漕手のやんごとなき日常

~立教大学体育会ボート部の日常を漕手目線で~

漕いで、考えて、見つけたこと。 山田雄恒

2024-08-21 00:25:00 | 長めの日記
こんにちは。
早いもので、いよいよ最後の漕手日記が回ってきました。4年山田雄恒です。

3年前、1年生の私からみた4年生の先輩方の背中はとても大きく見えましたが、今は自分がその立場にいるということを考えると、引退まで残りわずかとなった今でもその実感が湧きません笑

あっという間に時間が過ぎてしまい、どのような大学生活だったのだろうかということを改めて振り返ると、ただひたすらにローイングという一つの事に没頭できた贅沢な時間だったと感じています。
3年という月日とは思えぬほどに充実し短かったようにさえ感じていますし、最近は「今まで頑張ってきていよいよラストだね」といった温かいお言葉を頂くことも多くなりました。
しかし、正直なところ、この時間や過程を私個人の努力の結晶かのように語れるか、ということに関しては、違和感を覚えます。

私は努力をしていたのではなく、自らが好きなことに熱中できるように周囲の人から支えてもらっていただけに過ぎないからです。
努力をしていたのは私自身ではなく、私が競技を継続していく上でお力添えいただいた全ての人々であり、私自身の競技での取り組みなど周囲から賜った協力に比べればちっぽけなものに過ぎないと認識しています。

これまでの競技生活で、多くのチームメイトから「ストイックな選手だ」「誰よりも結果に拘っている」と言われてきましたが、それは断じて違うと否定させていただきたいと同時に、周囲の人からそのように見えていたのであればまだまだ未熟だったなと思います。

実際には沢山の人の協力あって、自分がやりたくてやりたくて仕方ないローイングに多くの時間を使え、夢中になれていただけなのです。
多くの支えがなければきっと私はすっ転び、これまでの道のりをまっすぐに歩んでくることはできなかったでしょう。
その全てに、「楽しい時間をありがとう」とお礼を言いたい気持ちです。

その上でですが、好きだからこそ悩んだことも当然ありました。
特に2022年、大学2年目のシーズンは1年を通して様々なことを考えさせられた時間だったように思います。

その前年の2021年、私は入部して1年目から全日本選手権、インカレでの優勝を経験させていただき、2016年の全日本選手権創部初優勝にインスパイアされてこのチームに来た私にとってこの体験は大変光栄な出来事でした。

若いうちに勝利を経験した選手は、所謂「燃え尽きやすい」という話をよく聞きますが、私にとっては逆で、目標を達成できたからこそ更に上のレベルに行ってみたいという気持ちがこれを機に強くなりました。
大会が終わった直後の冬のシーズンから私は「日本一の次は世界一だろう」と、日本代表として世界で戦うことに強い憧れを抱くようになり、(冷静に考えれば、全国大会で優勝しただけでそもそも日本で1番の選手にもなっていませんが...)
軽量級シングルスカルで日本代表選考への挑戦を始めました。

結果としては最初に出場した選考レースでは社会人選手にコンマ数秒差で負け選考から落ちてしまい、今でも鮮明に覚えているほど悔しい思いをしました。レース直後は落胆しましたが、逆に「あと少し頑張れば次のステージに行けたかも」と気持ちを切り替えて練習の量も質も見直し、2年生に上がった頃には0.01秒でもいいから速くなりたいということを常に念頭において過ごすようになりました。

練習量の増加に伴って、体力面は一定のレベルまでは成長を実感できていました。
しかし、全日本、インカレ、全日本新人とレースを重ねてもシーズンを通して勝利をあげることができず、どれだけ考えて動いても上手くいかないという状況が続きました。
レース内容も代表選考と同じ轍を踏むような展開や、それまで対等に渡り合っていたライバルに大きく離されるといった悔しさをさらに積み上げるようなものが続き、同じような失敗を繰り返したことにより「あの時の悔しい経験が無駄になるんじゃないか」という不安も次第に大きくなり、どうにかこの状況から抜け出し、強くなりたいという思いがどんどん空回りしていきました。

この時の自分の様子を客観的に思い返すと、周囲からは「漕ぐことを楽しんでいる」よりも「ストイック」や「結果に拘っている」という側面が目立って見えても仕方なかったのではないかと思います。
精神的なものか身体の問題か、原因は今でも不明ですが、長期間に渡って体の一部がうまく動作しなくなったこともあり、内心かなり焦っていました。
U-23の強化合宿にも招集されましたが、練習量や競争環境は向上していく一方で自分自身のパフォーマンスはどんどん低下していき、唯一成長を感じていた体力も活かせなくなり原因は何なのか必死で探っていました。

恐らくですが、この時の自分は「ローイングが大好きだ」「ボートを漕ぎたい」という自分の本当の気持ちも忘れ、「報われたい」と思っていたのでしょう。
自分で自分を苦しい環境に追い込み、「逆境に負けず困難に立ち向かう自分」という構図を無意識に作り続けていたのかもしれません。「原因は何なのか」という問いの対する答えがあるとすれば、それは自分自身だろうと今になれば思います。
空回りが加速するあまり、「ローイング」が好きなのか、「勝つこと」が好きなのか、見失ってしまっていたように思います。

私自身は、競技結果一つで誰かの人生を豊かにできるスーパースターや、報われるべき特別な存在であるはずなど当然ないのに、思うような結果に繋がらない時期が続いたからといって、好きなことから得られる幸福よりも自分自身が作り上げてしまった過酷な状況にばかり意識を囚われていたのは、自惚れに他ならなかったと思います。

簡単には得られないものこそ価値は大きいと言えますし、自分が好きと思えることに夢中になることを誰かに応援してもらえるというのも、よく考えればそれだけで凄いことです。決して当たり前にあるものではないと思います。努力を尊ぶ文化や、努力のできる人が素晴らしいことには変わりなく、困難があった時にそれに立ち向かえる力があることは確かに重要ですが、自分自身で困難を見出す必要など全く無く、好きなことに没頭していてそれを周りにも応援してもらえているのだから楽しいことばかりでも良いじゃないか
、報われたいも何も元々好きだから、やりたいからやっているんだということに気づく方が、私にとっては重要でした。

練習ひとつとっても、「今、これくらいのタイムを出しておかないと本番でも目標値を出せないんじゃないか」、「もっと追い込んでおかないと負けるんじゃないか」というような、嫌な未来を想像してそれを避けることを考えるよりも、「こんな技術が欲しいから今日はこんな練習をしよう」「もっと体力をつけたいから沢山漕ごう」「日本一、世界一になりたいから頑張ろう」といったように、自分の「欲しい、したい」から貰えるエネルギーを源に行動する方が、夢があって楽しいのではないかと思います。

時間は要しましたが、このように徐々に考え方を見直し、気づきが増えてからは水上で純粋にスピードを追求している時間そのものや、身の周りの大切な人たちとの時間を大事にしたいと考えるようになりました。

「ローイングが好きなのか、勝つことが好きなのか。」上に書いたこのような問いに対して、今は勝つこと以上に、自分の人生に豊かさをもたらしてくれるローイングという競技そのものや、それに本気でのめり込む過程で出会った素晴らしい人たちが大好きだと胸を張って言うことができます。

ローイングは体力的にとても過酷なスポーツであるため、肉体的な負荷を精神的苦痛と錯覚し気持ちの方までやられてしまうということが大いに起こりうる競技です。

そのような側面がある中でも私が競技と真っ直ぐに向き合い続け、そこから得られる幸福により一層目を向けることができるようになったのは、競技内外の人生そのもので沢山の人々と関わり、競技やそれ以外の時間を自分にとって何にも変え難い価値のあるものにできたからに他なりません。

それが、私が今までの人生で漕いで、考えて、見つけたことだと思っています。


まもなく、これまでの大学生活の集大成である全日本大学ローイング選手権が開幕します。


私は昨年に引き続き男子フォアで出漕させていただく予定ですが、クルーとして共有している大きな目標を元に、「したい」、「欲しい」、「なりたい」、という沢山の「want」という感情から、日々とてもいいエネルギーをもらっています。

クルーとしても、個人としても連覇がかかっている状況ではありますが、正直、私の個人成績の方の連覇はどうでもいいと思っています。

これまで追求してきた、このクルーで出せる最大限の艇速、最高のレースを体現できれば誰にも負けない自信がありますし、個人としてではなく、4人全員でできる一番良い漕ぎをただただ表現したい、そのような思いが強いためです。

1番になりたい気持ちが0というわけでは当然無いですし、結果的に連覇という戦績がついてくれば嬉しいな、とはもちろん思いますが、そのために頑張る、というよりも、今はそれ以上に、スピードを出すため一瞬一瞬に全力になれているこの過程に幸せを感じており、良い時間を過ごしてきたクルーと共に良いレースをしたい、というほうが、今の自分にはしっくりくるなと思っています。


誰かに言われているから、重圧をかけられているから。そうではなく、自分が求めるものにただまっすぐと手を伸ばし、勝負をかけていきます。


長々とした日記でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。


次は肩パン女王きょうかの最後の日記です。


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