そもそも小泉改革と言われた郵政民営化そのものが中途半端だった。民営化するなら、郵便局だけに特権的に与えられてきた独占事業も自由化すべきだった。当初郵便事業への参入に否定的だったヤマト運輸は、大量のパンフレットやカタログなどを発送する企業に対しては格安のメール便のサービスを提供していたが、小泉政府が郵政民営化よって郵便事業に参入しようとする民間企業に対してポストを全国に約10万個作れといった厳しい、というより絶対不可能な条件を付けた。
当初マスコミは郵便事業に乗り出すとしたらヤマト運輸しかないだろうと予測していたし、私もそう思っていた。が、政府がつけたこの条件でヤマトはいったん「郵便事業への参入はしない」と発表した。
が、ヤマトは2002年、とんでもない方法でこの条件をクリアし、郵便事業に乗り出した。まず最大手コンビニのセブンイレブンと提携して、メール便を個人が利用できるようにした。いまではファミリーマート(一部店舗を除く)やスリーエフもメール便を取り扱っている。これらのコンビニがないところはヤマト運輸に電話すればタダで集荷してくれる。近くにこれらのコンビニがあっても、行くのが面倒くさいという人にはやはりタダで集荷してくれる。ただし集荷は翌日になるが、集荷してもらえる時間帯は指定できる。
もっとすごいのはA4判の書類が折らずに入れられる角形2号のサイズで、厚さが1cm以内だったら、郵送料金は全国一律80円という安さだ(ただし翌日配達の速達便は100円加算される)。この書類を郵便局で郵送したら390円かかる(速達にすると別途370円加算される)。ヤマトはこのメール便をほとんど宣伝していないため、私も2年前、娘から届いたメール便にびっくりし、以降郵便局で80円以上かかる書類を送る場合はメール便を利用している。間違いなくヤマトの個人相手のメール便は赤字だと思うが、にもかかわらずヤマトが個人相手のメール便を始めたのは、今はまだ郵便局が独占している「信書」(郵送する相手が特定されている手紙などのことで、これ自体は郵便局の収益源になっているわけではない。ただしヤマトなら80円で郵送できる角形2号1cmの暑さの書類だと大きな収益源になる)や郵便局の大きな収益源になっている「国際郵便」「内容証明便」「配達証明便」「書留」「特別送達」などを扱えるようになることを目的にして赤字必至の郵便事業に乗り出したのだろうと、私は推測している。実際郵便局にだけ民営化された以降も独占的事業を認めてしまったのが小泉改革の中身であった。だから私は中途半端だと書いたのである。
本来リベラル的政党と私が思っていた民主党が果たすべき郵政改革の目標は、中途半端だったけど、一応郵政民営化を実現した小泉改革をさらに進め、民間企業(事実上ヤマト運輸だけだ)との公平で公正な競争条件を整備していく、つまり郵便局だけがいまだ独占している、郵便局にとっての大きな収益源になっている郵便事業のすべてを自由化するのが大きな使命だったはずだ。
民主党は前回の衆議院選挙で308人を当選させた。衆議院定数480人の約64%である。参議院で否決された法案を衆議院で再可決して法案を成立させるには衆議院定数の3分の2(320人)以上の議員が賛成しなければならず、単独で絶対的権力を確立するためには12人足りなかった。一方参議院では定数の242人のうち民主党議員は113人で、過半数には9人足りない。ということは民主党が単独で政権を樹立した場合、衆議院では単独で法案を可決することができるが、参議院では過半数に達していないため民主党以外のすべての政党が反対して法案が成立しなかった場合、衆議院に差し戻して単独で法案を成立させることができない。そのため民主党は国民新党や社民党と連立することで絶対権力を確立するという手段に出たのである。
それはそれで一つの選択肢ではあったが、その結果、国民新党や社民党に足元に付け込まれる弱みを見せてしまった。ちなみに国民新党に所属する衆議院議員はたったの3人である(参議院議員は5人)、社民党は衆議院議員が7人、参議院議員が5人である。たった3人の衆議院議員しかいない国民新党の党首になった亀井静香が民主党の弱みに付け込んで、図々しくも金融相と郵政改革相の地位を要求し、鳩山首相は亀井が小泉改革(郵政民営化)に反対して自民党を除名され、綿貫らと国民新党を立ち上げ郵政民営化をつぶしにかかっていることを百も承知で、郵政改革相に任命してしまったのはまさに痛恨の極みと言わざるを得ない。
そんな姑息な方法で権力の絶対化を目指すより、民主党の単独内閣を作り、国民新党や社民党とは閣外協力を取り付けるために、3党による政策協議会を定期的に設けて、ある程度国民新党や社民党の意見を政策に反映させることが重要だった。そうすれば来年は参議院選挙があるから、絶対とは言えないが、多くの有権者が支持してくれたマニュフェストを可能な限り実行していく努力をすれば、そうした民主党の姿勢を評価し、参議院でも民主党は単独で過半数を制する可能性が高かった。それを目先の政権安定化のために連立政権にしてしまった結果、とんでもない事態が進行し始めた。
実際亀井郵政改革相はまず日本郵政の西川善文社長を辞任に追い込んだ。西川氏は元三井住友銀行の頭取であり、全国銀行協会会長などを歴任したほどの人物で、小泉首相(当時)が郵政民営化のかじ取りを「この人しかいない」と一任したくらいの見識を持った人である。それほどの人がなぜ「かんぽの宿」を一括してオリックスに売ったのか、マスコミはその不透明さを追求したが、私はこう推測している。
特殊法人の雇用能力開発機構が赤字垂れ流しの施設を日本中に作り、挙句の果てすべての施設を売却せざるを得なくなったとき、一括で大企業に売却せず、個々の施設を地方自治体にばら売りしたため、足元を見られて買いたたかれたケースを西川氏は熟知していて、個々ばらばらに売却すると雇用能力開発機構の二の舞になると考えたのだと思う。だから西川氏は個人的にも親しかった(のではないかと思う)オリックスの会長であり、オリックスグループのCEOでもある宮内義彦氏に頼み込んで一括売却したのではないかと思う。実際オリックスグループのひとつに首都圏と関西圏で老人ホームや高齢者専用の賃貸住宅を経営している会社があり、オリックスなら「かんぽの宿」を活用してこのビジネスを全国展開できるのではないかと考えたのではないか。だが西川氏はマスコミの「不透明」という指摘に一切真相を語らなかったのは、その事実を明らかにすると西川氏がオリックスに利益供与を行ったと批判されるのは必至で、そのため真相を明らかに出来なかったのが「黙して語らず」を貫いた理由であったのではないかと私は考えている。そう解釈しなければ、西川氏ほどの人物が国民の財産といってもいい「かんぽの宿」をオリックスに一括売却して利益供与などするわけがない。だから亀井郵政改革相に辞任を迫られ、道半ばにして郵政民営化の道筋をつけることを断念させられた無念さは私のような一介の元ジャーナリストにも痛いほどわかる。
そして亀井郵政改革相は西川氏が辞意を表明した10月20日の翌日には早くも西川氏の後任に元大蔵事務次官で(氏は大蔵省で主計官時代に頭角を現し、次官に昇りつめた時には「ミスター大蔵省」と呼ばれたほどの実力者だった)、現在は東京金融取引所社長に天下っていた斉藤次郎氏を内定した。
鳩山氏が内閣発足後真っ先に手をつけたのが公務員の天下り全面禁止だったはずだ。その舌の根も乾かぬうちに郵政改革に竿をさすために郵政改革相のポストを衆議院議員たった3人の国民党党首の亀井氏の恥知らずな要求に屈し、さらに鳩山内閣の最大の公約だった官僚の天下り全面禁止の方針すら無視した亀井人事を受け入れてしまった。もはや鳩山内閣ではなく亀井内閣と言ったほうがいいくらいの亀井氏の傍若無人ぶりに鳩山内閣の誰もストップがかけられなかったのはなぜか。
この亀井人事に先立ち、政府は20日、郵政民営化の見直しを閣議決定していた。つまり、小泉改革と言われる郵政改革では、郵便・貯金・保険の3事業を郵便局で一体的に扱えるようにするため、持株会社の日本郵政株式会社の傘下に4つの事業会社(郵便局株式会社・郵便事業株式会社・株式会社ゆうちょ銀行・株式会社かんぽ生命保険)をぶら下げる「4分社化」体制にして、これらの会社をすべて上場し、それぞれの会社の発行済株式のうち政府が100%保有する日本郵政の株式の3分の2弱と、日本郵政が100%保有するゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式のすべてを2017年9月末までに株式市場で売却することが決められていた。つまりこれらの会社を完全な民間企業にする計画だった。
が、郵政改革の主導権を亀井氏が事実上握ってしまった連立政府は、来年の通常国会に小泉改革の見直す(というより否定する)ための法案を提出する予定だ。具体的には郵政3事業(郵便・貯金・簡易保険)を一体運営するため日本郵政が全国の郵便局を統括する郵便局会社と郵便の集配業務を行う郵便事業会社を吸収合併し、その傘下にゆうちょ銀行とかんぽ生命保険を置く郵政改悪法案を国会に提出する予定だ。さらに金融2社の全株売却方針を撤回し、政府が日本郵政の株を3分の2程度は保有し、日本郵政も金融2社の株を3分の2程度保有することにする予定だ。
実はこの方針には巧みなグレーゾーンが隠されている。政府が日本郵政の株を3分の2程度保有し、日本郵政も金融2社(ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険)の株を3分の2程度保有し続けるという意味合いである。当然のことだが、日本郵政及び金融2社が株式を公開するとしたら東証1部しか考えられず(大証1部・名証1部にも同時に上場する可能性はある)、その場合は発行済み株式の35%以上を市場に放出しなければならない。亀井政権が(これは単なる皮肉ではない)3分の1(33.333……%)しか株式を市場に放出しなかったら、当然3大市場の1部上場基準を満たせないことになる。つまり政府や日本郵政が3分の2程度の株を保有し続けるとしたのは、「程度」という表現を付け加えることによって1部上場基準を満たす35%を市場に放出する可能性もあるよ、とグレーゾーンを設けることによって、小泉改革の支持勢力(民主党内にもいっぱいいる)の反発を抑え込むことが目的だった。亀井氏の意図は明らかで、小泉内閣が決めた2017年9月(約8年後)までには郵便局を取り巻く市場環境も大きく変化しているだろうし、そのことを理由に株式の放出をやめてしまうことだ。そういう意図を持っていることを百も承知で亀井氏を改革相に任命した鳩山首相の責任も大きい。
第一亀井氏の本職は金融相であり、郵政改革を担当するのは総務省の原口一博大臣のはずだ。亀井氏が金融相でありながら郵政改革相の肩書を持ったのは屋上屋を重ねるに等しい内閣人事である。こんな馬鹿げた内閣を作らなければ民主党は政権を維持できないと考えたのだろうか。
ちなみに日本で最大の発行部数を誇る読売新聞が10月2~4日にかけて行った世論調査(紙面に結果を発表したのは5日の朝刊1面)では鳩山内閣の支持率は依然として高く71%に達していた。読売はこの時鳩山内閣の政策についても調査しており、「高速道路の無料化」方針に対しては69%が反対している。が、亀井氏がまだ郵政改革相として小泉改革潰しの具体的動きをしていなかったため、読売も鳩山内閣の郵政改革についての調査は行っていなかった。もし私のこのブログ記事を仮に(そんなことは絶対あり得ないが)有権者のすべてが読んでくれたら内閣支持率は急落するに違いない。国民の大多数が衆議院選挙で小泉改革を支持したのだから、政権が代わったからといって小泉改革の反対派になったりはしないからだ。
ただ民主党の「高速道路無料化」は大きな経済効果をもたらす可能性があることだけお知らせしておこう。
反対した人たちはおそらく「高速道路建設に要した金はどうやって回収するのか。自分たちの子供や孫がそのつけを支払わざるを得ないことになる」とお考えになったのだと思う。その可能性は私も否定しない。
しかし、高速道路代がかからないということになると企業が工場や様々な施設を地方に移転させるかもしれない。そうなれば地方の経済が活性化し、雇用のニーズも増大する。また農業の機械化が進み出した1978年を契機に急速に国際競争力を失っていった日本の零細農家が農業をやめて、農地を機械化による大規模農営を行っている事業者に貸すなり売るなりして、新たな働き口に飛びつくかもしれない。そうなれば地方に住む人も、都会に住む人と同様な公的利便性を受けることができ、地価も上昇する。当然固定資産税や企業やその企業で働く人が納める所得税も増え、高速道路の通行料よりはるかに多くの税収が期待できる。そう考えるほうが合理的ではないだろうか。
いやそれだけではない。地方に住む人たちのために国民の血税がどのくらい使われているか。農林水産省の予算課に問い合わせたところ農業だけで1兆8~9000億円くらいが国から支援されているとのことだった。私の予測によれば、以上書いてきたような事態が「高速道路無料化」によって実現すれば、この農業支援は8割ほどカットできると思う。
実は日本にアメリカのような政権交代可能な2大政党政治を根付かせるためには、今のような選挙制度を根本から変えていかないと無理だということも書きたかったのだが、今回のブログ記事はこれで終える。いずれ近い将来、日本にアメリカのような2大政党政治を実現するための提案をブログに書くことをお約束する。
当初マスコミは郵便事業に乗り出すとしたらヤマト運輸しかないだろうと予測していたし、私もそう思っていた。が、政府がつけたこの条件でヤマトはいったん「郵便事業への参入はしない」と発表した。
が、ヤマトは2002年、とんでもない方法でこの条件をクリアし、郵便事業に乗り出した。まず最大手コンビニのセブンイレブンと提携して、メール便を個人が利用できるようにした。いまではファミリーマート(一部店舗を除く)やスリーエフもメール便を取り扱っている。これらのコンビニがないところはヤマト運輸に電話すればタダで集荷してくれる。近くにこれらのコンビニがあっても、行くのが面倒くさいという人にはやはりタダで集荷してくれる。ただし集荷は翌日になるが、集荷してもらえる時間帯は指定できる。
もっとすごいのはA4判の書類が折らずに入れられる角形2号のサイズで、厚さが1cm以内だったら、郵送料金は全国一律80円という安さだ(ただし翌日配達の速達便は100円加算される)。この書類を郵便局で郵送したら390円かかる(速達にすると別途370円加算される)。ヤマトはこのメール便をほとんど宣伝していないため、私も2年前、娘から届いたメール便にびっくりし、以降郵便局で80円以上かかる書類を送る場合はメール便を利用している。間違いなくヤマトの個人相手のメール便は赤字だと思うが、にもかかわらずヤマトが個人相手のメール便を始めたのは、今はまだ郵便局が独占している「信書」(郵送する相手が特定されている手紙などのことで、これ自体は郵便局の収益源になっているわけではない。ただしヤマトなら80円で郵送できる角形2号1cmの暑さの書類だと大きな収益源になる)や郵便局の大きな収益源になっている「国際郵便」「内容証明便」「配達証明便」「書留」「特別送達」などを扱えるようになることを目的にして赤字必至の郵便事業に乗り出したのだろうと、私は推測している。実際郵便局にだけ民営化された以降も独占的事業を認めてしまったのが小泉改革の中身であった。だから私は中途半端だと書いたのである。
本来リベラル的政党と私が思っていた民主党が果たすべき郵政改革の目標は、中途半端だったけど、一応郵政民営化を実現した小泉改革をさらに進め、民間企業(事実上ヤマト運輸だけだ)との公平で公正な競争条件を整備していく、つまり郵便局だけがいまだ独占している、郵便局にとっての大きな収益源になっている郵便事業のすべてを自由化するのが大きな使命だったはずだ。
民主党は前回の衆議院選挙で308人を当選させた。衆議院定数480人の約64%である。参議院で否決された法案を衆議院で再可決して法案を成立させるには衆議院定数の3分の2(320人)以上の議員が賛成しなければならず、単独で絶対的権力を確立するためには12人足りなかった。一方参議院では定数の242人のうち民主党議員は113人で、過半数には9人足りない。ということは民主党が単独で政権を樹立した場合、衆議院では単独で法案を可決することができるが、参議院では過半数に達していないため民主党以外のすべての政党が反対して法案が成立しなかった場合、衆議院に差し戻して単独で法案を成立させることができない。そのため民主党は国民新党や社民党と連立することで絶対権力を確立するという手段に出たのである。
それはそれで一つの選択肢ではあったが、その結果、国民新党や社民党に足元に付け込まれる弱みを見せてしまった。ちなみに国民新党に所属する衆議院議員はたったの3人である(参議院議員は5人)、社民党は衆議院議員が7人、参議院議員が5人である。たった3人の衆議院議員しかいない国民新党の党首になった亀井静香が民主党の弱みに付け込んで、図々しくも金融相と郵政改革相の地位を要求し、鳩山首相は亀井が小泉改革(郵政民営化)に反対して自民党を除名され、綿貫らと国民新党を立ち上げ郵政民営化をつぶしにかかっていることを百も承知で、郵政改革相に任命してしまったのはまさに痛恨の極みと言わざるを得ない。
そんな姑息な方法で権力の絶対化を目指すより、民主党の単独内閣を作り、国民新党や社民党とは閣外協力を取り付けるために、3党による政策協議会を定期的に設けて、ある程度国民新党や社民党の意見を政策に反映させることが重要だった。そうすれば来年は参議院選挙があるから、絶対とは言えないが、多くの有権者が支持してくれたマニュフェストを可能な限り実行していく努力をすれば、そうした民主党の姿勢を評価し、参議院でも民主党は単独で過半数を制する可能性が高かった。それを目先の政権安定化のために連立政権にしてしまった結果、とんでもない事態が進行し始めた。
実際亀井郵政改革相はまず日本郵政の西川善文社長を辞任に追い込んだ。西川氏は元三井住友銀行の頭取であり、全国銀行協会会長などを歴任したほどの人物で、小泉首相(当時)が郵政民営化のかじ取りを「この人しかいない」と一任したくらいの見識を持った人である。それほどの人がなぜ「かんぽの宿」を一括してオリックスに売ったのか、マスコミはその不透明さを追求したが、私はこう推測している。
特殊法人の雇用能力開発機構が赤字垂れ流しの施設を日本中に作り、挙句の果てすべての施設を売却せざるを得なくなったとき、一括で大企業に売却せず、個々の施設を地方自治体にばら売りしたため、足元を見られて買いたたかれたケースを西川氏は熟知していて、個々ばらばらに売却すると雇用能力開発機構の二の舞になると考えたのだと思う。だから西川氏は個人的にも親しかった(のではないかと思う)オリックスの会長であり、オリックスグループのCEOでもある宮内義彦氏に頼み込んで一括売却したのではないかと思う。実際オリックスグループのひとつに首都圏と関西圏で老人ホームや高齢者専用の賃貸住宅を経営している会社があり、オリックスなら「かんぽの宿」を活用してこのビジネスを全国展開できるのではないかと考えたのではないか。だが西川氏はマスコミの「不透明」という指摘に一切真相を語らなかったのは、その事実を明らかにすると西川氏がオリックスに利益供与を行ったと批判されるのは必至で、そのため真相を明らかに出来なかったのが「黙して語らず」を貫いた理由であったのではないかと私は考えている。そう解釈しなければ、西川氏ほどの人物が国民の財産といってもいい「かんぽの宿」をオリックスに一括売却して利益供与などするわけがない。だから亀井郵政改革相に辞任を迫られ、道半ばにして郵政民営化の道筋をつけることを断念させられた無念さは私のような一介の元ジャーナリストにも痛いほどわかる。
そして亀井郵政改革相は西川氏が辞意を表明した10月20日の翌日には早くも西川氏の後任に元大蔵事務次官で(氏は大蔵省で主計官時代に頭角を現し、次官に昇りつめた時には「ミスター大蔵省」と呼ばれたほどの実力者だった)、現在は東京金融取引所社長に天下っていた斉藤次郎氏を内定した。
鳩山氏が内閣発足後真っ先に手をつけたのが公務員の天下り全面禁止だったはずだ。その舌の根も乾かぬうちに郵政改革に竿をさすために郵政改革相のポストを衆議院議員たった3人の国民党党首の亀井氏の恥知らずな要求に屈し、さらに鳩山内閣の最大の公約だった官僚の天下り全面禁止の方針すら無視した亀井人事を受け入れてしまった。もはや鳩山内閣ではなく亀井内閣と言ったほうがいいくらいの亀井氏の傍若無人ぶりに鳩山内閣の誰もストップがかけられなかったのはなぜか。
この亀井人事に先立ち、政府は20日、郵政民営化の見直しを閣議決定していた。つまり、小泉改革と言われる郵政改革では、郵便・貯金・保険の3事業を郵便局で一体的に扱えるようにするため、持株会社の日本郵政株式会社の傘下に4つの事業会社(郵便局株式会社・郵便事業株式会社・株式会社ゆうちょ銀行・株式会社かんぽ生命保険)をぶら下げる「4分社化」体制にして、これらの会社をすべて上場し、それぞれの会社の発行済株式のうち政府が100%保有する日本郵政の株式の3分の2弱と、日本郵政が100%保有するゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式のすべてを2017年9月末までに株式市場で売却することが決められていた。つまりこれらの会社を完全な民間企業にする計画だった。
が、郵政改革の主導権を亀井氏が事実上握ってしまった連立政府は、来年の通常国会に小泉改革の見直す(というより否定する)ための法案を提出する予定だ。具体的には郵政3事業(郵便・貯金・簡易保険)を一体運営するため日本郵政が全国の郵便局を統括する郵便局会社と郵便の集配業務を行う郵便事業会社を吸収合併し、その傘下にゆうちょ銀行とかんぽ生命保険を置く郵政改悪法案を国会に提出する予定だ。さらに金融2社の全株売却方針を撤回し、政府が日本郵政の株を3分の2程度は保有し、日本郵政も金融2社の株を3分の2程度保有することにする予定だ。
実はこの方針には巧みなグレーゾーンが隠されている。政府が日本郵政の株を3分の2程度保有し、日本郵政も金融2社(ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険)の株を3分の2程度保有し続けるという意味合いである。当然のことだが、日本郵政及び金融2社が株式を公開するとしたら東証1部しか考えられず(大証1部・名証1部にも同時に上場する可能性はある)、その場合は発行済み株式の35%以上を市場に放出しなければならない。亀井政権が(これは単なる皮肉ではない)3分の1(33.333……%)しか株式を市場に放出しなかったら、当然3大市場の1部上場基準を満たせないことになる。つまり政府や日本郵政が3分の2程度の株を保有し続けるとしたのは、「程度」という表現を付け加えることによって1部上場基準を満たす35%を市場に放出する可能性もあるよ、とグレーゾーンを設けることによって、小泉改革の支持勢力(民主党内にもいっぱいいる)の反発を抑え込むことが目的だった。亀井氏の意図は明らかで、小泉内閣が決めた2017年9月(約8年後)までには郵便局を取り巻く市場環境も大きく変化しているだろうし、そのことを理由に株式の放出をやめてしまうことだ。そういう意図を持っていることを百も承知で亀井氏を改革相に任命した鳩山首相の責任も大きい。
第一亀井氏の本職は金融相であり、郵政改革を担当するのは総務省の原口一博大臣のはずだ。亀井氏が金融相でありながら郵政改革相の肩書を持ったのは屋上屋を重ねるに等しい内閣人事である。こんな馬鹿げた内閣を作らなければ民主党は政権を維持できないと考えたのだろうか。
ちなみに日本で最大の発行部数を誇る読売新聞が10月2~4日にかけて行った世論調査(紙面に結果を発表したのは5日の朝刊1面)では鳩山内閣の支持率は依然として高く71%に達していた。読売はこの時鳩山内閣の政策についても調査しており、「高速道路の無料化」方針に対しては69%が反対している。が、亀井氏がまだ郵政改革相として小泉改革潰しの具体的動きをしていなかったため、読売も鳩山内閣の郵政改革についての調査は行っていなかった。もし私のこのブログ記事を仮に(そんなことは絶対あり得ないが)有権者のすべてが読んでくれたら内閣支持率は急落するに違いない。国民の大多数が衆議院選挙で小泉改革を支持したのだから、政権が代わったからといって小泉改革の反対派になったりはしないからだ。
ただ民主党の「高速道路無料化」は大きな経済効果をもたらす可能性があることだけお知らせしておこう。
反対した人たちはおそらく「高速道路建設に要した金はどうやって回収するのか。自分たちの子供や孫がそのつけを支払わざるを得ないことになる」とお考えになったのだと思う。その可能性は私も否定しない。
しかし、高速道路代がかからないということになると企業が工場や様々な施設を地方に移転させるかもしれない。そうなれば地方の経済が活性化し、雇用のニーズも増大する。また農業の機械化が進み出した1978年を契機に急速に国際競争力を失っていった日本の零細農家が農業をやめて、農地を機械化による大規模農営を行っている事業者に貸すなり売るなりして、新たな働き口に飛びつくかもしれない。そうなれば地方に住む人も、都会に住む人と同様な公的利便性を受けることができ、地価も上昇する。当然固定資産税や企業やその企業で働く人が納める所得税も増え、高速道路の通行料よりはるかに多くの税収が期待できる。そう考えるほうが合理的ではないだろうか。
いやそれだけではない。地方に住む人たちのために国民の血税がどのくらい使われているか。農林水産省の予算課に問い合わせたところ農業だけで1兆8~9000億円くらいが国から支援されているとのことだった。私の予測によれば、以上書いてきたような事態が「高速道路無料化」によって実現すれば、この農業支援は8割ほどカットできると思う。
実は日本にアメリカのような政権交代可能な2大政党政治を根付かせるためには、今のような選挙制度を根本から変えていかないと無理だということも書きたかったのだが、今回のブログ記事はこれで終える。いずれ近い将来、日本にアメリカのような2大政党政治を実現するための提案をブログに書くことをお約束する。