今年最後のブログを書く。
実は今年は例年書いてきた『今年最後のブログ』は書くつもりはなかった。3回連載の『総務省に物申す』の最終回(「NHK解体新書」)を来年仕事始めの1月4日にアップする予定だったからだ(原稿自体はとっくに仕上がっている)。が、いまメディアやネットで炎上状態の自民党キックバック問題について以前から疑問を持っていることについて急遽、ブログを書くことにした。そのため、『総務省に物申す』の第3弾は年明けの1月8日にアップする。
●なぜ「天下の特捜」が組織を上げて捜査に乗り出したのか
実は東京痴漢特捜部(特別捜査部)が総力を挙げてこの問題を追求し始めたとき、私がまず疑問を抱いたのは「なぜ特捜が?」ということだった。
特捜は検察庁の花形部門で、過去の大規模事件は田中角栄総理(当時)が収賄罪に問われたロッキード事件や、多くの政治家が上場まじかの不動産業、リクルート・コスモスの未公開株をリクルートから安価で購入して大儲けした事件でリクルートの創業者、江副氏が贈賄罪で起訴され有罪(ただし執行猶予)になり、竹下内閣総辞職の要因になった(ただし大物政治家は全員不起訴)ケースが有名である。
この二つのケースに象徴されるように、特捜の仕事は政治家とくに国会議員の贈収賄事件の摘発が多い。ただし、いちおう特捜の捜査案件は公正取引委員会、証券取引監視委員会、国税庁などが告発した大規模な事件や汚職(汚職は公務員の収賄に限っての犯罪)・企業犯罪なども捜査対象になる。そうした特殊な性格のため、特捜部が設置されているのは東京・大阪・名古屋の3都市だけである。
また最近では、参院選広島選挙区で河井杏里の立候補に伴い地方議員への大規模な買収事件が生じ、広島地検特別刑事部が捜査を開始、東京地検特捜が買収の士気をとった事が明らかになって東京地検特捜部が河井夫妻を逮捕、河合克之衆院議員、杏里参院議員ともに議員を辞職したケースがある。
こういう特捜の役割を考えたとき、自民党各派閥の政治資金パーティで党員議員が割り当てノルマ以上のパーティ券を売りさばいた時、超過部分を当該議員に返金したことが(いわゆる「キャッシュバック」、特捜が乗り出すような事件なのかという疑問が生じたのだ。
とくにメディアの報道によればキャッシュバックそれ自体が犯罪行為に当たるわけではなく、キャッシュバックされた金を議員たちが政治資金収支報告書に不記載だったことが問われたためという。収支報告書に不記載だったため、キャッシュバックされたカネは事実上、表に出さなくても済む「裏カネ」という位置づけになる。が、キャッシュバックという行為は贈収賄に当たるわけではない。ではキャッシュバックがなぜ大問題に発展したのか。
まず政治資金報告書への不記載が規定を超えていたというケース。いちおう政治資金記載要件は1件20万円以上ということになっている。政治家の場合、カネの出入りが激しく、議員がすべての出入金を記載する時間的余裕がないという理由から、ある程度の目こぼしはやむを得ないと考えたようだ。が、政治資金の収支報告書作成を政治家自身が直接行ったりはしない。すべて会計責任者が行っており、会計責任者は正規の領収書もあり、政治資金として報告すべきことが分かり切っている場合はいちいち議員に記載の指示を仰いだりはしない。会計責任者たるもの、政治資金規正法は熟知しており、報告書への記載についての判断が困難なケースだけ、議員に処理方法の指示を仰ぐ。
もし、キャッシュバックの収入について会計責任者が議員の指示を仰がず、勝手に自分の判断で処理していたとしたら、当然クビになる。だからリクルート事件の時のように「秘書が」「妻が」と言った言い逃れは議員には不可能なはずだ。
取材に対して、「自分は知らなかった」と言い逃れをしようとする議員が後を絶たないが、そうした場合、当然メディアの記者は「では、会計責任者が独断で不記載にし、独断で裏カネの使途も隠してきたのか」と議員を追求すべきなのだが、国会議員以上にメディアの記者は頭が悪いようだ。
次に「裏カネ」と化した金の使途だ。表に出せない使途ということになると私的な飲食か選挙の際の票の買収費の二つのケースが考えられる。
私的な飲食に使った場合、政治資金報告書への不記載は置いておいても、そのカネは議員個人の収入ということになり、当然所得税や住民税の課税対象になる。議員個人の確定申告書にちゃんと所得として申告していれば問題ないが、おそらくそんなまともな議員は日本には一人もいない。
私事で恐縮だが、私の場合、著書の印税や講演料は出版社や講演の主催者から天引きされるから1円たりともごまかせない。ただ、そんなにしょっちゅうあるわけではないが、「ちょっと教えてもらいたいことがある」とか知人を通じて「一度お目にかかりたい」などといったケースでは、ご馳走になったり(この費用は金銭ではないから所得には該当しない)、時には帰る時「お車代」と称して封筒をいただくことがある。封筒の中身はせいぜい5万円程度だが、もしタクシーで帰宅したら当時、都心からは1万円くらいはかかったから、実質手取りは4万円程度だが、そういう収入を申告することはまずありえない。厳密に言えば脱税行為であることは認めるにやぶさかではない。
が、その程度の「脱税」だったら、税務署も目くじらをたてたりはしない。「お車代」をくれた相手が企業などの法人だったら間違いなく表カネから支出しているはずで、「使途不明金」として課税対象にしたりはしないが、お小遣い程度の申告漏れまで税務署も追いかけるほど暇ではない。だからキャッシュバックという「裏カネ」の使途も家族との年数回程度のレストランなどでの飲食まで「私的使用」として問題視することはまずありえない。
だから、これだけの大問題になっているのは、政治資金収支報告書の不記載が問題なのではなく、キャッシュバックによる「裏カネ」が選挙の時の票の買収資金に化けたのではないかという疑問を特捜は抱いているのだと思う。
そうだとしたら、自民党とくにキャッシュバックで「裏カネ」を所属派閥の国会議員にばらまいた目的は「票の買収資金に使えよ」という暗黙の指示が派閥上層部からあったためではないだろうか。そう考えたら、派閥上層部から、「収支報告書には記載するな」といった指示が出るのは当然だろう。
その場合は、組織ぐるみの大規模公職選挙法違反という選挙制度の公正を揺るがす大事件であり、特捜が組織を挙げて捜査に乗り出したことも頷ける。
●派閥内派閥が乱立している「安倍派」はどうなる?
いま特捜は安倍派だけでなく二階派のキャッシュバック問題にも手をつけているが、主目標は安倍派内の5派閥領袖であることは周知の事実。二階前幹事長は長期にわたって安倍政権を支えてきた「大功労者」でもあり、「安倍派だけをやり玉に挙げているわけではない」という特捜の状況証拠作りのためであることは見え見えと言ってもいい。
安倍派は安倍氏が存命だった時代は政策集団として大きなかたまりを作っていたように見えないこともなかったが、安倍氏なき今、「これがまとまった政策集団か」と目を疑いたくなるような状況になっている。
いま安倍派には5人衆と呼ばれる実力者がいて(松野元官房長官・萩生田元政調会長・西村元経済産業省大臣・世耕元参議院幹事長・高木元国会対策委員長)、それぞれが派閥内派閥の領袖として安倍派の後継会長の座を巡って競い合ってきた。その5人衆がすべて岸田内閣から更迭されたり、自民党の要職を辞任したりして表舞台から姿を消した。つまり後継会長の座から全員滑り落ちてしまったと言わざるを得ない。
キングメーカーとして依然として強い影響力を維持しているとみられることもなくはない森喜朗氏だが、本人はいま夫人と一緒に都心の高給老人ホームで生活している状態。86歳の高齢でもあり、東京オリンピックではかなりの味噌をつけたこともあって、森氏の院政復帰は世論が許さないだろうし、負のイメージがこびりついていなければキングメーカーとして事件のほとぼりが冷めたころ、森氏お気に入りと言われる萩生田氏を復活させて帝王学を授けることも可能だろうが、そんな力はもうないという見方が強い。
となると、安倍派はもう派閥を維持する力もなければ、派閥を維持する意味もなくなる。だいいち、安倍氏が凶弾に倒れてからかなりの時間が経過しているのに、いまだ次のリーダーを決められないくらいだから、仮に誰かがいち早く表舞台に復活しても派閥内5派閥をまとめる力はもう失われていると考えたほうがいい。
私の推測では、結局安倍派は来年中に解体分裂して小派閥が乱立するか、さもなければ安倍派議員は他派閥の草刈り場になる可能性がかなり大きいとみる。
安倍派の派閥解体が特捜の狙いだったら、そこまで安倍派解体まで追い込んだら目的達成でシャンシャンシャンということになるが、それで捜査打ち切りにでもしたら、「なんだ、特捜の真の狙いは安倍派に対する意趣返しだったのか」という批判を浴びかねない。
かといって多額のキャッシュバックを貰った5人衆を票集めのための地方議員買収資金に使った公職選挙法違反で立件するには、彼らの地元の検察や警察機構に指示して地方議員たちが「金を貰って票をまとめる活動をした」ことを立証する必要がある。
東京地検の特捜がいくら5人衆たちから事情聴取しても、彼らが「票の買収資金に使った」などとバカ正直に裏カネの使途を明らかにするわけがない。そうなるとマスコミを巻き込んでの大騒動の落としどころを特捜はどう考えているのか。
もしメディアの記者が地方議員たちから「選挙の時の票取りまとめ資金としてかなりのカネをもらった」といった証言をかなり集めれば、安倍派から公職選挙法違反容疑で逮捕者が続出するだろうし、金まみれ政治の浄化に大きな一石を投じることになって特捜の「勇み足」が一気にヒーロー視されることになるし、私自身はそうなることを願っているが、いまのところメディアは特捜のリークを報道するだけで、特捜に協力して特捜から事情聴取を受けている安倍派議員の選挙区でのキャッシュバック資金の使途の解明に全力をあげて取り組んでいるようには見えない(まだ報道するに至っていないだけで、水面下での取材活動は行っているのかもしれないが)。
が、もし特捜の捜査が「勇み足」(キャッシュバックの「裏カネ」の使途不明しか明らかにできなかった場合、このケースは税務当局の管轄の域を超えないことになる)という結果で終わったら、特捜の権威は地に落ちる。「大山鳴動して鼠一匹」という結果にならないことを私自身は心から願っているが…。
【追記】年の瀬も押し迫った30日、特捜は急遽、下村元政調会長の事情聴取に踏み切った。下村氏はこれまで特捜の捜査対象に名前が挙がっていなかった安倍は唯一の大物議員。 これまで事情聴取された大物議員は、いずれも安倍派内5派閥の領袖(いわゆる「5人衆」)だったから、下村氏は特捜のお目こぼしになっていたのか(それにしては「5人衆」以外にも事情聴取を受けた議員もいるけどね)、それとも「司法取引」ではないが、特捜の捜査に情報提供するなど協力することで折り合いをつけていたのか。 だとすれば、「5人衆」が表舞台から姿を消したことで下村氏は次期安倍派会長の有力候補に浮上するチャンスと考えて特捜の捜査に強力してきたのか。 が、下村氏だけ聴取対象から外れていることで政界雀がピーチクパーチク言い出したので、いちおう形式的に事情聴取することにしたのか。 それにしては下村氏も特捜もやり方がせこすぎる。(31日)
【追記2】大みそかの深夜『朝まで生テレビ』の政治討論番組をテレビ朝日が放送したようだ。私も昔はよく見ていたが、寄る年波には勝てず、最近は見ることはほとんどない(夜中にトイレで目が覚め、寝付けなかったときにたまさか見ることはあるが)。
それでも、昔みたいに面白ければ録画して昼間にでも見るのだが、最近は田原氏のパワハラ番組のような感じがして見る気になれない。が、田原氏と田崎氏のやり取りがネットで炎上しているようなので、一言。なお、そのやり取りの内容は報知新聞から引用する。
今年の政治課題について田崎氏は、自民党のパーティー券での「裏金事件」について「今、焦点は事件でどれぐらいの人が摘発されるか。それによって国民の意識がかなり高まってくる可能性があるんですね。それに政治がきちんと答えないといけない。まず初っぱなの課題だと思います」とコメントした。
司会の田原総一朗氏に「政治家で逮捕されるのは出ると思う?」と聞かれた田崎氏は「逮捕はないでしょ」と即答した。これに田原氏は「なんでないんだ!」と声を荒らげたが田崎氏は「物理的な逮捕っていうのはないと思う」と示していた。
その後、田原氏は「こんなスキャンダルが出て誰も逮捕されないのはおかしいよ!」と再び声を荒らげ訴えていた。
はっきり申し上げるが、田原氏はもう相当ぼけてきた。むかし同じテレ朝で日曜日に生放送していた『サンデープロジェクト』のころの田原氏はゲストから本音を引き出す巧みな司会術で一時代を築いたが、最近は日曜午後6時からの『激論クロスファイアー』も含めて「何様のつもり?」と言いたくなるような司会が多い。私も田原氏の年に次第に近づいてきて、論理なき感情論で、司会者というより教育者のような振る舞いに陥らないよう、「他山の石」として反面教師にしたいと思っている。
さて今回のブログでもはっきり書いたが、いまの段階での国会議員逮捕はあり得ない。特捜の捜査で明らかにされてきたことは、現時点ではまだキャッシュバック(還流)されたパーティ券費が「政治資金収支報告書」に不記載で事実上「裏カネ」と化しているところまでだ。この段階で国会議員を逮捕でもしたら、特捜の横暴としっぺ返しが相当来る。
特捜が柿沢議員の逮捕に踏み切ったのは、柿沢氏が主張している東京都・江東区の区議への一人当たり20万円提供が「陣中見舞い」の域を超えた区長選挙での支援要請のための「買収資金」とみなすことが可能と踏んだからだ。
特捜が逮捕に踏み切る場合は起訴することが大前提である。収支報告書への不記載で起訴できるか、と問われたら特捜でなくても検察官すべてが「無理」と答えるに決まっている。
既にブログ本文で書いたが、国会議員を起訴して有罪に持ち込むためには「裏カネ」と化したキャッシュバックのカネが選挙で勝つための買収資金として使われたという証拠を固めなければ不可能である。その場合には柿沢氏のケースと同様、公職選挙う違反ということになり、裁判で有罪になれば議員を失職するだけでなく、公民権も相当の期間停止される。
その肝心な捜査がどこまで進んでいるのかが、いまの段階では全く不明である。田原氏のような暴論は、一般国民受けするかもしれないが、それならバラエティ番組でしゃべるようなレベルということになる。
田崎氏も別にキャッシュバックされた安倍派の大物議員たちをかばっているわけではなく、当たり前のことを発言しただけだ。
同じ番組で田原氏は安倍元総理との会談で安倍氏から「アベノミクスは失敗だったようだ。どうしたらいいか」と聞かれたと自慢げに話したようだが、田原氏が経済に詳しいとは誰も思っていない。安倍氏もまじめにアベノミクスの修正策を田原氏に聞くほどアホではあるまい。
テレ朝もそろそろ田原氏に引導を渡す時期に来たのではないか。(1月3日)
実は今年は例年書いてきた『今年最後のブログ』は書くつもりはなかった。3回連載の『総務省に物申す』の最終回(「NHK解体新書」)を来年仕事始めの1月4日にアップする予定だったからだ(原稿自体はとっくに仕上がっている)。が、いまメディアやネットで炎上状態の自民党キックバック問題について以前から疑問を持っていることについて急遽、ブログを書くことにした。そのため、『総務省に物申す』の第3弾は年明けの1月8日にアップする。
●なぜ「天下の特捜」が組織を上げて捜査に乗り出したのか
実は東京痴漢特捜部(特別捜査部)が総力を挙げてこの問題を追求し始めたとき、私がまず疑問を抱いたのは「なぜ特捜が?」ということだった。
特捜は検察庁の花形部門で、過去の大規模事件は田中角栄総理(当時)が収賄罪に問われたロッキード事件や、多くの政治家が上場まじかの不動産業、リクルート・コスモスの未公開株をリクルートから安価で購入して大儲けした事件でリクルートの創業者、江副氏が贈賄罪で起訴され有罪(ただし執行猶予)になり、竹下内閣総辞職の要因になった(ただし大物政治家は全員不起訴)ケースが有名である。
この二つのケースに象徴されるように、特捜の仕事は政治家とくに国会議員の贈収賄事件の摘発が多い。ただし、いちおう特捜の捜査案件は公正取引委員会、証券取引監視委員会、国税庁などが告発した大規模な事件や汚職(汚職は公務員の収賄に限っての犯罪)・企業犯罪なども捜査対象になる。そうした特殊な性格のため、特捜部が設置されているのは東京・大阪・名古屋の3都市だけである。
また最近では、参院選広島選挙区で河井杏里の立候補に伴い地方議員への大規模な買収事件が生じ、広島地検特別刑事部が捜査を開始、東京地検特捜が買収の士気をとった事が明らかになって東京地検特捜部が河井夫妻を逮捕、河合克之衆院議員、杏里参院議員ともに議員を辞職したケースがある。
こういう特捜の役割を考えたとき、自民党各派閥の政治資金パーティで党員議員が割り当てノルマ以上のパーティ券を売りさばいた時、超過部分を当該議員に返金したことが(いわゆる「キャッシュバック」、特捜が乗り出すような事件なのかという疑問が生じたのだ。
とくにメディアの報道によればキャッシュバックそれ自体が犯罪行為に当たるわけではなく、キャッシュバックされた金を議員たちが政治資金収支報告書に不記載だったことが問われたためという。収支報告書に不記載だったため、キャッシュバックされたカネは事実上、表に出さなくても済む「裏カネ」という位置づけになる。が、キャッシュバックという行為は贈収賄に当たるわけではない。ではキャッシュバックがなぜ大問題に発展したのか。
まず政治資金報告書への不記載が規定を超えていたというケース。いちおう政治資金記載要件は1件20万円以上ということになっている。政治家の場合、カネの出入りが激しく、議員がすべての出入金を記載する時間的余裕がないという理由から、ある程度の目こぼしはやむを得ないと考えたようだ。が、政治資金の収支報告書作成を政治家自身が直接行ったりはしない。すべて会計責任者が行っており、会計責任者は正規の領収書もあり、政治資金として報告すべきことが分かり切っている場合はいちいち議員に記載の指示を仰いだりはしない。会計責任者たるもの、政治資金規正法は熟知しており、報告書への記載についての判断が困難なケースだけ、議員に処理方法の指示を仰ぐ。
もし、キャッシュバックの収入について会計責任者が議員の指示を仰がず、勝手に自分の判断で処理していたとしたら、当然クビになる。だからリクルート事件の時のように「秘書が」「妻が」と言った言い逃れは議員には不可能なはずだ。
取材に対して、「自分は知らなかった」と言い逃れをしようとする議員が後を絶たないが、そうした場合、当然メディアの記者は「では、会計責任者が独断で不記載にし、独断で裏カネの使途も隠してきたのか」と議員を追求すべきなのだが、国会議員以上にメディアの記者は頭が悪いようだ。
次に「裏カネ」と化した金の使途だ。表に出せない使途ということになると私的な飲食か選挙の際の票の買収費の二つのケースが考えられる。
私的な飲食に使った場合、政治資金報告書への不記載は置いておいても、そのカネは議員個人の収入ということになり、当然所得税や住民税の課税対象になる。議員個人の確定申告書にちゃんと所得として申告していれば問題ないが、おそらくそんなまともな議員は日本には一人もいない。
私事で恐縮だが、私の場合、著書の印税や講演料は出版社や講演の主催者から天引きされるから1円たりともごまかせない。ただ、そんなにしょっちゅうあるわけではないが、「ちょっと教えてもらいたいことがある」とか知人を通じて「一度お目にかかりたい」などといったケースでは、ご馳走になったり(この費用は金銭ではないから所得には該当しない)、時には帰る時「お車代」と称して封筒をいただくことがある。封筒の中身はせいぜい5万円程度だが、もしタクシーで帰宅したら当時、都心からは1万円くらいはかかったから、実質手取りは4万円程度だが、そういう収入を申告することはまずありえない。厳密に言えば脱税行為であることは認めるにやぶさかではない。
が、その程度の「脱税」だったら、税務署も目くじらをたてたりはしない。「お車代」をくれた相手が企業などの法人だったら間違いなく表カネから支出しているはずで、「使途不明金」として課税対象にしたりはしないが、お小遣い程度の申告漏れまで税務署も追いかけるほど暇ではない。だからキャッシュバックという「裏カネ」の使途も家族との年数回程度のレストランなどでの飲食まで「私的使用」として問題視することはまずありえない。
だから、これだけの大問題になっているのは、政治資金収支報告書の不記載が問題なのではなく、キャッシュバックによる「裏カネ」が選挙の時の票の買収資金に化けたのではないかという疑問を特捜は抱いているのだと思う。
そうだとしたら、自民党とくにキャッシュバックで「裏カネ」を所属派閥の国会議員にばらまいた目的は「票の買収資金に使えよ」という暗黙の指示が派閥上層部からあったためではないだろうか。そう考えたら、派閥上層部から、「収支報告書には記載するな」といった指示が出るのは当然だろう。
その場合は、組織ぐるみの大規模公職選挙法違反という選挙制度の公正を揺るがす大事件であり、特捜が組織を挙げて捜査に乗り出したことも頷ける。
●派閥内派閥が乱立している「安倍派」はどうなる?
いま特捜は安倍派だけでなく二階派のキャッシュバック問題にも手をつけているが、主目標は安倍派内の5派閥領袖であることは周知の事実。二階前幹事長は長期にわたって安倍政権を支えてきた「大功労者」でもあり、「安倍派だけをやり玉に挙げているわけではない」という特捜の状況証拠作りのためであることは見え見えと言ってもいい。
安倍派は安倍氏が存命だった時代は政策集団として大きなかたまりを作っていたように見えないこともなかったが、安倍氏なき今、「これがまとまった政策集団か」と目を疑いたくなるような状況になっている。
いま安倍派には5人衆と呼ばれる実力者がいて(松野元官房長官・萩生田元政調会長・西村元経済産業省大臣・世耕元参議院幹事長・高木元国会対策委員長)、それぞれが派閥内派閥の領袖として安倍派の後継会長の座を巡って競い合ってきた。その5人衆がすべて岸田内閣から更迭されたり、自民党の要職を辞任したりして表舞台から姿を消した。つまり後継会長の座から全員滑り落ちてしまったと言わざるを得ない。
キングメーカーとして依然として強い影響力を維持しているとみられることもなくはない森喜朗氏だが、本人はいま夫人と一緒に都心の高給老人ホームで生活している状態。86歳の高齢でもあり、東京オリンピックではかなりの味噌をつけたこともあって、森氏の院政復帰は世論が許さないだろうし、負のイメージがこびりついていなければキングメーカーとして事件のほとぼりが冷めたころ、森氏お気に入りと言われる萩生田氏を復活させて帝王学を授けることも可能だろうが、そんな力はもうないという見方が強い。
となると、安倍派はもう派閥を維持する力もなければ、派閥を維持する意味もなくなる。だいいち、安倍氏が凶弾に倒れてからかなりの時間が経過しているのに、いまだ次のリーダーを決められないくらいだから、仮に誰かがいち早く表舞台に復活しても派閥内5派閥をまとめる力はもう失われていると考えたほうがいい。
私の推測では、結局安倍派は来年中に解体分裂して小派閥が乱立するか、さもなければ安倍派議員は他派閥の草刈り場になる可能性がかなり大きいとみる。
安倍派の派閥解体が特捜の狙いだったら、そこまで安倍派解体まで追い込んだら目的達成でシャンシャンシャンということになるが、それで捜査打ち切りにでもしたら、「なんだ、特捜の真の狙いは安倍派に対する意趣返しだったのか」という批判を浴びかねない。
かといって多額のキャッシュバックを貰った5人衆を票集めのための地方議員買収資金に使った公職選挙法違反で立件するには、彼らの地元の検察や警察機構に指示して地方議員たちが「金を貰って票をまとめる活動をした」ことを立証する必要がある。
東京地検の特捜がいくら5人衆たちから事情聴取しても、彼らが「票の買収資金に使った」などとバカ正直に裏カネの使途を明らかにするわけがない。そうなるとマスコミを巻き込んでの大騒動の落としどころを特捜はどう考えているのか。
もしメディアの記者が地方議員たちから「選挙の時の票取りまとめ資金としてかなりのカネをもらった」といった証言をかなり集めれば、安倍派から公職選挙法違反容疑で逮捕者が続出するだろうし、金まみれ政治の浄化に大きな一石を投じることになって特捜の「勇み足」が一気にヒーロー視されることになるし、私自身はそうなることを願っているが、いまのところメディアは特捜のリークを報道するだけで、特捜に協力して特捜から事情聴取を受けている安倍派議員の選挙区でのキャッシュバック資金の使途の解明に全力をあげて取り組んでいるようには見えない(まだ報道するに至っていないだけで、水面下での取材活動は行っているのかもしれないが)。
が、もし特捜の捜査が「勇み足」(キャッシュバックの「裏カネ」の使途不明しか明らかにできなかった場合、このケースは税務当局の管轄の域を超えないことになる)という結果で終わったら、特捜の権威は地に落ちる。「大山鳴動して鼠一匹」という結果にならないことを私自身は心から願っているが…。
【追記】年の瀬も押し迫った30日、特捜は急遽、下村元政調会長の事情聴取に踏み切った。下村氏はこれまで特捜の捜査対象に名前が挙がっていなかった安倍は唯一の大物議員。 これまで事情聴取された大物議員は、いずれも安倍派内5派閥の領袖(いわゆる「5人衆」)だったから、下村氏は特捜のお目こぼしになっていたのか(それにしては「5人衆」以外にも事情聴取を受けた議員もいるけどね)、それとも「司法取引」ではないが、特捜の捜査に情報提供するなど協力することで折り合いをつけていたのか。 だとすれば、「5人衆」が表舞台から姿を消したことで下村氏は次期安倍派会長の有力候補に浮上するチャンスと考えて特捜の捜査に強力してきたのか。 が、下村氏だけ聴取対象から外れていることで政界雀がピーチクパーチク言い出したので、いちおう形式的に事情聴取することにしたのか。 それにしては下村氏も特捜もやり方がせこすぎる。(31日)
【追記2】大みそかの深夜『朝まで生テレビ』の政治討論番組をテレビ朝日が放送したようだ。私も昔はよく見ていたが、寄る年波には勝てず、最近は見ることはほとんどない(夜中にトイレで目が覚め、寝付けなかったときにたまさか見ることはあるが)。
それでも、昔みたいに面白ければ録画して昼間にでも見るのだが、最近は田原氏のパワハラ番組のような感じがして見る気になれない。が、田原氏と田崎氏のやり取りがネットで炎上しているようなので、一言。なお、そのやり取りの内容は報知新聞から引用する。
今年の政治課題について田崎氏は、自民党のパーティー券での「裏金事件」について「今、焦点は事件でどれぐらいの人が摘発されるか。それによって国民の意識がかなり高まってくる可能性があるんですね。それに政治がきちんと答えないといけない。まず初っぱなの課題だと思います」とコメントした。
司会の田原総一朗氏に「政治家で逮捕されるのは出ると思う?」と聞かれた田崎氏は「逮捕はないでしょ」と即答した。これに田原氏は「なんでないんだ!」と声を荒らげたが田崎氏は「物理的な逮捕っていうのはないと思う」と示していた。
その後、田原氏は「こんなスキャンダルが出て誰も逮捕されないのはおかしいよ!」と再び声を荒らげ訴えていた。
はっきり申し上げるが、田原氏はもう相当ぼけてきた。むかし同じテレ朝で日曜日に生放送していた『サンデープロジェクト』のころの田原氏はゲストから本音を引き出す巧みな司会術で一時代を築いたが、最近は日曜午後6時からの『激論クロスファイアー』も含めて「何様のつもり?」と言いたくなるような司会が多い。私も田原氏の年に次第に近づいてきて、論理なき感情論で、司会者というより教育者のような振る舞いに陥らないよう、「他山の石」として反面教師にしたいと思っている。
さて今回のブログでもはっきり書いたが、いまの段階での国会議員逮捕はあり得ない。特捜の捜査で明らかにされてきたことは、現時点ではまだキャッシュバック(還流)されたパーティ券費が「政治資金収支報告書」に不記載で事実上「裏カネ」と化しているところまでだ。この段階で国会議員を逮捕でもしたら、特捜の横暴としっぺ返しが相当来る。
特捜が柿沢議員の逮捕に踏み切ったのは、柿沢氏が主張している東京都・江東区の区議への一人当たり20万円提供が「陣中見舞い」の域を超えた区長選挙での支援要請のための「買収資金」とみなすことが可能と踏んだからだ。
特捜が逮捕に踏み切る場合は起訴することが大前提である。収支報告書への不記載で起訴できるか、と問われたら特捜でなくても検察官すべてが「無理」と答えるに決まっている。
既にブログ本文で書いたが、国会議員を起訴して有罪に持ち込むためには「裏カネ」と化したキャッシュバックのカネが選挙で勝つための買収資金として使われたという証拠を固めなければ不可能である。その場合には柿沢氏のケースと同様、公職選挙う違反ということになり、裁判で有罪になれば議員を失職するだけでなく、公民権も相当の期間停止される。
その肝心な捜査がどこまで進んでいるのかが、いまの段階では全く不明である。田原氏のような暴論は、一般国民受けするかもしれないが、それならバラエティ番組でしゃべるようなレベルということになる。
田崎氏も別にキャッシュバックされた安倍派の大物議員たちをかばっているわけではなく、当たり前のことを発言しただけだ。
同じ番組で田原氏は安倍元総理との会談で安倍氏から「アベノミクスは失敗だったようだ。どうしたらいいか」と聞かれたと自慢げに話したようだが、田原氏が経済に詳しいとは誰も思っていない。安倍氏もまじめにアベノミクスの修正策を田原氏に聞くほどアホではあるまい。
テレ朝もそろそろ田原氏に引導を渡す時期に来たのではないか。(1月3日)
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