ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

ほろびた国の旅

2010-11-01 21:36:26 | Weblog
三木卓著、講談社刊

これでも、そうかあ、児童文学作品なんだなあ。

確かに言葉づかいは、子ども向けにしているところがあるけれど、
内容は、十分に大人向けだと思う。

実際に旧満州に暮らし、命からがら本土に戻ってきた経験をもつ著者が、
過去の自分と向き合うために書かれた本書は、
自分自身と向き合うのと同時に、
早くに亡くなった父親との対話でもあったのだろうと思う。

お父さんのような人であれば、
この満州という国の欺瞞を見破っていたはずなのに、なぜ加担したのか、
という問いに対して、父は、家族を守ることを考え始めたときに、
自分は変わったと答える。

「いま」からタイムスリップした著者は、
満州の虚構から、悲しい未来を見据える。
そして、当時の自分を振り返り、恥じる。

子どもの心の中に「差別」がうまれるのは、
それは大人の影響だということが何度も出てくる。
自分も、五族協和の理念によって「差別」などしていなかったと信じてきたけれど、
心の中では、朝鮮人や満州人より自分は偉いと思っていたのではないかと。

満州国が上り調子だったとき、日本人は「偉い」から、表面的にはいい生活をしていた。
でも、人としての道をはずれた環境の中で育った子どもは、決して幸せではない。

引き上げのときに、軍に捨てていかれた開拓団の人たちは、
ソ連の侵攻から逃げながら南下する過程で、多くの方が亡くなった。
その中でも、子どもが一番の被害者だったのだと。

でも子どもは、自分の力だけで、大人の社会を変えていくことはできない。

やはり、この本は、大人が読むべきなのだと思う。

この本を手にとり、目次ページを開いたら、
本文組版のメンバーとして、前の会社の同僚の名前があった。
デザイナーとしてステップアップした友人と思わぬところで再会して、すごく嬉しかった。