ウクライナ、鉱物資源の虚実　生産の実現性見極める市場（日経2025.3.9）

米国との停戦交渉で脚光を浴びることになったウクライナの鉱物資源。中身は埋蔵量データの裏付けのあるリチウムから、確たるデータの示されていないレアアース（希土類）まで様々だ。

期待感が高まる一方で、コモディティー市場からすると、虚実が入り交じり、不透明要因も多いように見えている。

ウクライナで今後の開発が最も期待され、科学的データや第三者機関による裏付けまでそろっているのはリチウムだ。

2022年2月、環境保護・天然資源副大臣は、国連欧州経済委員会で「ウクライナには世界の重要原材料の5%が埋蔵されている。とくにリチウムの宝庫だ」と発言した。

同時期に国立科学アカデミーが発表したリポートも、詳細な調査をもとに「リチウム推し」を鮮明にした。

主要な鉱脈は、楯（たて）状地と呼ばれる中央地域と東部ドンバス地方にあり、埋蔵量は50万トン近くだという。いずれ世界的な産地になる潜在性があるとみている。

こうした分析の信ぴょう性が高いとみられるのは、ロシアによる侵略が本格化する前に発表され、停戦に向けた交渉材料として持ち出されたわけではないためだ。

50万トンの推計が正しければ、欧州ではドイツ、チェコ、セルビアに次ぐ4位。エネルギー転換を図る欧州では電気自動車（EV）販売は将来的に伸びる予想で、電池向けのリチウムの確保が強く意識されている。

欧州ではEV向けにリチウム需要の拡大が見込まれる=ロイター

国際エネルギー機関（IEA）は40年の世界需要が21年比10倍以上に膨らむと予想する。

価格は22年に急騰し高値をつけた後、右肩下がりになったが、最近は需給調整が進み足元では底打ち感が出ている。世界の生産がオーストラリア、チリ、中国に集中する中、新顔のウクライナへの期待は高い。

ところが、開発にともなう不透明要因から、業界の関心も市場の反応もいまひとつのように見える。

リチウムを掘るには巨額の資本と時間が必要で、それに堪える開発企業を探すのは容易ではない。また、鉱脈のあるドンバス地方はロシアの支配下にあり、権益が不明確との見方につながる。

「私たちは環境保護運動の要求をすべて満たし、英豪資源大手リオティントとの契約に終止符を打った」。

埋蔵量が欧州3位のセルビアで22年1月、当時の首相がこう宣言した。鉱山開発が引き起こす環境破壊を懸念する運動が激しくなり、その後、進展するとの見方もあったが、現在まで開発に着手できない状態が続く。

各地の鉱山で水質汚染などの問題が起きる中、ウクライナも環境問題と無縁とは言えないだろう。

一方、突然のように注目を集め始めたレアアースは、期待が高い割に実態は必ずしも明らかではない。

「ウクライナのレアアースの豊富さは世界でもトップクラスだ。人工知能（AI）や兵器、軍事などあらゆることに利用し、我々のニーズを満たすことができる」。

米国のトランプ大統領は2月28日、当初は和やかだったウクライナのゼレンスキー大統領との会談でこう述べたが、肝心の豊富さを示すデータが見当たらない。

ウクライナの研究所のリポートなどでは17種あるレアアースのうち、スカンジウム、セリウム、ネオジム、エルビウムなどの存在を指摘しているが、埋蔵量は示していない。

一部は機密扱いもあるとみられるが、大量の埋蔵量があるにしては、世界の鉱物を毎年調査している米地質調査所（USGS）も把握していない。世界の埋蔵量は1億1000万トンと見積もっているが、そのうち4割が中国、約2割がベトナムとブラジル、その次にロシアやインドが続くが、ウクライナは入っていない。

「レアアースで現在開発中の鉱山や鉱床はない。

地質データの多くはソ連時代のもので、とくにレアアースについては鉱床の正確な評価を行うことは困難だ」（レアアースなどの調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス）という見方もある。

トランプ大統領が取得に意欲を見せるグリーンランドはネオジム、スカンジウムなど世界8位のレアアース埋蔵量で、データがあるのとは対照的だ。

ウクライナには欧州連合（EU）が重要としている34鉱物のうち22の鉱床があるという。グラファイト、チタン、ガリウム、銅、ウランなど過去に生産実績やデータの裏付けのある鉱物はたくさんある。

希ガスではネオンガスは、ロシアによる侵略前、「米国のチップ業界に半導体グレード用の90%を供給していた」（米戦略国際問題研究所=CSIS）という。

停戦が実現すれば、ロシアによる攻撃で寸断された鉱山やサプライチェーンが復活し、こうした資源の生産は回復に向かうとみられる。

ただ、新たに開発を進める資源については、中身の見えない箱に手を入れるようなもので、リスクを伴うことを見逃せない。

米国の一連の停戦に向けた動きに金属相場の反応が総じて薄いのは、生産開始の実現性を冷静に見極めている可能性が高いだろう。

（シニアライター　山下真一）

【関連記事】

マネー底流潮流

日経記事2025.3.9より引用

最新の画像［もっと見る］

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

	ブログを読むだけ。毎月の訪問日数に応じてポイント進呈
	【コメント募集中】歯間ブラシなどを使っていますか？
	訪問者数に応じてdポイント最大1,000pt当たる！
	dポイントが当たる！無料『毎日くじ』