秋田県仙北郡の美郷町学友館で開かれている、版画家・川瀬巴水(1883~1957)の展覧会に行って参りました。「東日本を旅する」と題して、巴水が旅し、描いた、秋田や東北の風景作品を中心に100点が展示されていました。以前から画集では拝見していたものの、直に作品を見る機会はありませんでしたので、今回の開催は私にとっては願ってもない幸運な機会となりました。
川瀬巴水の作品からは、いつも、「光」に対する表現に大きな感銘を受けております。朝夕の光や月明かり、水面に映る光など、様々な光の捉え方と共に、それらが作り出す陰影の繊細微妙さが実に見事に表現されていて、色彩の豊かさも相まって、作品を前に感激の連続でした。そして、東北の何気ない風景が、品格をもって一層美しく迫るものがありました。
巴水の真摯な眼差しはもちろん、彫師、摺師の卓越した技にもため息がこぼれます。版元の大きなサポートにも心打たれるものがあります。改めて、作品一つ一つが、人と人との信頼から生まれた結晶であることを思い知らされました。きっと、このような世界から生み出された作品だからこそ、品格があり、美しく、新鮮で、いつまでも胸に迫るものがあるのだと思います。
様々なキャプションからは、「人間・川瀬巴水」を垣間見れるエピソードもあり、また、作品と合わせて写生帖も展示されていました。静かにじっくりと、巴水の世界を堪能できた素晴らしい展覧会でした。