雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

海猫ツリーハウス/木村 友祐

2010-03-20 | 小説
 みんながみんな、そうではないであろうが、これを読むと「兄弟の厄介さ」というか、「長男と次男の違い」というものが見える。
 巧くは言えないが、弟はわりと兄貴に嫉妬する。でも兄は弟にはあまり嫉妬しない、と思う。それを「寛容さ」と言ってしまうと軽すぎるような気がするし、「兄弟愛」などと言ってしまうには、重すぎるし、何より、こっぱずかしすぎる。

 自分は弟なので兄のあれこれについては判る由もないが、この本は弟視点で描かれているので、かなり切実に入ってきた。

 尊敬できるような立派な奴ではない。だからと言って蔑ろにしてしまえる奴でもない。それは端的に言えば「血」なのだろうが、それ以上の「歴史」というか「経過」というか……要するに、「繋がり」だろうか? しかしその「繋がり」が永ければ永いほど、深ければ深いほど、憎悪も湧くし愛執も湧く。お互いに、解っているようで解っていない、その微妙な隙間の中に、不意に流れ込む「血」の濃さとでもいうものが、「兄弟」とカテゴライズされた関係を時に縛り、時に解放する。

 なんだかよく解らないが、そういった不可思議な「繋がり」を、兄弟という奴はいつまでもでろんでろんと纏わせているものだ。

 常々、自分は兄の才に嫉妬する。もう、どうしたって敵わないと思う。だが尊敬まではいかない。それはやはり、親しみのもたらす逆説的感情であろうか。



 第33回 すばる文学賞受賞作。
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