雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

初詣

2010-01-03 | 雑記
 初詣に行って来た。勧進帳で有名な小松市の安宅住吉神社というところへ。毎年違う神社に参りにいくのもどうかと思うが、どうせ神も仏も信じちゃいない罰当たり者なので、行くだけ立派なのである。(去年は参拝にすら行っていない)
 さて、流石に正月三日ともなれば、いくら名のある神社といえども参拝客は少ないだろうと予想していたが、まあ、多くもなく少なくもなく、ほどほどの入りであった。

 ところで最初に「勧進帳で有名な」などと書いたが、実は私はその話をさっぱり知らなかった。それを市内出身の妻に言うと思いっきり馬鹿にされた。ここでは小学生でも知っている、と。そりゃそうだろう、なんたって地元の有名譚なのだから。でも私は地元でもなんでもない。縁も所縁もないのだから。でも、今年はここへ初詣に行こう! と言い出したのは私だ。何故そんな自分とは縁も所縁もないところへ初詣に行こうと思ったのか? それは、年末のテレビニュースで初詣の準備に追われるこの神社の様子が映し出されていて、その中に可愛い巫女さんが一人いたから……なんて、ふしだらな理由は口が裂けても言えない。

 とりあえず私は勧進帳に興味のあるフリをして、妻にレクチュアを受けながら神社へと向かう。が、寒い。ひじょうに、寒い。ここは海に面している神社でもともと浜風が厳しいのだが、そこに加えて天候の悪さ。びゅうびゅう雪が吹雪いてやがる。
「ああ、クソ! 寒い。誰だよ、こんなとこ来ようなんていった奴は!」
 そんな愚痴を垂れながら、妻に白い目されながら、とにかく境内までやってきた。まず私の目的は巫女さんなので、お守りやらなんやらを売っているところに目を向ける。
「おめでとーございまーす」「おめでとーございまーす」
 と、巫女さんたちの黄色い声が飛び交っている。私はちらちらと物色する。お守りではなく、巫女さんを。しかし目当ての娘は見当たらない……。
 私が熱心にお守り販売所に目を向けているので、妻が横から、「お守り買うの?」と訊いてきた。
「いや、買わない」

 お参りしましょう。そうしましょう。
 しかし財布を開くと五百円玉一枚と十円玉数枚しかない。妻を見遣ると、すでに百円玉を取り出している。
「なあ、おい。金貸してくれ」
「は?」
「いや、百円玉が無いんだ。五百円と十円しかない」
「五百円入れれば」
「やだ」
 呆れた顔をした妻が持っていた百円玉を渡してくれた。
「あとで返すから」
「いいって」
「いや、だってそれだとオレの願いの賽銭料じゃなくなる」
「いいじゃん、出どころ一緒なんだし」
「ん……そうだな」
 めんどくせー奴だな、という顔をする妻をよそに、賽銭を投げ入れ、願い事をする。普段、神も仏も信じちゃいない罰当たり者が。

 さあそれじゃあ、寒いしとっとと帰ろうか、と思ったときにふと、絵馬がずらっと掛かっているのが目に留まった。どれどれ、ちょいと他所様の願いを覗いてやれ、と見てみるとやたら「合格祈願」が多かった。妻に聞くと、ここは勧進帳の所以で「難関突破」のご利益があるそうだ。へえ、そうなんだ?
 
 なにかの占いであったのだが、私は「今年夢が叶う」のだそうだ。言うなれば、私の夢は「難関突破」みたいなものである。不純な動機で選んだ神社とはいえ、こいつはなんとも幸先が良さそうだ、と上機嫌になった。

 普段、神も仏も占いも、そうそう信じちゃいない罰当たり者だが、やはり縁起くらいは担ぎたい。
 そんなテキトーな男だが、よし! いっちょうヤッたるか! と、浜風厳しく吹きすさぶ中、想いだけは熱くしてその場を後にした。
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