ジョルディ・サバール&コンセール・デ・ナシオンのピリオド演奏によるベートーヴェンの視聴、次は第九。演奏は相変わらずのキレッキレぶり。注目は歌である。
ソリスト達はバロックを得意とする若手で、美声で、レガートで、まるでバッハやヘンデルのアリアを歌っているような繊細な歌唱。エンディング近くの四重唱の最後の和音(これが合うのはまれ)も当たり前のようにきれいにハモっておりました。バリトン独唱にバロックのような装飾音がつくのを聴いたのは多分初めて(とちって違う風に歌う人はいたけど)。
第九の合唱と言えば、音が高いこともあって、「ギャーっ」と歌いがち(吠えがち)。だが合唱を担当した「VOX VONA ボン十字架教会室内合唱団」(と訳すのかなー)(注1)は古楽を中心に歌う合唱団らしく、絶叫とは無縁で、ノンビブラートの透明な響きでまるでマタイ受難曲を歌うように歌っていた。なんとも新鮮で、きれいッシモな合唱であった。
ボンには、「ボン室内合唱団」(注2)という団体もあって、こちらも「室内合唱団」と名乗っている通り古楽がレパートリーで(「室内合唱団」は古楽を歌う小規模の合唱団が名乗りがちな名称である)、団員数も40~45名で混同しそうになったが、VOX BONAが1987年設立であるのに対しボン室内合唱団は1973年設立の別団体であった。同じ地域に同様の古楽合唱団が複数あるあたり、ドイツもなかなか古楽がさかんなようである
室内合唱団と第九と言えば想い出がある。私が学生の頃所属していた古楽専門の合唱団がまさに「○○室内合唱団」(○○は二文字というわけではない)であったのだが、当時、隔年で学校のサークルが大同団結して第九を演奏する、というイベントがあった。だが、私が下級生のときにやって来た参加の機会は、上級生が「第九はウチらには合わない」と言って参加を辞退したため逃してしまった。上級生の言い分は「第九は音が高くてギャーっと吠えるものである。私達にとってそういう世界は(スターウォーズ風に言えば)音楽のダークサイドである」というものであった。私は古楽合唱団にいながら隠れベートーヴェン・ファンだったから残念だった。上級生になってようやく参加できたのだが、それがこれまでの私の人生における唯一の第九体験となった。
VOX VONAを聴いて、古楽合唱団でも立派に第九を歌えるということを確信した。それは、古楽合唱団でも巷の咆哮合唱団の真似ができる、ということではなく、古楽の様式のまま第九を歌える、ということである。だが、そっちの方が遥かに難しい気がするけれども。
注1:VOX BONA Chamber choir of Kreuzkirche Bonn
注2:Bonner Kammerchor
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