ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

探偵小説は「セカイ」と遭遇した その1

2009-02-17 22:49:03 | Weblog
笠井潔著、南雲堂刊。

とりあえず、今日は前半で思ったことを書きたい。
いつも漫然と見ていて、でも何となく「これはいったい・・・?」と思っていることを、
笠井さんの評論は、ミステリーという観点から、とてもスッキリまとめてくれる。

私は小学生時代から探偵小説が好きだったんだけど、中学生になった頃から、
母に「人が死ぬ話ばかりじゃなくて、もっと文学作品を読みなさい」とよく言われた。
それで、反抗してコバルト文庫に走った私は、なかなかどうして反抗的だったと思う。

その時どきの潮流である小説を、時代とシンクロさせて整理している笠井さんの評論は、
すでに20年前の読書趣味について、一晩でも語れる私としては、
目からウロコのことばかりだ。

探偵小説と伝奇小説の変遷については、
まさに自分の読んで来た文章の流れと符合していたりする。
特に、「リアル」の変貌については、すごく思い当たることがあった。
『空の境界』から語られる「日常ー非日常」の下りは、『空の境界』を読んだことがないけれど、
とても納得できるものがあった。

後半は、『容疑者Xの献身』について。
私は、この小説を「探偵小説」としてはとても凡庸だと思ったし、
正直なところ、前半でほとんどの謎がわかってしまったので、
最後のどんでん返しも、ぜんぜん意外性がなくて、あまり好きなミステリーではなかったんだけど、
この小説について、笠井さんがどんな文章を綴るのか、とても楽しみ。
もちろん、書きっぷりはよかったと思います。この小説。
単に「探偵小説」という切り口にしぼった場合、私にはあまり面白くなかったのです。

そして、番外編。
今売れているらしい耳かき「匠の技 最高級煤竹耳かき」。
買ってみた。

確かによい! とてもよい!
細くてしなやかで、とても気持ちいいです。


屋上ミサイル

2009-02-17 00:13:55 | Weblog
山下貴光著、このミス大賞受賞作、宝島社刊。

最初の2~3ページほどは、
文章があまりに独特なペースなため、波長があわせられないと感じたけれど、
いったん調子に乗ってからは、ぐんぐんと読めた。

なんといっても、登場人物たちが繰り広げる会話が面白い。
これは、文章で表現されている以上に、
著者が、人物や環境の設定をしっかりと行っているからだと思うので、
本当に綿密に構想された力作だと思った。

作中の重要な舞台として、登場人物たちが通う高校の屋上がある。
私が通っていた高校は、屋上に上がらせてくれなかった。
きっと危なかったから。
そしていま住んでいるマンションは、夜になると屋上を閉めてしまう。
どうやら、保安上の理由らしい。
確かに以前は、飛び降りたい人が来ていた。
住民にとっては迷惑な話だった。

都内のビルで屋上に上がれるところは少ないと思う。
確かにそのほうが安全だけど、同時に広い空も失われてしまったなあ。
高層ビルの窓から眺める空は広いけれど、視野が横向きなんだよね。

ふーっと息を吐き出しながら見上げて、
そこに青い空が広がっているなんて・・・、
そんな開放的な気持ち、もうずいぶん味わってないな。

この小説は、見事なミステリーなんだけど、
そんな屋上の開放感がずっと漂っていて、
なんだかとっても、のんびりした気持ちになった。