ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

逃げてゆく愛

2009-05-27 22:38:45 | Weblog
ベルンハルト・シュリンク著、松永美穂訳、新潮クレスト・ブックス

『朗読者』もよかったけど、この本もよかった。
全7編が収録されており、それぞれの文章量はそうは多くないけれど、
どれも、とても内容が濃いものだった。

「少女とトカゲ」は、なんとなく三島の「金閣寺」を思い出したし、
「割礼」は、私が知り合ったイスラエル人の女の子たちを思い出させてくれた。

そう。「割礼」は、ユダヤ人の女性と恋に落ちたドイツ人男性のお話。
私が2000年に一人旅をした中国雲南地方でのことを思い出させてくれた。
その旅ではドミトリーに宿泊し、
同じ部屋には、ドイツ人の女性と、イスラエル人の女性が宿泊していた。

ドイツ人の女性は、ドミトリーの部屋の中をとても礼儀正しく使っていたので、
私は一緒に暮らせる人だと思った。
いっぽうイスラエル人の女性は、兵役を終えたばかりの若い女性で、
集団生活というか、兵隊の生活に馴染んでいるはずの人だったけど、
脱いだ下着を床に広げっぱなしだったり、公共スペースも使いたい放題だったし、
とにかく荷物が散乱していた。
同じ部屋に男性がいても、一向に気にするふうではなかった。

ドミトリーには、オーストラリア人、カナダ人、日本人、ドイツ人などなど、
いろいろな人がいたけれども、そのイスラエルの女性のことを、かげで、
兵役を終えたばかりで、開放感にあふれてるんだよ、と好意的に解釈する人もいれば、
ユダヤ人は放浪の民だから、整理整頓が苦手なんだ、と揶揄する人もいた。

ドイツ人が一生懸命イスラエルの彼女のことをかばっていたのに、
他の国の人の方が、人種は問題ない、個人の問題だ、といって手厳しかったっけ。
その時は。

そして、そのドイツ人の女性とは、たまたま2人きりで話しをする機会があった。
ドイツとユダヤの関係、日本と中国の関係を話したとき、
私たちには、背負いきれない過去がある、という、なんともいえない感情、
共感できるなにかがあると、お互いに感じ取ったのが印象的だった。

いろいろなことを思い出した一冊だった。