雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

溺レる/川上 弘美

2010-03-27 | 小説
 オナニーに溺れたいようなときもあるけれど、一発抜いたらどうでもよくなっちゃうので「溺レる」って表現はちょっと違うなぁ。しいていうなら「一発撃沈」……激チン?

 それはさておき、川上弘美さんの『溺レる』。愛憎(愛欲)に溺れまくっている男女を描いた短篇集。主人公の女性たちはことごとく、とりとめもなく、飄々と愛を模索しているよう。そして男たちは、たぶん世間一般ではダメな部類に属される者。そんな男女の溺れる様は、ともすれば粘着的で執拗でもう、ぐっちょぐちょ、な描写になろう。なってしかるべきだ。が、ならない。やってることは、ぐっちょんべっちょんなのに、精液の匂いさえ漂ってきそうなのに、どこか淡々としている。決して、感情を排している風でもない。女たちは愛の掴みかたに四苦八苦しているし、愛しさの向こうを模索したりしている。だから、折に触れ、スッと言葉が入ってきて切なくもなる。溺れだして息苦しくもなる。それでもまた、とりとめなく、冷ややかな距離を置いて、動き出す。

 ああ、そうか。得てして「恋愛」なんてものは、そういったものだな。と、今書いていて気付いた。ずーっと溺れ続ける恋愛なんて、そうそうないし、あったらすぐダメになるだろう。現実の恋愛と小説の恋愛なんざ、比ぶるべくもないが、小説という短いお話の中で、こうまで恋愛の「善し」も「悪し」もまるで気付かせないように自然に描けるものではなかなかない。従って現実よりも現実っぽいところがある。これを川上マジックと言ってしまっていいものだろうか? いやそもそも、この人の作品は読んでると煙に巻かれることが多々なので、やはりそういう質(たち)が働いているにすぎないのであろうが、それこそが非凡な才能であるのだな。

 さて、オナニーも然り。溺れ続けられるわけがない。やはり「一発入魂」が望ましいのであろう。
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