原題は"The Terrible Troll・Bird"
邦訳は『トロールのばけものどり』(いつじあけみ/訳 2000年 福音館書店刊)
今回は原書と邦訳の表紙を並べるだけにします。
著者のドーレア夫妻の経歴は原書や邦訳本の巻末に紹介されていますが、正確な情報が得られなかったようで、情報に違いが見られることに対して、苦言を呈しておきます。
★ 夫のエドガーの出生地 ★
邦訳『ひよこのかずはかぞえるな』(瀬田貞二/訳 所蔵本は1978年2月20日第2刷 福音館書店刊)と邦訳『オーラのたび』(吉田新一/訳 所蔵本は1986年9月10日第4刷 福音館書店刊)では「スイスで生まれ」になっています。原書 ”Troll”(1972年)でもスイスになっています。
しかし、邦訳『トロールのばけものどり』(いつじあけみ/訳 所蔵本は2001年7月15日第2刷 福音館書店刊)では「ドイツのミュンヘンに生まれ」となっています。その原書 ”The Terrible Troll・Bird” の巻末の経歴が書いてある文には生誕地についての記述はありません。訳者か担当編集者が別資料で調べたのかもしれません。
★ 没年 ★
夫のエドガー・ドーレアは(1989年~1986年5月)、妻のイングリ・ドーレアは(1904~1980年10月)ですから、夫より6年早く亡くなっています。
邦訳『オーラのたび』の初版が出たのは1983年ですから、妻のイングリ・ドーレアはすでに亡くなっていました。しかし、巻末の訳者による著者の経歴の文中では、妻イングリ(1904~ )、夫エドガー(1898~ )と存命中の扱いになっています。
邦訳『オーラのたび』の第4刷が刊行された時(1986年9月10日)には、すでにふたりとも亡くなっていますが、没年を入れなかったのは重版担当者のミスです。そうは言っても出版社の事情で、品切れ期間が長かった作品を急に重版することもあり、チェックせずにそのまま印刷されてしまうこともあるのだと思います。
★ アメリカに定住した年 ★
『オーラのたび』と『トロールのばけものどり』では1929年、『ひよこのかずはかぞえるな』では1930年になっています。どちらが正しいのでしょうか。
印刷された内容は、独り歩きを始めます。事実確認されないまま安易に引用され、さらにそれが孫引きされて……となると、何が正しいのかわからなくなっていきます。
著述を生業にする人、編集者は情報を正確に伝えていく責任があることを自覚していただきたいと思います。
文筆のプロではなくても、こうしたブログで情報発信するときは、ネット情報に限らず印刷されたものであっても、まったく悪意は無くても、「情報」を掻き集めて内容を鵜呑みにして発信してしまうと、不確かなはずの部分が消えて確かな情報として拡散していくことがあります。
情報の扱いには危さが含まれていることを自覚することが大切です。自戒を込めて……。