完蒐まで最後の1冊となった私家版の『祖父・小金井良精の記』(前記事)。星新一さんが小金井家ゆかりの方々に配った時に、本がどういう姿をしていたか分かりません(エヌ氏の会主催の「星コン」で星さんご自身が提供してくださり、オークションにかけられたので、その姿を見ているはずですが、記憶がありません)が、「小金井氏家譜」という別冊もあり、2冊を一緒に保管したいので、一緒に収まる夫婦箱の製作を個人工房に依頼して、出来上がってきました。
「手製本が趣味」と言っていた時期(ウン十年前)だったら、自分で作成したのでしょうが、時の経過とともに、視力、気力の衰えで、自分で作るとなるとけっこうハードルが高いことを自覚して、依頼できるところをネットで探しました。
岡山県の工房が、希望に沿って製作していただけそうだったので、メールで問い合わせをし、何度か作成イメージの擦り合わせをした後、お願いすることに決めたのです。
完成品が届いたので、お披露目します。
本を収めると、このようになります。
一回り小さくて薄い別冊を、このように収めます。
夫婦箱の蓋を閉じると、厚さは7センチあります。
※この夫婦箱を製作した工房をお知りになりたい方は、コメント欄から、メールアドレス等のご連絡先をお知らせください(公開はされません)
星新一さんの本の蒐集を始めたのは20歳の頃からですから、半世紀以上かかったことになります。最後の1冊となったのは、星さんが自ら発行元になって、小金井家ゆかりの方々だけに配った私家版の特製本『祖父・小金井良精の記』(市販本は河出書房新社から発行)です。
以下、入手までの経緯を、これまでに記事にした内容と重複する部分もありますが、整理してみます。
その本の存在を知ったのは、1978年7月に名古屋で開催された「第1回 星コン」と呼ばれるファンクラブの大会でした。その時に、星さんが大会運営費の足しにと、それまで存在すら知らなかった本を2冊提供してくれました。1冊は最初の創作作品集の『人造美人』(新潮社刊)の市販本をバックスキン装にした特製本(20部?)と、『祖父・小金井良精の記』の私家版特製本でした。オークションにかけられ2冊でしたが、『人造美人』は落札出来ましたが、『祖父・小金井良精の記』の方は、ライバルでもあった福岡在住のM氏に競り負けました。
その9年後の1987年の第9回「星コン」にも星さんが特製本『祖父・小金井良精の記』を提供してくださり、オークションにかけられたのですが、私は1985年の第8回大会を最後にファンクラブから手を引いたので、その会は欠席しました。福岡在住のM氏は、大会前夜に電話をくれて「またあの本がオークションにかけられるけど、代理で入札しようか」と言ってくれました。喉から手が出るほど欲しい本でしたが、意固地になっていたのだと思います。「出席しないと決めたのは、縁がなかったから」とM氏のご厚意を無下に断ってしまったのです。後から、「どこの馬の骨ともわからない人の手に、本が渡ってしまうのはまずい」と、自身2冊目となるこの本を落札したことを人づてに聞きました。
M氏は2019年2月に突然お亡くなりになったのですが、それまでの間、何度もお会いし、手紙や電話のやりとりもたくさんありました。でも、この本を話題にしたことは一度もありませんでした。頭を下げて「譲ってほしい」と一言いえば、快く譲ってくれるに違いないと思い続けているうちに突然、亡くなられてしまったのです。
そんな因縁だらけの本ですが、友人の名古屋在住の高井信氏が橋渡ししてくれたお蔭で手元に届いた本は、貼り函入り、貼り題箋、総革装、天金という仕上げになっていました。1974年の発行で、本体の表紙のモスグリーンの革は背の部分が残念ながら退色し、クロス貼りの函の布地はもっと鮮やかな青だったようで、こちらも退色しています。函のタイトルは貼り題箋で、函の背角に水濡れがあり、貼ってある題箋が浮いて波打っています。題箋の文字は金色だったと思われます。本体の各所に経年のシミや変色があり、総じて、あまり大切に扱われていなかったことが伺われ、ページをめくると、天金の部分がパリパリと音を立てるので、読まれもしなかったことがわかります。
奥付を見ると、著者/発行者が「星新一」個人名になっていて、河出書房新社が発行した市販本の発行日は1974年2月28日ですが、この本の発行日は3月30日と違っているので、市販本とは別の本として扱わなければなりません。星新一公式HPに掲載している「ホシヅル図書館」の全著作リストに、この1冊を新たに加えました。
この本を譲ってくれたO氏は、古書店で見つけて購入したそうですが、この本に本来付属しているはずの「小金井氏家譜」という家系図が載った冊子は、ついていなかったということです。
ところが、今回の譲渡話を橋渡ししてくれた高井信氏が、さかのぼること8年前の2016年5月に、「星さんの本が1冊だけが集まらない」という私の嘆きに同情してか、星さんから直接頂いたという、この「小金井氏家譜」をプレゼントしてくれていたのです。(ここで記事にしています)
なんという縁でしょうか。
蛇足ですが、「完蒐」というのは、著作が世に出た時の姿(カバー、函、帯などが付属している)で、全部の単独著作を蒐集出来た時に使用する言葉ですので、かなり難度の高いものです。星新一を集め始めてから50数年、この本が刊行されてから50年、この本の存在を知ってから37年。それだけの歳月が流れたところで、私の手元に届いた1冊なのです。
新潮文庫『つぎはぎプラネット』(2013年9月刊)所収の作品「未来都市」
その初出は「四年生の学習」(学習研究社 昭和36年1月号付録「世年始のお正月図書館」)でした。
表紙
目次
掲載ページ冒頭部分
奥付
未収録作品を1冊の文庫本にまとめてから、もう10年が経つんですね。
放送台本というものが「最終稿」になるまでに、どのくらい書き直されるのか分かりませんが、前回紹介した星新一原作「宇宙船シリカ」の初回放送分の台本(わら半紙にガリ版印刷されたもの。ここでは「オリジナル台本」と呼びます)には、別のバージョンがありました。
星新一公式HPの「ホシヅル図書館」のデータを改訂増補するのに資料を探していたら、
ここでの過去記事、「星新一の大コレクター 巨星落つ」でお伝えした、2019年2月に亡くなった、大先輩の星新一コレクターから送っていただいたコピーが出てきました。30回分放送までのコピーで、初回放送分を両方比べると、その表紙からして違っています。記載された事柄から判断して、後から印刷されたものだということが分かります(ここでは「コピー台本」と呼びます)。
ウィキペディアで「宇宙船シリカ」を調べると、年度別の「放送リスト」が出てきます。放送開始の1960年度を見ると、1回目のタイトルは「宇宙基地」、2回目が「不思議な金属」になっています。
オリジナル台本の表紙には「宇宙船シリカ」とあるだけで、初回放送分のタイトルの記載はなく、コピー台本の表紙には「№1 不思議な金属」となっています。
台本に記載されたスケジュールも、オリジナル台本(左)では「7月25日第一稿上り(印刷)」から始まりますが、コピー台本(右)は「8月18日22:30~25:30 セリフ録音 人形と音合わせ」から始まっています。
このことで、放送台本には「最終稿」にたどりつくまでに、いくつかの段階があることが分かります。
しかし、ここで疑問が———。
どちらの台本も2回目の放送分が抜けているのです。
ここからは推理にすぎませんが、コピー台本が印刷されたあと、「最終稿」の台本に至るまでの検討を重ねていく過程で出された、「導入部が唐突なので、宇宙船シリカが置かれている状況説明を初回に入れた方がいいのでは?」という意見に従い、「宇宙基地」を初回放送にして、当初予定していた1回目放送予定の「不思議な金属」を2回目に回したので、どちらの台本も2回目の放送分が抜けている——この推理は的外れではない気がします。
『悪魔のいる天国』 発行/ワルシャワ大学出版/2021年12月。新書版サイズ。
『悪魔のいる天国』に収録されている作品の中から「夢の都市」「愛の通信」「合理主義者」「殺人者さま」「情熱」「契約者」「となりの家庭」「薄暗い星で」「肩の上の秘書」「シンデレラ」「サーカスの旅」の11編を収録。翻訳:ワルシャワ大学応用言語学研究所の学生。
ベトナムで翻訳出版された星新一著『悪魔のいる天国』2020年
本書は2019年に同じタイトルで出版されていますが、新たに4編が追加され、表紙もデザインを変えて発行されました。
星新一公式HPによると、収録作品は以下です。
「合理主義者」「悪夢」「デラックスな拳銃 」「お地蔵さまのくれたクマ 」「けがれなき新世界」「全快 」「かわいいポーリー」「契約者」「重要な任務」「もとで」「追い越し」「森の家」「名画の価値」「頭の大きなロボット」「肩の上の秘書」「乾燥時代」「宇宙のキツネ」「となりの家庭」「再現」「もたらされた文明」「因果」「骨」「ことのおこり」「帰路」「情熱」「夢の未来へ 」「不運」「むだな時間」「使者」「みつけたもの」
2019年に発行された『悪魔のいる天国』の表紙です。
どちらも表紙デザインのモチーフは「鬼」ですね。
悪魔=鬼 という解釈なんでしょう。
問題は2冊とも、著作権者が許諾していない出版 だという点です。
中国で出版された星新一のショートショート『职业刺客』という本(百花文芸出版社/1986.07)の収録作品の邦題を調べたのですが、日本で出版された14冊(調べ終わってから集約したら、その数になりました)の中から57作品をピックアップしたものでした。
中国語の各冒頭部分をスマホのアプリで画像翻訳(かなり精度が低い)し、手元に文庫本を並べて、冒頭部分を拾い読みして作品を同定するという、アナログ的な作業。日本語による冒頭部分の対照表を先に作れば良いのでしょうが、なにせ星作品は1000編以上あるので、その作業も大変。
冒頭部分を繰り返し読んでいると、話の筋は記憶に残っても、どの本に載っていたかまでは覚えていないので、「この話、さっき読んだのに」という嘆きを繰り返していました。それが頻繁に繰り返されるので、冒頭部分をメモで残すようにして、絞り込んでいきました。
画像翻訳は精度が低いので、日本では使われていない漢字を手書きで入力して、タイトルをGoogle翻訳することも試しました。日本語に翻訳することで見当をつけられた話もありました。タイトルが直訳されているものもあれば、そうでないものもあるので、同定作業はこれまでで一番難航しました。2日がかりで全57編のタイトルが判明しました。その中の一部が以下です。
(中国語のタイトル → 日本語の原題)
死者魂灵的委託 → 依頼
慷慨之家 → 気前のいい家で
人生如夢 → 長い人生
职业刺客 → 殺し屋ですのよ
好事者 → 協力的な男
盯梢 → 尾行
列车上的盗窃案 → 車内の事件
发生在海港的事件 → 港の事件
临死服毒 → 臨終の薬
謎一祥的女人 → 謎めいた女
真话当假话 → 帰宅の時間
一件风流韵事 → あるロマンス
如此行业 → ある商売
窃盗薬方 → 盗んだ書類
方便的手堤包 → 便利なカバン
好抢先的人 → 新しがりや
窃盗保険柜 → ねらった金庫
惩恶 → 惡をのろおう
卖地者 → ごねどく屋
价値検査器 → 価値検査器
惹祸的装置 → 問題の装置
超车 → 追い越し
コロナ禍で自粛中だから出来た作業かもしれません。
インドで出版された『親善キッス』2018年。
韓国で出版された中学生向けの教材『국어시간에 세계단편소설 읽기 1』(国語の時間に世界の短編小説を読む 1)
収録作家は星新一のほか、モーパッサン、ウィリアム・W・ジェイコブスなど。2009年。
これも著者献本のものをいただいたので新品ですが、どちらも全く読めません"(-""-)"
香港で発行されている雑誌「兒童的學」正文社(Rightman)の旧号。
52号2009年8月
開きが悪いので、掲載ページではなく、目次はどこにあるかな……と探したら、
裏表紙が目次になっていました。白矢印の先が該当ページです。
収録作品は「河馬大爺」。カバおじさん??
『未来イソップ』に収録されている「おカバさま」のようですね。
57号2010年1月
裏表紙が目次。白矢印の先が該当ページです。
収録作品は「雨」
『ようこそ地球さん』に収録されている「雨」でしょう。
77号2011年9月
「愛的鑰匙」というのが収録作品のタイトル。むずかしい漢字が使われています。
『ようこそ地球さん』に収録されている「愛の鍵」ですね。
漢字を使う国だと、なんとなく見当がつけられますね。
※いずれも著者献本の重複本をいただいたので、どれも「新品」です。
明けまして おめでとうございます。
本年も よろしく お願いいたします。
相変わらず、変則ペースで続けてまいります。
星新一作品が海外で翻訳出版された本の続きで、スペインで翻訳出版されたアンソロジーです。
『地球と環境の物語』1998年 収録作品:「最初の説得」「ある研究」の2編。
『銀河の物語』2002年 収録作品:「やっかいな装置」
『日本の物語』2014年 収録作品:「古代の秘法」「死の舞台」の2編。
他の収録作家は芥川龍之介、谷崎潤一郎、三島由紀夫。
※いずれもウエブ上で入手が可能でした。
続いて、星新一作品がベトナムで翻訳出版された本です。
『エヌ氏の遊園地』2017年
『悪魔のいる天国』2019年
こちらはアンソロジーで『近代日本短編集』。2016年
安部公房『笑う月』が表題タイトルになっていて、ほかに太宰治、伊藤左千夫、松本清張など22編で、
そのうち星新一作品が12編収録されています。
※『悪魔のいる天国』はウエブで新品を入手、それ以外の2冊も、著者献本の重複本をいただいたので「新品」です。
しばらく記事の更新が途絶えていましたが、海外で出版された星新一作品を紹介します。
出版された国別に紹介します。まずは中国5冊、台湾1冊の計6冊です。
『夢の都市』2019年 安徽少年児童出版
『感情テレビ』2019年 安徽少年児童出版
『妄想銀行』2019年 安徽少年児童出版 日本語のタイトルそのまま。
『きまぐれロボット』2019年 安徽少年児童出版
『ようこそ地球さん』2019年 安徽少年児童出版
次に台湾の出版社から出た1冊。『ブランコのむこうで』2015年 玉山社表紙には「星月書房」と印刷されていますが、奥付を見ると発行は「玉山社」となっていて、「星月書房」という記載は、どこにもありません。
どれも中身は読めませんが、星作品が増えるのは、うれしいことです(^^♪
※いずれも著者献本の重複本をいただいたので、どれも「新品」です。
星新一公式HPの中の「ホシヅル図書館」に、新たに「海外出版」の項目が出来ました。日本人作家の中で、翻訳出版されている国(言語)の数はナンバー1ではないかと言われていますが、その全容は分かっていません。ベルヌ条約に加盟前の出版や、著作権を無視した海賊版もあるので、全容が把握できないのです。この方面に造詣が深かったコレクターが、昨年、突然亡くなられたので、まとめるときは彼に尋ねればいいと思っていたので、途方に暮れています。
このコロナ禍で外出もままならない中、著作権管理をしている星新一氏の二女、星マリナ氏の努力で、各国の国会図書館に当たるところのデータベースや古書店のリスト検索を進めた結果、その一部が次第に明らかになってきました。その成果はすでに9月6日(星新一さんの誕生日)に公開され、その後も更新されています。https://www.hoshishinichi.com/list/list17.html
外国から古書を買うというのは初めての経験でしたが、ちょっと時間はかかるものの、手に入るのはうれしいものです。
海外出版リストを元にして、星さんの作品が収録されている、入手可能なアンソロジーを2冊、買うことができました。ほかにも手を尽くせば買えそうですが、海外からなので送料もかさむので、あまり手を広げずに我慢しています。
入手した2冊のアンソロジーは以下です。
『ハイネSF年鑑1986』Heyne Science Fiction Jahresband 1986 1986年2月刊 収録作品は「おーい でてこーい」です。
544ページもある、厚いペーパーバック版です。
もう1冊は”Vingt maisons du zodiaque” 1976年6月刊 イギリスで開催された第37回ワールドコンにあわせて複数の国で同時に刊行されたMaxim Jakubowski編のアンソロジー(15か国から20編のSF短編が収録)。収録作品は「愛の鍵」です。
しかし、この海外出版のリストをご覧いただくとお分かりのように、翻訳出版されている数は、許可・無許可にかかわらず、すごい数にのぼります。
とてもじゃないけれど、全部集めるのは、夢のまた夢です。