まずは、集題となった巻頭の歌を引く。
木のあれば露の宿りて地の上のよきことひとつ光りを放つ
一、二句の「木のあれば露の宿りて」で小休止。五・七調である。續く「地の上のよきことひとつ」で、また五・七調。その繰り返しのリズムが快い。「木の」と「地の」の語音の共鳴があり、下句には「よきこと/ひとつ」の四・三、「ひかりを/はなつ」の四・三の繰り返しがある。大きな振幅を持った安定感のある歌であり、各々の句が五輪塔の石のように円満な確かな位置を占めている。
姉の辺に行かむと見るに川波の二段落つる水は泡立つ
※「二段」に「ふたきだ」と振り仮名。
手を振るはかなしき仕種残り世の少しき姉はわれに手をふる
この歌集には、亡き姉を偲ぶ歌が多く載せられているのだが、ここに引いた歌は、その生前に見舞った時のものである。人が老いることによって必然的に訪れる別れというものを、静かに受容しながら、哀切に歌う。
二首とも、初句から二句目にかけて五・七で小休止。この五・七調は、高雅でしっとりとした落ち着きを歌にもたらしており、一首に尽きない哀調を覚えさせるものである。
帰らんと思ふはいづれふるさとかいと遥かなるうたのはじめか
祖母の言ひ母の伝へてわが習ふ何ならむ名づけて言はむ術なく
たまさかに口にのぼれる歌あれば花咲くごとしわが眼先に
こういう高雅な歌のたたずまいは、何と言ったらいいのだろう。祈りに没頭するようにして、歌の言葉の持つひびきと、句と句の間の余白に聞き入るほかはないように思われる。
まなかひに立つ一樹だに畏れありまして黙せる木群杉群
これは大雨の時の歌。
息止みてこの世退きゆく面差しを整ふる手のありや整ふ
※「退」に「そ」と振り仮名。
これは姉の臨終に際しての歌。
読みながら、幽冥の境にあるものと静かに対話する作者の歌の言葉に自然とこちらのこころが添ってゆく。水の響きに聞き入り、木の姿に見入る姿勢、沈黙にひたりながら言葉を紡ぎ出す練達の歌境に、おののくような敬意を覚えるのである。
木のあれば露の宿りて地の上のよきことひとつ光りを放つ
一、二句の「木のあれば露の宿りて」で小休止。五・七調である。續く「地の上のよきことひとつ」で、また五・七調。その繰り返しのリズムが快い。「木の」と「地の」の語音の共鳴があり、下句には「よきこと/ひとつ」の四・三、「ひかりを/はなつ」の四・三の繰り返しがある。大きな振幅を持った安定感のある歌であり、各々の句が五輪塔の石のように円満な確かな位置を占めている。
姉の辺に行かむと見るに川波の二段落つる水は泡立つ
※「二段」に「ふたきだ」と振り仮名。
手を振るはかなしき仕種残り世の少しき姉はわれに手をふる
この歌集には、亡き姉を偲ぶ歌が多く載せられているのだが、ここに引いた歌は、その生前に見舞った時のものである。人が老いることによって必然的に訪れる別れというものを、静かに受容しながら、哀切に歌う。
二首とも、初句から二句目にかけて五・七で小休止。この五・七調は、高雅でしっとりとした落ち着きを歌にもたらしており、一首に尽きない哀調を覚えさせるものである。
帰らんと思ふはいづれふるさとかいと遥かなるうたのはじめか
祖母の言ひ母の伝へてわが習ふ何ならむ名づけて言はむ術なく
たまさかに口にのぼれる歌あれば花咲くごとしわが眼先に
こういう高雅な歌のたたずまいは、何と言ったらいいのだろう。祈りに没頭するようにして、歌の言葉の持つひびきと、句と句の間の余白に聞き入るほかはないように思われる。
まなかひに立つ一樹だに畏れありまして黙せる木群杉群
これは大雨の時の歌。
息止みてこの世退きゆく面差しを整ふる手のありや整ふ
※「退」に「そ」と振り仮名。
これは姉の臨終に際しての歌。
読みながら、幽冥の境にあるものと静かに対話する作者の歌の言葉に自然とこちらのこころが添ってゆく。水の響きに聞き入り、木の姿に見入る姿勢、沈黙にひたりながら言葉を紡ぎ出す練達の歌境に、おののくような敬意を覚えるのである。
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