劇団燐光群の坂手洋二さん演出の「ストレート・ライン・クレイジー」

最初はすべての人物が、大声で自分の意見を主張。いかにも成長段階のアメリカという雰囲気で、教養の素地を必要とする台本。主人公はかなり嫌なやつだし、「ちょっと難しい、これ」と、一瞬おもいましたが、坂手さんの演出のテンポがすばらしく、2時間15分があっという間。
強引な手の限りを尽くし、権力に近づき、「思いどおりに道路を引く」という事業に成功していく主人公・ロバート・モーゼスは、やがて人生をまっすぐに力ずくで進めない時期につきあたります。人生前半、人々を力で引き付け、海を割るように前進するモーゼスですが、ついに道を阻まれてます。
しかも若者、黒人の女性新入社員や、無名の市民運動家に。
民主主義の名のもとに進められたかれの都市開発は、実は、WASPに有利なもので、有色人種や移民をニューヨーク郊外に追いやるものだったとわかっていく後半は秀逸。セントラル・パークを横断する高速道路をつくろうという彼の計画は、ついに頓挫します。家庭を省みなかったため、妻はアルコール障害で精神病院に。
普通はここで反省して負けを認めるものですが、彼はそうしない。「自分は泳いでいく。沖へ、沖へ、まだ先に」と、仲間を失い、仕事や家族を失っても自分を貫こうとする彼は誰よりも憐れで、、やがて訪れる死を予感させました。
彼の発言は全て時代遅れになっていました。車を所有し、早く効率的に移動することや、、特権に浴することより、人々は信頼できるコミュニティや、平等な議論、セントラルパークで過ごす時間を求めていました。
「自由なアメリカ」「民主主義のアメリカ」のダブルスタンダードを理解するには絶好の芝居。アメリカの保守とリベラルを支える人々がどんな人々か。やがてネオコンが台頭する前の、プロテスタントが強かった時代だとおもうんですが、アメリカの政治や宗教のバックグラウンドがよくわかります。要するにものすごい格差社会だということが。
そしてこれからの時代、私たちは個人の欲望の充足を求めて経済を活性化するのでなく、多様性を認め会いながら共存し、新しい形の幸福を探すべきということも。
しかし、かなり英米文学や聖書への理解がないと、冗談に笑えないかも(笑)。アメリカのマイノリティ―問題がが抱える空気、一部の成功者が感じている民衆差別や恐怖、執筆者のイギリス人がアメリカ人を描くときのアイロニーを読み取れると、かなり楽しめる作品。セリフはいちいち教養とウィットにとみ、すばらしいです。翻訳もうまいし!
これは本場アメリカやイギリスでも見みたい作品ですね。
外国作品を日本人が演じる違和感は常に付き物ですが、日本だけでうちに向けて発信しているだけでは日本は、やがて国際社会の足場を失います。こうした作品に意欲的に取り組むのは相互理解の第一歩。翻訳劇もどんどん行い、日本の文化や現代の政治や社会の問題も発信すべきと、刺激を受けました。わたしは、役者では、アル・スミス知事を演じた猪熊恒一さんが好きでした❣️
本作は29まで上演中。気になるかたはスズナリか、劇団燐光群(りんこうぐん)にお問い合わせください!
https://www.honda-geki.com/suzunari/
それにしても、一昨日の錦水のご飯は素晴らしかった❗また、椿山荘いきたいです
今週はあとは静養と回復に務めます。ご理解くださいね❗

















