ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

鍵のかかった部屋

2009-02-09 22:19:58 | Weblog
ポール・オースター著、柴田元幸訳、白水Uブックス―海外小説の誘惑。

大好きなポール・オースターの本を、また読んでみた。

カバー裏の内容紹介より。
美しい妻と傑作小説の原稿を残して失踪した友を追う「僕」の中で
何かが壊れていく・・・。

今回も、見事なまでの「壊れっぷり」でした。

物語の中で、失踪した友はすでに死んだものとして、いろいろなことが進んで行く。
そして、死者は、音もなく確実にのこされた生者の世界を蝕んで行く。
なぜなら「死」というものは、
たとえ他者の「死」であっても、必ず自らの「死」と向き合うことになるから。
そして、自らの「死」と向き合ったとき、
そのきっかけをつくった相手が、本当に死んでいるかどうかなど、
もう関係なくなっている。
見つめているのは、自分自身の「死」だから。
目を背けたいのに、どうしても見つめてしまう。

こういった小説は、日本では「ミステリー」のジャンルに入るのだろうか。
「本格」ではないけど、広い意味での「ミステリー」に含まれるような気がする。
最近、「ミステリー」というジャンルが含む文章の枠が広すぎて、よくわからない。

話はかわって・・・、
今日、会社からの帰り道に通る新宿駅で、夫婦喧嘩をしている人たちを見かけた。
父親と母親が大声で叫びながら、子どもを引っ張り合っていた。
みなが見ていた。

両親は「子どもを思うがゆえに」、「あなたには任せられない」「自分が連れて帰る」と
主張し合っているようだった。

その子は、ただただうなだれていた。
きっと「両親が、そこまで自分のことを思ってくれるのなら、なぜいまここで、
この瞬間、こんなに悲しくて恥ずかしい気持ちに自分はならなければならないのだろう」
と思ったのではないかと思えた。

ケンカをとめてはあげられないし、
その子に声をかけても傷つけてしまうだけだから、何もできないけれど、
ただただ、その子がこの先、人を信じて、自分をゆるしていけるようにと祈りたくなった。