小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

米トランプ大統領に「失望した」と言えない日本の首相。

2017-08-18 09:49:15 | Weblog
 米トランプ大統領が、ロシア疑惑に次いで危機に立たされている。米南部のバージニア州シャーロッツビルで生じた白人至上主義団体と人種差別に反対する一般市民の衝突を巡って二転三転するトランプ氏の発言が、事実上「白人至上主義」団体を擁護しているという非難が殺到しているからだ。
 事の発端は、奴隷制度の存廃を巡って黒人奴隷を貴重な労働力としてきた南部の州と、黒人を奴隷から解放して近代工業の担い手として黒人を南部から移住させたかった北部の州との武力衝突「南北戦争」で、南部の英雄だったロバート・E・リー将軍(南軍総司令官)の銅像が同地に建立されており、「人種差別の象徴」として市当局が撤去することを決めたことに、白人至上主義団体のKKK(クー・クラックス・クラン)などが12日に抗議集会を開きデモを始めた。それに抗議した人種差別反対を叫ぶ一般市民とが路上で衝突、一般市民の集団に車が突っ込み女性1人が死亡するなど大きな事件に発展した。
 これは余談だが、西郷隆盛の銅像は二つある。一つはもちろん上野公園に建立されている和装で犬を引いた銅像。この銅像は西南戦争の後、国民的人気が高く名誉回復を余儀なくされた明治政府が建立を認めたのがいきさつらしい。これは私の推測だが、政府が銅像建立の条件として軍装はダメとした結果ではなかったかと思っている。もう一つは昭和に入って軍国主義が跋扈した昭和12年に鹿児島市に建立された銅像で、こちらは陸軍大将の軍装である。
 全米を揺るがす発端になったシャーロッツビルのリー将軍の銅像は、馬上で南軍に突撃を指揮する像だ。これが軍装でなく、上野の西郷像のように平服の銅像だったら、いまでも南部の人たちから慕われている人物の象徴として、市当局も撤去しようとはしなかったかもしれない。
 余談のついでに、日本には戦闘中の躍動的な銅像は、私が知る限りないのではないか。一方アメリカでは戦闘中の躍動的な銅像が多い。銅像だけでなく、絵画でも戦闘場面を描いた絵は、アメリカに比し日本では極めて少ない。国民性の違いなのかもしれない。
 もう一つ余談だが、南北戦争で奴隷解放を実現したリンカーン大統領だが、彼は必ずしも奴隷解放主義者ではなかったようだ。現に開戦必至という状況に至った時点では北軍側は劣勢で、リンカーンは「北軍についた州の奴隷制度は維持する」と約束して南部の切り崩しを図ったくらいだった。「勝てば官軍、負ければ賊軍」は世界に共通した歴史認識手法であることを私たちは脳裏に刻みこんでおくべきだろう。

 本題に戻る。
 シャーロッツビルでの白人至上主義団体と一般市民の衝突の直後、トランプ氏は「各方面による憎悪や偏見、暴力を可能な限り最も強い言葉で非難する」と述べた。一見、物事を暴力で解決しようとすることは間違いだ、という主張に日本人には思えるかもしれないが、人種問題や宗教問題など様々な問題を抱えているアメリカ人はトランプ氏の「各方面による」という言葉に鋭く反応した。事実上、白人至上主義者団体を擁護したと国民の多くは考えたのだ。かくして全米各地で抗議デモが頻発し、肝心の足元である共和党内部からも公然たる批判が続出しだした。
 トランプ大統領も即反応した。14日にはネオナチやKKKなどの白人至上主義団体を名指しで批判、「人種差別は悪だ」として騒ぎの収束を図った。
 が、もともとトランプ氏が大統領になった直後から、トランプ氏の人種差別政策(メキシコとの国境に壁を作り不法移民は追い出す、特定のイスラム圏の国民の入国を禁止する、など)に対して全米各地で抗議デモが頻発していた。しかも選挙期間中に行われたテレビ番組で、トランプ氏は白人至上主義団体の支援を受け入れるかとの質問に「NO」とは言わなかった(これまでの歴代大統領はすべて拒絶してきた)。
 そうしたこともあって、付け焼刃的にKKKなどを批判しても、それはトランプ氏の真意ではないとアメリカ国民の大半は受け取ったようだ。その結果、この「弁明」はかえって火に油を注ぐ結果になった。
 騒ぎが拡大したことで居直ることにしたのか、トランプ氏は翌15日の記者会見で「双方に非がある」と述べ、再び「けんか両成敗」的主張に戻してしまった。「けんか両成敗」は「和を以て貴しと為す」という日本独特の道徳観に基づいた争いごとを丸く収める方法論だが、勝ち・負けをはっきりさせる欧米文化には根付かない価値観である。当然、人種差別反対の一般市民の非をことさらあげつらったことで、反トランプの運動は燎原之火のごとく広がってしまった。
トランプ氏の経済政策をバックアップするはずの二つの諮問機関に属していた大企業のトップが次々に辞任を表明、トランプ氏は16日、二つの諮問機関を解散すると表明した。
 一方アメリカ南部の都市に建立されていた地元の南軍将校の銅像を、人種差別反対の一般市民が破壊する騒ぎにまで発展した。アメリカのNPO法人「南部貧困法律センター」の調べによると、南軍の兵士や指揮官の銅像やモニュメントは718残っており、その多くは事件があったバージニアやジョージア、ノースカロライナなど南部の11州の都市に設置されているという。これらの像が人種差別の象徴か歴史遺産かは、われわれ日本人がとやかく言うことではないが、トランプ氏が17日、ツイッターで「美しい銅像やモニュメントの撤去で偉大な国の歴史や文化が傷つくのを見るのは悲しい。非常にばかげている」と、また世論を逆なでするような書き込みをした。
 北朝鮮問題でも、トランプ氏のやり方はビジネスにおける駆け引きの方法論をそのまま適用しているとしか思えない。時には明日にでも軍事行動に出かねないような強硬なツイートをしたかと思うと、その日のうちに手のひらを返すように話し合いに応じるかのような姿勢を見せてみたりして、北朝鮮だけでなく世界中を混乱に陥れている。
 ビジネスはいちど失敗しても、また取り返しがつくが、国際政治はそうはいかない。火遊びもほどほどにしないと、時には取り返しがつかないことになる。とくに、いまは北朝鮮もアメリカも、振り上げたこぶしを、どうやって自分のメンツをつぶさずにおろせるかの段階に来ている。そうした時に日本は河野外相と小野寺防衛相をアメリカに派遣して、さらに北への圧力を強めようと持ちかけたという。ばっかじゃなかろうか。せっかく金正恩氏が「アメリカの出方を見守る」とミサイル発射回避のサインを送っているのに、さらに北への圧力を強めたら北も振り上げたこぶしを下ろせなくなってしまう。

 それはともかく、安倍さんもトランプ大統領におべっかばかり使うのではなく、少しは日本の総理として誇りを持った苦言を呈してみたらどうか。
 安倍さんは総理に就任した直後の2013年12月26日、現職総理としては7年半ぶりに靖国神社に参拝した。この時米政府高官(たぶん国務長官ではないかと思うが、いまだ明らかにされていない)から「失望した」と批判された。以来安倍さんは靖国参拝を取りやめたが、安倍さんもたまにはトランプ氏の人種差別的発言やツイートに対して「失望した」と言ってみたらどうか。それともトランプ氏の人種差別思想に共鳴しているのかな?
 それならそれで、「私はトランプ氏のツイッターに『いいね!』をした」と堂々と言えばいい。


 
 
(追記) このブログを投稿した18日(日本時間)、トランプ大統領の「生みの親」とも呼ばれ、これまで「影の大統領」とも称されていたバノン首席戦略官が退任した。バノン氏が就いていた首席戦略官という職は、トランプ氏が彼のために作った役職で、バノン氏の退任によってこの職が「空席」になるのではなく、消滅するとみられている。
 バノン氏は極右思想のネット・メディア『ブライバート』の会長で、大統領選挙ではトランプ氏の選対最高責任者として選挙戦を勝利に導いた人物。メキシコ人や黒人労働者によって職を奪われたり、低賃金で苦しんでいた低所得白人層をターゲットに「メキシコとの国境に壁を作る」「イスラム教徒の入国を禁止する」などの排外キャンペーンを展開した中心人物でもあった。
 私は昨日投稿したブログでは確信が持てなかったので書かなかったが、バージニア州でのネオナチ集団やKKKが南軍の英雄・リー将軍の銅像撤去に反対してデモを行い、人種差別に反対する一般市民集団と衝突した事件で、トランプ氏のツイートや発言がなぜ二転三転したのかの理由が、バノン氏の退任でようやく明らかになった。
 アメリカの政局は、共和党のトランプ氏が大統領になったことで「ねじれ」状態は完全に解消した。表向きは、だが…。
 前大統領のオバマ時代に、ようやくまとまったTPP交渉をオバマ氏が批准に持っていけなかったのは、アメリカ議会が上下両院とも共和党が多数を占めており、議会に否決されることが必至だったからだ(上院は定数100のうち共和党が52議席、下院は定数435のうち共和党が240議席を占めている)。
 問題はアメリカの議員は日本と違って「党議拘束」を受けない。そのため「ねじれ」が解消したといっても、トランプ政権の政策が必ず議会を通過するとは限らないのである。日本でも党議拘束は憲法違反だとして禁止されれば、やりたい放題だった「安倍一強体制」は作れなかったと思う。
 トランプ氏が大統領になっても、共和党議員がトランプ政策に堂々と批判したりできたのは、トランプ氏の支持率が最初から低かったからではない。どんなに支持率が低くても、アメリカ大統領の権限は日本の総理大臣の権限よりはるかに大きい。だからトランプ氏は司法長官の首を簡単にすげ替えたりできたのだ。が、いくら権限が大きくても、議員の首を切ることは不可能だ。議員はそれぞれの選挙区で有権者から直接選ばれており、彼らの自由な政治スタンスに大統領といえども手を出せないのだ。
 トランプ氏が、バージニア州の衝突問題でスタンスを二転三転したのは、自分が大統領になれた最大の功労者であるバノン氏への配慮と、その一方で議会の多数を占める共和党議員、とりわけ穏健派への配慮の板挟みになっていたためと考えていいだろう。
 私の観測は、ここから一般のメディアの観測とは全く異なるが、おそらくバノン氏はこれ以上自分が大統領首席戦略官の地位にとどまると、ますますトランプ氏を窮地に追い込みかねないと考えたからではないかと思う。
 たとえば毎日新聞によれば「移民排斥などトランプ政権の過激な政策を主導してきたバノン氏を巡っては、保守穏健派も取り込んだ本格政権形成の妨げになるとして、更迭論が高まっていた」ようだが(19日のネット配信記事)、バノン氏はそうした共和党内の混乱を鎮静化するため政権中枢から身を引くことにしたのではないかと思う。
 バノン氏の退任によって、考えようによっては多少身軽になったとも言えなくはないトランプ氏だが、では再び反「白人至上主義」に転換するかと言えば、必ずしもそうは言いきれない。むしろバノン氏という「重し」が取れることによって、だれの影響もうけることなく排外主義的政策を推し進めようとする可能性のほうが高いのではないだろうか。

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