中国は米国による対中関税引き上げに報復する=AP
【北京=塩崎健太郎】
中国政府は10日、米国から輸入する大豆やトウモロコシなどに最大15%の追加関税を発動する。
報復の第2弾にあたり、米国との関税対立は激化する。農産物への追加関税でダメージを与える狙いだが、国内の食料価格の統制にも同時に腐心する。
米国が4日に対中追加関税を10%から20%に引き上げたことへの報復措置だ。
中国が米国に課す15%の追加関税は小麦やトウモロコシ、鶏肉、綿花など29品目が対象になる。10%の追加関税の対象は大豆や豚肉、牛肉、水産物など711品目とする。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると24年に米国から輸入した740品目の金額は223億ドル(約3兆3000億円)で、対米輸入全体の14%となった。
2月に最大15%の追加関税を発動した液化天然ガス(LNG)や石炭などを含めると対米輸入全体の22%を占める。
今回の報復措置で関税の照準を米国産の農産物に当てた。第1次トランプ政権下の18〜19年の貿易戦争の際にも追加関税の的になった。
米国産大豆の購入予約の取り消しなど契約の調整を含めてトランプ米大統領を支持する農業票に揺さぶりをかける。
大豆など農産物への追加関税は中国国内にも影響が及ぶ。中国は大豆の8割ほどを輸入に依存している。大
豆の搾りかすは豚の飼料にもなっており、輸入価格の高騰で大豆が減れば中国人の食卓に欠かせない豚肉の供給減や価格高騰を招きかねない。
豚肉価格には当局も敏感だ。必需品の食材である豚肉の価格が上がれば市民の不満が募り、中国共産党への批判が高まる恐れがある。
1989年に当局が民主化運動を武力鎮圧した天安門事件も豚肉の価格高騰が一因となったとの指摘もある。
中国の輸入全体に占める大豆のうち米国産の割合は2割ほどを占め、ブラジルに続き2番目に多い。
17年は米国産の輸入割合は3割超だったが、当局はブラジルなどからの輸入を増やして対米比率を下げてきた。国内で大豆の備蓄も増やしてきた。
米国から輸入する際の関税率を上げても国内向けの供給や価格への影響を抑えるべく腐心してきたとみられる。
トランプ氏は大統領選で60%の対中追加関税を掲げており、税率をさらに引き上げる可能性もある。
中国の王文濤商務相は6日の記者会見で「米国が誤った道を突き進むなら、中国は最後まで付き合う」と強調した。
米中高官による協議はなく、早期収束に向けた糸口は見えない。
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トランプ政権の対中強硬姿勢をうけて「米中貿易戦争」が展開されているが、中国のこれまでの動きからは、強い焦り、危機感めいたものは、あまり伝わってこない。
理由は何だろうか。1つ考えられるのは、大豆について記事中でも触れられているが、トランプ政権1期目の「貿易戦争」の経験も踏まえつつ、ブラジルやアルゼンチンなど中南米と貿易関係の強化を、中国が着々と進めてきたことである。
ロイター通信が3月4日に、この点を取り上げた記事を配信していた。もう一つはややうがった見方になるが、中国の物価情勢が、米国のように「インフレ警戒」でなく「デフレ警戒」であることも、指導部の姿勢に微妙に影響し得ると、筆者はみている。
中国の立場に立って考えれば、第2弾の報復関税は賢いやり方と思われる。農家は穀物を輸出できなくなると、中間選挙で共和党に投票しなくなる。
一方、中国はブラジルなどから大豆などの穀物を輸入する。ブラジルが喜んでくれる。
むろん、これで関税戦争が終わるわけではない。トランプ政権はさらに厳しい第3弾を発動する可能性が高い。米中関税戦争はまだ序の口である。
中国からの報復関税でダメージを受けるのは米国の農業です。
農業従事者にはトランプ氏に投票した人が多いのですが、イーロン・マスク氏率いる政府効率化省が、農業向けの補助金も削減しており、トランプ政権下でかなり苦しい状況になりそうです。
来年11月の中間選挙を考えれば、トランプ政権は何か農業対策を考えるべきだと思いますが、その様子はまったくありません。
NPR(National Public Radio)の記事は、対中貿易戦争は昨年トランプ氏に投票した農民の忠誠心のテストになると報じております。https://www.npr.org/2025/03/07/g-s1-52362/tariffs-farmers-trade-china-mexico-canada
日経記事2025..10より引用