村林先生の『高校生レストラン・今日も満席』のなか、料理の技術を教えることに腐心したがため、料理人の心を教えることを忘れたことを後悔する記述がある。
相可高校で過ごす3年間は過酷だ。
その過酷な時間に比例するかたちで、高校生のレベルを逸脱した料理の基礎を身にけることができる。
最近ではメディアの露出も激しい。
ついつい有頂天になるのを理解できる。
しかし、卒業後に待っているのはそれまでの技術をリセット、料理人の第一歩から始めることになる。
単調な皿洗いなど、なまじ過酷な3年間を経てきた自信からバカらしいと思うやもしれぬ。
その危惧からだろう、村林先生は常に生徒を諌める・・・頭に乗るなと。
最近のテレビの番組でも、生徒たちのつくる汁の味がブレるのに村林先生は怒鳴りちらす。
「プロはどんな時にでも味にブレはない。それがオマエら素人とプロの違いなんや」
リアルタイムで相可高校食物調理科の保護者たちが危惧することがある。
食物調理クラブを体育会系クラブと見立てれば、家族をも巻き込む村林先生からの過度な要求にもまた納得することができる。
しかし、クラブを真面目にしていればそれでいい、高校生としての教養や知識は二の次だ・・・そんな声も聞こえてくる。
試験の成績が悪くとも、クラブのほうが大変であることも加味されるのか、なんとか容赦してもらえる。
まあ、甲子園を目指す高校ではよくあることだが・・・。
ありがちな陰口に加え、相可高校ゆえの噂話がある。
生徒たちがつくる弁当が増え続けているのだ。
この件についてはほとんどの保護者たちが不安な面持ちで見守っている。
先日話を聞いた高3の男の子によると、入学当初は弁当200個ほどをつくる程度だったという。
それが徐々に膨れ上がり、今では地元のお祭りなどのイベントがあると700個ほどになっている。
この弁当、普段は『ぎゅーとら』などで販売されているものだが、品性の卑しい俺とすればお金の動きが気になるところだ。
さらに平日には突発的に役場などから注文が入ることもある。
そんな時は午前5時や6時に集合となる。
電車動いてへんやん。
そこで保護者の出番となる。
平日の注文は数的には少ないが、平日ゆえに日常の高校生活へも影響は少なくない。
そして、それに伴う危惧がある。
今の状況では、それほどの弁当を仕出すだけの体制が整っていないということだ。
去年、数名の高2がクラブを辞めたことで、一人一人にかかる負担が増している。
この弁当、クラブの運営上の問題から断ることができないのだろうか・・・。
あるいは村林先生の人の良さ、頼まれたら嫌と言えない性格ゆえなのか・・・。
ともかく、「生徒たちは限界にきています」・・・保護者の声は悲痛だ。
このような保護者の懸念も村林先生の弟子たる高校生たちには届かない。
「でも、先生は僕たちのことをまず第一に考えてくれる」
イケメンの高3も、何度もそう言っていた。
「確かに村林先生の言葉や行動のなか、身勝手なこととか、理不尽なことととかはあります。それは事実ですね。でも、先生は本当に僕たちのことを考えてくれている。それも事実なんです」
保護者のなかに広がる懸念とは別に高校生たちは父親のように村林先生を慕っている。
「僕は、イエスマンじゃないですから・・・。ええ、そういう生徒はいますね、でも僕はそうじゃなかった。そんなのもあって就職については心配だったんですけど、先生がね、個人的にどんな店に勤めたいのかって聞かれて・・・。それで自分なりの希望を話すと、県内で一軒連れていってもらいました。そして県外もということで大阪の店にも行きました。結局はそこに就職することになったんですけどね。先生とそのお店で食事をしたんですけど、本当に感動して、すぐに決めました。ここで就職したいんですけどって言いました。すると、その場で話してもらって、その場で決まりました。でも家に帰ってから母親から条件面について聞かれたんですけど、そっちは全然聞いてなくって・・・怒られちゃいました。でも、村林先生はいろいろあるけど、保護者のなかでもいろいろ言われているけど、それでも僕たちのことを一番考えてくれてますよ」
「相可高校の食物調理科を受験したい」・・・そう、ご子息が言い出したなら覚悟していただきたい。
当然にして当人の覚悟は必要である。
しかし、当人以上に保護者こそが覚悟する必要がある。
わざわざ塾にご足労いただいた相可高校3年製のオケメンの兄ちゃんとお母さんに感謝します。
お母さんからは後日伝言もいただきました。
それによると・・・
「相可高校で暮らす3年間はつらいことや厳しいことも多いと思います。しかし、それを直視し、それを踏まえたうえで、それでも相可高校に入学して調理師の勉強をしたいという熱意が伝われば受かると思いますよ」
本当に感謝します。
同時に仲介の労をとっていただいた小林さん、ありがとうございました。
最後に、イケメンの兄ちゃんへ。
落ち着いたら君の就職先、法善寺の近くにあるお店に奥さんとお邪魔します。
支払いのほう、月賦利く?
まあ、店内で会っても、お互いに愛情ある無視でいこうや。
君とゆっくりと話すのは、君がカウンターの前で調理できるようになってからの楽しみにとっておきます。