小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

安倍総理の「ひどすぎるヤジ」の乱発は政権の命取りにならないのか?

2020-02-16 08:13:58 | Weblog
 国会審議中の安倍総理のヤジ発言が「ひどすぎる」と問題になっている。毎日新聞の調べによれば昨年だけでも26回もの不規則発言をしたという。「早く質問しろよ」「まあいいじゃん、そういうことは」「反論させろよ。いい加減なことばかり言うんじゃないよ」といったたぐいだ。とりわけひどかったのは、昨年11月6日の衆院予算委員会で今井雅人議員(無所属)が、加計学園問題に関連して文科省内で見つかった文書について質問中、総理が閣僚席から今井氏を指さしながら「あんたが作ったんじゃないの」と侮辱的発言を行い、最終的には陳謝に追い込まれた。一国の総理として品格が問われても仕方あるまい。
 今国会でも品のない総理のヤジが物議をかもしている。12日の衆院予算委で辻元清美議員(立憲民主党)が桜を見る会や加計学園問題についての質疑の最後に、「タイは頭から腐る。そろそろ総理自身の幕引き時では」と苦言と呈して発言を終えたとき、安倍総理が閣僚席から「意味のない質問だよ」とヤジを飛ばし、野党側の抗議によって予算委はストップしてしまった。確かに「タイは頭から腐る」云々という「捨て台詞」は褒められたものではないが、そもそも桜を見る会や加計学園などの総理関連の疑惑に総理自身が誠実に対応してこなかったことが国民の不信感を増幅し、いまだに国会で肝心の政策論議が進まない原因である。
 権力は議会における多数派(与党)だけが持っているわけではない。野党議員でも、地元で選挙で勝利したということは、少なくとも地元ではかなりの権力を行使できる。IR疑惑に関しても、中国のカジノ企業は地元で力を持っている野党国会議員も懐柔しようと金を使う。そういうケースは与野党を問わず検察が動く。問題は秋元司衆院議員(自民党、現在は離党)が中国のカジノ企業「500ドットコム」から760万円相当の現金や旅費などの金銭的便宜を受けていたケースだ。そのうち那覇市でのカジノ誘致の講演代200万円や、家族連れでのマカオ視察の旅行費・遊興代が含まれているという。少なくとも政治家が地元で講演する場合、自分の支持者を増やすためだから出費はあっても講演料を取るなどということはありえない。秋元氏の場合、地元は東京だから、那覇で講演しても支持者を増やすことにはならない。が、秋元氏の権力を利用しようという魂胆がある場合、秋元氏に多額の金を払って地元外での講演を依頼する企業があることは不思議ではない。当時、秋元氏はIR担当の内閣府副大臣を務めており、IR誘致に関してかなりの権限があった。だから中国企業も破格の講演料を払って那覇市での講演を秋元氏に依頼したことは、常識的に考えて100%間違いない。野党側が秋元氏の証人喚問を要求するのは当然であり、秋元氏はやましいことがなければ、自分の講演料の相場が200万円くらいであることを実例をもって証明する必要がある。
 同様に安倍総理の場合も森本学園問題では昭恵夫人の関与、加計学園問題では総理自身の関与、桜を見る会問題では総理招待の実態や前夜の宴会について疑惑を持たれていることについて、やましいことがなければ、すべて証拠をもって明らかにしなければならない。野党側がこれらの問題を執拗に追求するため肝心の政策論議が進まないという議論もないではないが、その責任は野党側ではなく、説明責任を一向に果たそうとしない総理にある。たとえば総理招待の名簿に関しても、内閣府が破棄したというなら総理自身が自ら「うちの事務所にはリストがあるから提出する」と言えば、それで一気に問題は解決する。言っておくが政治家がこうした招待をした支持者リストを事務所が持っていないなどということは、中学生に対しても説得力がない。もし、事務所が招待者リストを保管していないということであれば、支持者が毎年ガラリと入れ替わるから、招待者リストを保管していても意味がないというケースだけだ。支持者が毎年入れ替わるような人が選挙でなぜ勝てるのか、摩訶不思議な話だ。そんな方法があれば、ぜひ公開してもらいたい。志はあっても地盤・看板・かばん(金)がないため政治家の道を閉ざされている人が少なくないのだから、「出たい人より出したい人」が選挙で勝てるような政治風土を構築するためにも、そのマジックの種明かしをしていただきたい。そうすれば国民栄誉賞ものだ。
 国会でも地方議会でも、ヤジは基本的に野党側の権利である。それが分かっていない人に、民主主義を語る資格はない。なぜなら、選挙で勝利した側が与党になり、負けた側は野党になる。選挙で野党が掲げた政策が議会で審議されることはなく、議会で審議されるのは与党が掲げた政策である。だから国会であろうが地方議会であろうが、野党は与党(政権側)の政策に対して疑問をぶつけ、与党の政策担当責任者(国会の場合は総理を含む担当大臣)の答弁を要求しなければならない。与党が、野党の掲げた政策に対して与党議員が質疑し、野党の答弁を求めることなど議会制民主主義の下ではありえない。
 まず、そういう前提で質疑答弁のあり方を考えたら、野党の質問に対して与党側の責任者がまともに答えず、ごまかしたり、問題をすり替えたり、虚偽の答弁を行ったりした場合、野党側議員にとって唯一許される民主的批判の方法がヤジである。仮に野党議員が的外れな質問をしたり、質疑の意図が不明確である場合は、答弁者が答弁の中で野党議員をやり込めればいい。ヤジで質問を遮ったり、野党議員をバカにするようなヤジ発言が、総理や閣僚たちが自分たちの「権利」だと思い込んでいるとしたら、とんでもない驕り高ぶりである。実際、野党議員が発するヤジで最も多いのは「答えになっていない」「ごまかすな」「問題のすり替えだ」といった答弁内容に対する批判である。野党議席からそういうヤジが飛ぶこと自体、与党側に答弁についての真摯さと謙虚さが失われているからと言ってもいいだろう。
 ところが、15日、自民党の森山裕・国対委員長が鹿児島県霧島市での講演でとんでもないことを言い出した。すでに述べた辻元議員への総理のヤジについて「総理も言われっぱなしになると、腹が立って言いたくなるのはよくわかる。わかるが、不規則発言は与党も野党もしてはいけない。政府もしてはいけない。そのことはご理解いただいて、国会運営を進めることが大事だ」と。この発言について、与党内からも安倍総理のヤジに対する批判が出てきたととらえたメディアが多いが、私に言わせればとんでもない話だ。「総理も冷静に」と言っているように一見聞こえなくもないが、与党と野党は立場が違う。すでに述べたが、国会でも地方議会でも、権力を握っているのは与党だ。その与党内で最高権力者である総理(地方の場合は知事、市長、町長、村長)が疑惑を持たれるようなケースが生じた場合、疑惑を晴らす釈明義務は当然権力側にある。与党の権力を否定するような議会運営をするというなら、与党の政策だけでなく野党の政策も議会で平等に議論し合って、最終的な決定権は有権者に与えるべきだ。議会制民主主義はそういうことを前提にしていない。だから野党は与党を追及するために質問をぶつけるし(与党議員もなれ合い質問をするが)、野党議員の質疑に対して総理や閣僚が誠実に答えないから野党席からヤジが飛ぶ。これは議会制民主主義を守るための、野党にだけ与えられた最終的な権利であり手段だ。野党議員が発するヤジと、与党議員や総理・閣僚が野党の批判封じのために発するヤジは同列ではない。森山氏は国対委員長としての見識のひとかけらも持っていないと言わざるを得ない。
 かなり昔になるが、1953年2月28日の衆院予算委員会で、当時の吉田茂総理が社会党右派の西村栄一議員との質疑応答の過程で、感情的になりすぎた吉田総理が「バカヤロー」と発言し、この発言がきっかけで吉田内閣は国会で不信任案を可決されて衆院を解散したことがある。世に言う「バカヤロー解散」である。なお吉田氏は安倍総理と同様第1次政権(1946年5月22日~47年5月24日)と第2次政権(48年10月15日~54年12月10日)と長期政権を維持したが、「バカヤロー」発言も長期政権の驕りの表れともいわれ、「バカヤロー解散」の引き金となった。いま安倍政権は当時の吉田内閣と同様の末期的状況にあるのかもしれない。日本には「実るほど頭(こうべ)が垂れる稲穂かな」という格言があるが(※稲は育つと実が垂れることから、人も社会的地位が高くなるほど謙虚になれとのたとえ)、日本の政界は遺伝子操作による品種改良のせいか、「実るほど頭が持ち上がる総理かな」になってしまったのか。
 いずれにせよ、いったん空転した衆院予算委だが、与野党の国対委員長会議で17日に安倍総理が釈明することで再開することで合意に達したが、昨年9月の内閣改造直後に閣僚2人が引責辞任したとき安倍総理は「長期政権の驕りとゆるみがあった」と頭を下げて半年もたたないうちに総理自身のヤジ問題で国会が空転しただけに、果たして野党が矛先を収めるような反省の弁を述べるか否か疑問は残る。いずれにせよ、総理の釈明を見たうえで、ブログを更新するのではなく、本稿の【追記】として釈明の弁の分析を書き加えたい。

【別記】新型ウイルスの広がりが収まらず、ドラッグストアや薬局、スーパー。100円ショップなどでマスクの品切れ状態が続いている。そのうえ日本は本格的な花粉の時期に入ろうとしている。私自身は花粉症ではないので、人混みが多い都心に出ることは避けているが花粉症対策のマスクは必要としていない。が、ネット・オークションには大量のマスクが出品されている。出品数も50枚とか100枚くらいだったら個人の保管品の可能性もあるが、千枚単位、万枚単位の数量となると個人の保管品とは言えない。石油ショックの時の洗剤やトイレットペーパーの買い占め売り惜しみ、抱き合わせ販売の再現としか考えられない。人の弱みに付け込んだ悪徳オークションを取り締まる方法はないのか。場合によっては私自身が新規のオークションIDを獲得して全数量を不正落札し、そのまま支払わずに放っておくという方法も、いま考えている。協力してくれる人がいればありがたい。日本も捨てたものではないと思う。


【追記】17日、午前9時、衆院予算委が始まった冒頭で安倍総理がヤジ問題について謝罪した。「不規則発言をしたことをお詫びする。今後、閣僚席からの不規則発言は現に慎むよう身を処していく」と。謝罪としてはそれでいいが、安倍総理の性格だと思うが、自らが総理として答弁しているときでも、野党議員からヤジが飛ぶと色を成して威圧的な反撃をするケースがかなり多い。すでに述べたように、議会制民主主義では答弁中にヤジ発言をするのは野党側のみに許された権利である。もちろん杉田水脈議員のように品性のひとかけらも感じられないヤジまで許容されているわけではないが…。あっ、ゴメン。杉田氏は自民党議員だった。安倍さんには閣僚席からの不規則発言だけでなく、答弁中での不規則発言も今後、慎んでもらいたい。
 トランプ氏もカッとなりやすいタイプのようだが、彼はそのことを自覚しているから問題になるような発言はほとんどしない。その代わりツイッターを何度も書いてストレスを解消しているようだ。安倍さんも、頭にくるようなことがあったらツイッターで憂さを晴らすことを覚えたらいかがかな…。


 
【追記2】もう「呆れた」というしかない。私が安倍総理の謝罪について【追記】を書きアップしたのは17日の午前9時30分頃。そのあと外出したので、その後のNHKの国会中継は見ていない。今朝(18日)、新聞報道を見てびっくりした。ヤジ騒動のきっかけとなった辻元氏の質疑に対して総理が閣僚席から飛ばしたヤジが「あまりにも不謹慎ではないか」という反発が与党内からも生じ、17日の衆院予算委の冒頭で総理はしおらしく謝罪してみせた。が、辻元氏は第2弾を用意していた。2013,14,16年に桜を見る会の前夜祭(安倍事務所主催)が行われたANA(全日空)インターコンチネンタルホテル東京での費用について、見積書や請求明細書を主催者側に発行しないケースがあるかをホテル側に確認し、そういうことはないとの回答を得ていたことを明らかにしたのだ。それに対して総理は「事務所が確認したが、ホテルは一般論として回答しただけで、個別の案件については営業の秘密に当たるので回答のケースに含まれていないとのことだった」と答弁した。そういうことがありうるのか。
 例えば非合法団体の秘密パーティであれば、そうしたケースも考えられないではないが、桜を見る会の出席者のパーティである。外部に漏れてはならない、何らかの非合法な催しがあったのだろうか。通常、大規模なパーティの場合、受付や参加費の集金。領収書の発行は主催者団体が行う。領収書はすでに宛名抜きで印刷されたものが用意され(最近は宛名まで印字されているケースが増えているようだが)、宛名は参加者から要求されれば、その場で主催者側が手書きで書く。ホテル側が参加者に直接領収書を発行することは絶対あり得ない。安倍さんがそんな常識を知らなかったのには、それなりの理由がある。
 安倍さんに限らず政治家や企業の経営者など、いわゆる大物の場合、参加費を払わなければならないようなパーティに呼ばれることはまずない。「御招待」という名目で呼ばれる。では、その招待状をもって手ぶらで参加するかというと、見識が問われるのが普通だ。たとえば参加費が1万円の場合、{無料}招待された人は最低でも3倍の3万円を「お祝い」などの熨斗を付けて持参する。安倍さんクラスになると3倍というわけにはいかない。最低でも5倍、10倍を包むのが常識だ。この場合、領収書は要求しない。本音としては領収書が欲しいのだろうが(領収書があれば政治資金収支報告書に記載できるから)、日本の文化でははしたない行為とみなされかねないからだ。結婚式の披露宴で包む「お祝い」を考えてもらえばいい。いくら包むかは新郎新婦の上司か友人かで額が違うのと同じだ。でも、領収書を要求する人はいない。また引き出物も額に応じて差別したりはしない。要するに安倍さんは身銭を切ってパーティに参加したりしたことがないため、そういう常識をわきまえずに生じた誤算だと思う。安倍さんに常識を教えなかった事務所にも問題があるが、要するに「裸の王様」でしかなかったということが、この1件で明らかになったと言えよう。


 【追記3】「本物か」思わず目を疑った。21日、産経新聞がANAホテルの発行した懇談会の領収書を入手したとして写真を公開した。領収書そのものは間違いなく本物のようだ。が、領収書そのものが本物だとしても、ANAホテルの社員が参加者一人ずつから会費を集め、その都度領収書を発行したかどうかは別だ。実は産経新聞が明らかにした領収書は、「上」さま、日付、金額(5,000-)、名目(夕食懇談会として)がすべて手書きなのだ(日付はぼかしてあるため、いつの懇談会のものかは不明)。
 安倍総理が招待した「桜を見る会」の全員が懇談会に出席したわけではないだろうが(いくら立食のパーティといっても数千人が入れるような宴会場があるとは考えにくい)、ホテル側が受け付けることは絶対あり得ない。産経新聞が明らかにした領収書が本物だとすると、事前に参加人数分の領収書の束をホテル側が主催者に渡し、主催者側があらかじめ日付、名目、金額などを手書きで記入しておき、参加者が参加費を支払ったときに宛先を書いたのか、あるいは「上」さま宛名をあらかじめ記入しておいた領収書と、無記入の領収書の2通りを用意しておいたか、のどちらかだろう。まさか産経新聞が領収書をねつ造するとは考えられないから、この領収書自体は本物と考えて差し支えないだろうが、いちいち受付ですべてを手書きで書くようなことをしていたら、少なくとも1000人は超えたであろう懇談会に何十人の受付を用意しなければならないか、明らかに物理的に不可能な話だ。つまり産経新聞が思い込んだように、安倍総理が「上」さま宛の領収書をホテル側が発行したと主張した答弁の裏付けにはならない。



 

かんぽ生命不正問題検証第3弾――増田新体制でも解決にはほど遠い。

2020-02-10 02:34:35 | Weblog
 去る1月31日、かんぽ生命が「業務改善計画」を公表した。当日、日本郵政の社長に就任したばかりの増田寛也氏(元岩手県知事・総務大臣)が記者会見を開いてかんぽ生命をめぐる不祥事について謝罪するとともに二度と不祥事を生じないように全力と尽くすと、国民に誓った。が、本当に不祥事を根絶できるか、私はかなり疑問を持っている。その最大の理由は、なぜ暴力団まがいの詐欺商法が罷り通ってきたのかの原因の究明をなおざりにしたまま、トカゲの尻尾切りのようなことをやって「問題は解決しました」で済ませるつもりなのかという疑問がぬぐえないからだ。メディアもまた不祥事のケースをあぶりだすことだけに熱中し、なぜ不祥事が蔓延したのかの原因究明には取り組んでこなかったせいもある。私はすでに昨年8月5日にアップしたブログ記事『日本郵政グループの組織的詐欺はなぜ生じたのか? 昨年(※2018年)4月にNHKが報じていたことを「知らなかった」では済まされない』で原因を解明している。さらに今年に入って1月12日にも『日本郵政グループは新体制で小泉郵政民営化の「負のレガシー」を根絶できるか』をアップした。重複する部分もあるが、増田新体制でかんぽ生命は立ち直れるかを検証する。
 とりあえずかんぽ生命が公表した「業務改善計画」の重要な個所を転載する(原本はかんぽ生命のホームページに掲載されている報道機関向けのニュースリリースによる)。なおこのニュースリリースで報道機関は大混乱した。あらかじめ書いておくが、当日(1月31日)のNHKニュース7や2月1日付の日経はかんぽ生命が過去5年間に10件以上の新規契約をしたケースについて、契約者に不利な契約を強いていないか調査すると報道した。一方、朝日新聞は「過去5年間で新契約に15件以上加入」したケースについて調査すると報道した。なお1月31日は金曜日であり、翌2月1日は土曜日である。かんぽ生命は休日であり、直接確認しようがなかった。ただ、朝日には2月1日に「誤報の疑いがある」とお知らせはしておいた。2月3日(月曜日)、私はかんぽ生命のコールセンターに電話をして、メディアによって報道が混乱しているようだが、調査対象は10件の新規契約者なのか、15件の新規契約対象者なのかと聞いた。コールセンターの担当者は「10件です」と明確に答えたので、私は朝日の記事は誤報だと確信しメールと電話で訂正を求めた。が、4日の新聞も5日の新聞も誤報訂正記事を掲載しなかった。で、私は改めて真実を探るため、かんぽ生命のホームページを開いて「業務改善計画」の内容を調べた。そうした事情があったことを前提に、かんぽ生命が報道機関に公表した業務改善計画のニュースリリースに記載された調査対象の箇所を転載する。あらかじめ申し上げておくが、わかりにくいことおびただしい。報道機関が錯覚するのも無理はないと思えるいい加減さである。

2020 年2 月から全ご契約調査のさらなる深掘調査として、かんぽ生命支
店の社員による訪問等を優先順位の高いものから順次開始し、お客さまの
ご不満やご意見等の確認、当時の募集状況の調査を行い、不利益が発生して
いるお客さまについては、その解消を図ってまいります。
全ご契約調査等でお客さまからいただいたご回答・ご意見等の中には、多
数回にわたって契約の消滅・新規契約が繰り返されており、お客さまのご意
向に沿ったものではない可能性が想定されるケース(下記「①多数契約調査」
参照)があり、そのなかでも優先的に対応を開始するお客さま(約900 人:
過去5 年間で新規契約を15 件以上加入し、その半数以上が消滅)について
は、かんぽ生命支店社員が訪問し、ご契約内容の確認を2020 年2 月末を目
処に進めてまいります。
上記以外のお客さまについても、かんぽ生命支店社員が対象のお客さま
を訪問し、ご契約内容の確認を2020 年4 月末を目処に進めてまいります。
① 多数契約調査
区分 調査対象(定義) 対象契約者数
多数契約
過去5 年間で新規契約を10 件以上加入し、その3 割以上が消滅(解約、失効、減額または保険料払済契約への変更を指す。下表②において同じ。)したもの 約0.6 万人
(※)多数契約の調査対象となる契約者には、下表②でも調査対象となる契約者が含まれている(重複した契約者は多数契約の対象契約者数に計上)。


 私もこの調査方法について、最初はよく理解できなかった。常識的に、不祥事の調査をレベルごとに数回に分けて行うということはありえないと思っていたからだ。だが、よく読んでみるとどうも2段階に分けて調査するようにしか思えない。で、かんぽ生命のコールセンターに問い合わせると、やはり2段階で調査することがはっきりした。つまり、
① まず5年間に15件以上の新規契約者を対象に調査する。(2月末まで)
② 次に5年間に10件以上の新規契約者について調査する。(4月末まで)
「そういうことか」とかんぽ生命のコールセンターに尋ねたところ、「その通りです」との返事が返ってきた。「なぜ2段階に分けて調査する必要があるのか」と、さらに質問したが「私には分かりません」だった。ただ「わかりにくい説明だった」ことと「報道機関が混乱した原因が業務改善計画の説明にあった」ことは認めた。一応私は朝日に訂正記事の掲載を求めたこともあり、事実をお伝えした。朝日の「お客様オフィス」の担当者は「お分かりただいてよかったです」との返事があったので、「誤報とは言えないかもしれないが、少なくともかんぽ生命の2段階調査について②をねぐったのは正確な記事とは言えませんよ」とだけ申し上げておいた。
 それはともかく、かんぽ生命の2段階調査には、何か魂胆があるのではないかという疑問はぬぐえない。
 私も結婚して最初の子供が生まれたとき、かんぽ(当時は簡易保険)ではないが民間の生命保険会社の保険に加入した。万一に備えて当時の収入で保険料を払える可能な限り高額の補償の生命保険を選んだ。保証期間より補償額を優先したため、満期は55年と短いものにした。その後、収入も増え、生活も安定したので満期を65歳まで伸ばし、補償額も増加し、さらに入院補償もついた保険に切り替えた。私が途中で契約を変更したのは、この1回だけである。保険は自動車やテレビのような耐久消費財ではない。また保険商品も自動車やゴルフ・クラブのように定期的にモデルチェンジするような嗜好性の高い商品ではないはずだ。5年で10回も15回も保険を変更したり、あるいは新商品の保険に加入すること自体、常識的に考えられない。

 かんぽ生命の2段階調査の問題に戻る。まさか、かんぽ生命は1段階目の「5年間に新規契約15件以上」のケースの調査を完了したら営業活動を再開してもいいと考えているほど図々しくはないだろう。だとしたら、なぜ「15件以上」の調査を2月末までに済ませたうえで、「10件以上」の調査に取り掛かろうと考えたのいか。まさか、「15件以上」の調査は厳しくやるが、「10件以上」の調査は手抜きするつもりではあるまい。そんなことをしたら、かんぽ生命は永遠に回復不可能になる。朝日をはじめ、メディアはこの疑問をなぜかんぽ生命にぶつけなかったのか。あっ、そうか。そもそも調査を2段階に分けてやることに気づかなかったようだから、こうした疑問も生じようがないわな。
 さらに、かんぽ生命はこの2段階調査で不祥事問題に蓋を閉めるつもりなのか。そういう裏約束が政府との間でできているのだろうか。すでに述べたように、生命保険はそんなにしょっちゅう変更したりするものではない。少なくとも高齢者の場合、保険治療では賄えない高度先端医療が受けられるような入院保険・医療保険くらいしか加入する意味がないだろう。そう考えたら、少なくとも60歳以上の新規契約者については、たとえ1件の加入でも郵便局員による不正な勧誘がなかったか否かを徹底的に調査すべでではないだろうか。そこまでやらないと、かんぽ生命に対する国民の信頼は回復しない。
 そもそも郵便局員がなぜやくざのような詐欺まがいのやり方でかんぽ生命の保険を高齢者に売りまくったのか。メディアの報道によれば、被害者の大半は認知症か、認知能力がかなり低下している高齢者だという。実際、若い人だったら、そんな詐欺商法には引っかからないだろう。少なくとも5年以内に10件や15件もの新規契約をしたりは絶対しない。かといって郵便局が身元不審な人物を採用したりはしないはずだ。メディアは「ノルマに追われた」とか「パワハラに屈した」などと報道しているが、郵便局員やその上司がそこまで追い込まれた理由については追及していない。私は昨年8月にブログを書いた後、NHKや朝日に対しては情報を提供してきたが、私の分析理由を認めながら、なぜか報道に反映しない。実は、問題が生じた原因を簡単に書くと、小泉郵政改革の「負のレガシー」がかんぽ生命問題に集中的に表れたと私は考えている。
小泉総理(当時)が郵政民営化を進めようとしたとき、自民党内にはかなりの反対派がいた。衆院では僅差で郵政民営化法案はいったん可決したが、参院ではかなりの造反者が出て否決された。そのため小泉氏は衆院を解散、造反議員の選挙区には「刺客」候補者を擁立し、民営化について国民に信を問うという挙に出た。このとき、ほとんどのメディアは郵政民営化を支持し、衆院選でも賛成派が圧勝した。結果、「小泉一強体制」が確立し、参院の造反派議員も態度を豹変し、郵政民営化法案は一気に可決成立した。
この時期、まだスマホは誕生していない。スマホが郵便事業の大敵になることなど、だれも予想できなかった。民営化反対派議員も、特定郵便局の集票力を失うのが怖くて反対しただけだったから、メディアも反対派の肩を持つことはなかった。が、アップルがiPadに続いてiPhoneを世に送り出したことによって、文字による通信手段の主流は手紙やはがきから一気にメールに移行していく。郵便局にとって最もおいしい郵便商品の年賀はがきも、スマホが誕生して以降の10年間で34%も激減した。
民営化によって独立採算が義務付けられた日本郵便(郵便局)はたちまち窮地に追い込まれた。郵便局の営業商品は郵便物の集配、郵便貯金とその付随商品、そしてかんぽ生命の保険が基本である。とくにアベノミクスによって低金利政策が続き、前回のブログで書いたように金融機関は軒並み窮地に追い込まれている。そのためゆうちょ銀行の商品は魅力を失い、またスマホの普及によって郵便事業も赤字化するようになった。郵便局を維持するためには、ゆいつ儲かる商品であるかんぽ商品に頼らざるを得なくなったというわけだ。
実際、民営化先進国のヨーロッパの郵便局は日本のように金融商品や保険商品を扱っていないため、郵便料金を大幅に値上げしたり、集配回数を週に1回に減らしたりして合理化努力を重ねているが、それでも赤字状況を根本的に改善することはできず、国から補助してもらっている。そうした事情を勘案すると、日本の郵便局も「かんぽ商法」に頼らずに済むよう、郵便料金の大幅値上げと、特に地方では集配回数をヨーロッパのように激減するしかない。「地方の切り捨て」という批判も出るだろうが、過疎化が進む地方の住民の利便性を可能な限り確保するためには、例えば「移動スーパー」に郵便物の集配を委託するなどの工夫をするしかない。そうすれば週に2~3回は集配できる。みんな人間なんだから、そのくらいの頭は使ってほしい。
【追記】なお「移動スーパー」への委託について「信書の扱い」云々といった頭の固い批判が出ると思うので、あらかじめ言っておくが、郵便物の集配は正規雇用の局員だけが行っているわけではない。「移動スーパー」の運転手と集配郵便局がアルバイト契約すればいいし、それはダメというなら逆に郵便局がスーパーと契約して「移動スーパー」業務を請け負えば済む話だ。頭は生きているうちに使え。