半頃、いつものように水を向けてみた。
「センセ、ラーメンでも食べに行こか」
しばしの沈黙の後、「いや、ええわ。減量せなアカン」
クリックのほう、ほんまにお願いします。