スポーツライブ放送におけるAR体験の一例。ケーブルサスペンション式カメラの映像に選手情報
のCGを重畳している(出所:FOXスポーツ)
平均視聴者数が過去最多の1億2770万人を記録した、米国プロスポーツ界最大級のイベント「第59回スーパーボウル」が2025年2月9日(現地時間)、米国ルイジアナ州ニューオーリンズで開催された。
米国で圧倒的な人気を誇るプロフットボールNFLの優勝決定戦だけに毎年、話題に事欠かないが、今回、テクノロジーの観点で初の試みとなったのが、ライブ放送における拡張現実(AR)を活用した視聴体験だ。米フォックス傘下の「FOXスポーツ」などが手掛けた。
フィールド上空に設置した、コンピューター制御によるケーブルサスペンション(宙づり)式カメラシステム「スカイカム」のライブ映像に合わせて、選手のプレーデータなどをCG(コンピューターグラフィックス)で重畳して表示した。
動きのある俯瞰(ふかん)映像にCGを重ねるという、ダイナミックな演出が目的だ。
今回は初めての試みということで、選手が実際にいる位置に合わせてCGを表示するまでには至っていない。
しかし、今後、既にスタジアムに導入されている選手の位置情報を取得するシステムとの連係が実現すれば、より高度なAR演出を実現できる可能性があるという。
従来、こうした演出を実現するためには課題があった。ケーブルを伝わって動く宙づり式カメラの位置を高精度に把握することが難しかったのだ。
測位技術としては、Wi-Fiなど電波を利用するものや、スタジアム内に設置したカメラ映像を使うものがあるが、ARに利用するには精度が低い。
そこで、高精度な3D空間のトラッキングが可能な空間認識技術を開発するKudanのSLAM技術(自己位置推定と環境地図作製を同時に行う)が採用された。
位置を数センチメートル精度で計測
同社が開発したSLAM技術は、既に自律移動ロボットやドローンなどで採用されている。
今回のスーパーボウルでは、ミラーが内部で回転する機械式の高性能センサー「LiDAR(ライダー)」とスカイカムを組み合わせたシステムを構築した。
それをFOXスポーツの放送ワークフローと統合することによって、試合の動きとシームレスに連動するリアルタイムのAR演出を実現した。カメラの位置検出精度は、数センチメートルレベルだという。
宙づり式カメラと高性能センサーLiDARを組み合わせ、カメラの3D位置を数センチメートル精度で検出した
(出所:FOXスポーツ)
課題だったのは、放送用映像のリフレッシュレートが60ヘルツであるのに対し、LiDARによる測定頻度は1秒間に20回、つまり20ヘルツと低い点だ。
そこで、「SLAMのアルゴリズムの工夫によって60ヘルツで位置情報を算出できるようにした」(Kudanの項大雨最高経営責任者)という。この技術は特許取得を予定している。
今後、両社は他のスポーツイベントでも、今回のAR技術を活用した臨場感ある視聴体験を提供していくとしている。
(日経クロステック/日経エレクトロニクス 内田泰)
[日経クロステック 2025年2月17日付の記事を再構成]
関連リンク
- 日経BPの関連記事
- スポーツ事業を強化するソニー、米NFLと専用ヘッドセットも開発
- ハードウエアとAIの進化でXR再過熱、AGCは高屈折率ガラスで仕掛ける
- 世界トップのNFLも採用、スポーツ可視化制したソニーの次なる挑戦
- 技術とビジネスの最前線を伝えるデジタルメディア「日経クロステック」
日経記事2025.3.5より引用