歌庭 -utaniwa-

“ハナウタのように:ささやかで、もっと身近な・気楽な庭を。” ~『野口造園』の、徒然日記。

ソメイヨシノがまだ紅い時

2010年03月25日 | 徒然 -tzure-zure-
「開花宣言」のあと。

水を差すように
雨に次ぐ雨。

一気に冷えて、

今日も雨。


*

だけど


ひとたび 目が醒めた花の勢いは
止まらない。








一年ぶりに、こんにちは。

ソメイヨシノは、

まだ紅い。




『ソメイヨシノ』
という 日本じゅうあまねく植えられた桜の
花の色は、

よくよく見ると、

いわゆる「ピンク色」(桃色)では、ないんですよね。

いわゆるピンク色 というのは、桃色。桃の花の色。





ソメイヨシノの “さくら色” は、

ほんのり 薄い・淡い・甘い
“さくら色”

という色を 装った、

不思議な 白色をしています。


その白は

じっと見つめ居れば むしろぼやけて
意識がかすんでしまう気すらする、なんとも、肉体では捉え難い色。

消えてしまいそうに薄く
儚いようで、
いつまでも残る、どこか精神的な、深い色。


「幻惑的」だの「妖気」だのと
昔から繰り返し言われてきたように

その ひとひら ひとひらの
薄っぺらい小さなかたちと 相まって、

その “白” という色。


すべての色を呑み込んだ色。


その色にこそ、
人の正気を惑わせる“何か”が、秘められているような。











そんな“幻想”の色が ”現実”の色として見られるのは、
365日のうちの、
ほんの 14、5日ほど。
もちろん 地方ごとに時差がありますが。


その僅かな時を
340日、、、ほぼ一年かけて待ちかねている、この国の人たち。

一年待って溜め込んだ分の 浮き足立った熱狂を
桜は 巧みに煽り

春に酔いたい人の気持ちを 丸々かっさらって

そして

幻のように

不思議の余韻だけを残して

たちまち
どこかに 消え去ってしまう。





またそんな
ほんの短いはずなのに
深く意識に染み込んでいる不思議な季節が、
始まりそうです。


またきっと
なんとなく切なくなりながら、

なんとなく
浮わつくんでしょうね。



そして
たちまちに、お決まりに降る雨に落とされて

埋めて 流れて

散って破れて

去って行くのを



なんとなく 切なくなりながら、

なんとなく
忘れて行くんでしょうね。





ただ、今。

白い色の 咲き満ちる
その“寸前”。


もっと儚い、
刹那の 紅の色が、

さっきまで枯れ色だったはずの梢を
いっぱいに満たしています。

でも、
もうすぐにでも、眼前から消え去るでしょう。
明日にでも、晴れたりでもしたら。あっという間に。


でも
その紅色は、

咲いた桜の 白に、
ほんのり 余韻となって、残ります。

残像のように
影のように、残ります。

白い花を包み隠していた 紅は、
解き放たれた白のまわりに、
幻のように、漂います。

幻影のように、残ります。




桜の花は
咲き始めたら、散り始めます。

桜の花ほど
咲くことの儚さ 虚しさを 胸に突きつける花は、
無い。

桜の花ほど
切ない花は、そうそう、無い。



でも今は、
咲き始める寸前。


終わりが始まる直前の、
まだ紅い時。


産まれる間際の、
まだ紅い時。






明日の朝にでも もう消えてしまいそうな
紅い時。




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