続・切腹ごっこ

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「白虎隊自刃図絵」

2007-11-21 | ◆小説・kiku様
 相互リンクしてもらっているブログ「禁断のエロス、猟奇、切腹、愛と死の掌編世界。」のkikuさんから掌編小説が届いた。この小説は先日ここで公開した、白虎隊自刃図(とある方が描かれて僕宛てに送って下さったもの)からインスピレーションを得て書かれたものだという。
 今回は小説と絵をいっしょにお楽しみ下さい。




白虎隊自刃図絵

彼らは初めて参加した戦闘で、多くの者が死ぬのを見た。恐怖が誇りと自信を萎えさせた。無力感で打ちのめされた少年達を雨がまた疲れさせた。ぬかるみを歩く足音は重く、時々遠くで砲声が聞こえた。
「死ぬ時は手を貸してくれるか。」
源吉は歩きながら誰にともなく言った。周囲の者達は聞こえなかったように黙って歩いた。
「安心しろ、死ぬ時はみんな一緒だ。」
前を歩く駒四郎が振り返らずに言った。
白虎隊はもう飯盛山に入ろうとしていた。

飯盛山の中腹から立ち昇る煙が望めた。それは既に城が落ち、城下が燃えているように見えたという。
孤立した少年達には、会津の武士として死ぬ道しかもうないと思えた。話し合い自決しようと決まって、少年達は思い思いに散った。

「銃撃されて俺は怖かった。足がすくんで前に進めなかった。」
源吉は下を向いて言った。小さな声だった。
「俺も怖かった。自決すると決まって、俺はほっとしたよ。」
駒四郎と源吉は顔を見合して笑った。互いに隣で震えていた姿を思い出した。
周囲ではもう自決の声が上がり始めた。
駒四郎が脇差を抜いて諸肌脱ぐと、源吉もそれに倣った。まだ充分男にはならぬ柔らかく薄い胸だった。
左手で互いに肩を抱いた。
「これで俺たちも立派な会津の侍だな。」
刃先を上に向けて、互いに臍の上辺りにあてる。チクリとした痛みと共に刃のひやりとした感触があった。
「腰を引くな、一気に深く突く。いいな。」
膝を絡ませ、顔を上げて互いに頷く。
股間にむず痒い感覚が走る。尻の穴に力を入れた。男の徴(しるし)が帆を張った。
「お前のものが立っているぞ。」
駒四郎が笑った。
「お前こそ。」
源吉がむきになって言い返す。
「いくぞ!」
「おお!」
腕に力を込めると生温かい血が手に伝った。激痛が襲う。前の顔も歪んでいた。力を込めて胸を合わせていく。刃が上に走って胸の骨を断つ。心の臓を切り裂いて、二人の背に刃先が突き抜けた。

「俺は死にたくない。」
取り囲まれて、彼は泣きながら言った。
「会津には卑怯者はおらぬ。いてはならぬのだ。」
立ったまま両腕を取られて腹を露わにされた。
「立派に死なせてやる。」
「俺達も一緒に死ぬんだ。」
「俺は嫌だ、死にたくない。」
「見ろ、みんな立派に死のうとしている。」
口々に励ましながら、無理に脇差を握らせた。四人がかりで腹を切り割いた。臓腑が溢れた。押さえつけて首を切り落とした。

二人は皆と離れて木立の中に入った。座ると繁った草が視界を覆った。
「お前を好きだった。」
悌次郎は恥ずかしそうに言った。
「わかっていたさ。」
「お前の手で割いてくれるか。」
彼は自分の腹に手を導いた。
「俊・・・。」
互いに腹を探り合い、やがてしっかりと抱き合った。束の間の契りを交わして、二人は脇差を握り締めていた。

座して諸肌脱いだ少年が脇差を腹に突き立てている。激痛が悔しさを和らげた。泣きながら引き回す。
「うむううう・・、あうううううう。・・・。」
前に屈んで肩を震わせた。
「いいか。」
後ろに立つ武治が刀を振り上げた。しばらく震える首筋を見下ろして討てなかった。
「きぇぇい。」
悲鳴のような気合と共に振り下ろした。細い首は切り落とされて前に落ちた。頭部を失った身体は真っ赤な血を噴き上げながら横に倒れた。

勝三郎は深く腹を切り割いて臓腑が溢れた。茂太郎が介錯をしようとしたが、苦しみもがいて首が定まらない。
「おい、手を貸せ。」
近くで腹を切ろうとしている喜代美を呼んだ。
「足を押さえていろ、首を落とす。」
近くにいた二人も手を貸した。大柄な勝三郎を何人もで押さえつける。仰向けに寝かせて馬乗りになり、茂太郎は両膝で肩を押さえた。喉元に太刀をあてた。
「今、楽にしてやる。静かにしろ!」
見上げた勝三郎が、頷いて目を閉じた。身体の重みを太刀に預けて首を押し切った。首がごろりと落ちた。

新太郎は大きな樹の根元に座って前を寛げていた。周囲を見渡して、誰も自分を見ていないのを確かめた。
「義姉さん・・・。逝きます。」
小さな声で女の名を呼んだ。
腹を揉む。男の根が目覚めていた。袴の割れ目から手を入れて握り締める。目を瞑ってゆっくりしごいた。心地よい快感が込み上げた。
「義姉さん・・・。」
もう一度名を呼んで、股間を包むふんどしの中にしたたか吐いた。果てた余韻を確かめながら、悪戯をしたように周囲を窺った。
袖で刃を包んで握る。抱えるように腹に突き立てた。横に割いてから胸に刃先をあて、前に伏した。

肩に傷を負い、片手の利かぬ虎之助は手を借りていた。腰まで脱ぎ落として両膝立ちになった。
「いいか。」
向かい合わせに片膝立てた八十治が刃を胸にあてた。虎之助が手を添えて脇腹に導いた。
「腹を・・・、頼む。」
まだ肉の薄い少年の腹だった。
「苦しむとも、大きく切ってくれ。会津の武士として死にたい。」
「わかった。身体を離すな。」
虎之助が腹を前に押し出す。身体を寄せて八十治の腰紐を握った。八十治も膝立ちになって抱き寄せながら突き立てた。抉りながら斜めに割く。肉の喘ぎを感じながら、胸を合わせて刃に力を込めた。膝に生温かい血が降りそそいだ。
「うむううううう・・。」
「虎、苦しいか。」
「うぐううううう・・・・」
虎之助がしがみつくように八十治の腰を抱いた。腹は深く裂かれて、傷口からぬめぬめとはらわたが溢れた。苦しむ胸を貫いてやった。

腹を揉みながら、源七郎は前夜の事を思い出していた。
彼が出陣前に帰宅すると女が待っていた。
「あなたを男にするように、母者殿に頼まれました。」
女は彼を優しく導いて交わった。
「会津の武士として、立派に死んでくれよとのお言付けでございました。」
余韻の中で抱きながら女が言った。奥の部屋で、母は既に自害していた。
「母上・・・。」
彼は腹を切りながら女の肌を思い出していた。男が屹立していた。それはまさしく母に抱かれている夢だった。

「次の世でも逢おうな。」
「ああ、きっと逢おう。」
藤三郎が腹に刃を立てた。雄次も遅れじと突き立てる。見詰め合いながら引き回す。
にじり寄って互いの胸に刃をあてた。
「いこう!」
「うむ!」
相手の持つ刃に身体を投げ出すように刺し違えた。

貞吉は腹に突き立てようとして躊躇い傷を幾つも付けた。苦しむ声があちこちで上がり始めた。母の顔が浮かぶ。父の顔が浮かんだ。姉が笑っていた。遅れてはならぬと思った。自分だけが生き残る恐怖が頭をかすめる。死ななければならぬと思った。
喉元を突き上げた。口の中が込み上げる血の味であふれた。手を借りようと周囲を見る。すでにもう、それぞれが苦しみの声を上げていた。卑怯者にはなりたくないと思った。喉の刃に力を込めて突き入れた。気が遠くなった。

儀三郎は周囲を見渡した。まだ元服前の少年ばかりだった。刺し違えた者、切腹して介錯を受けた者、ほとんどの者がもう見事に死んでいた。流れる血は草が吸い土が吸った。
「会津の武士か・・・。俺はお前達と共に死ぬことを誇りに思う。」
苦しむ声が聞こえた。腹を切った和助だった。抱き起こすと彼が言った。
「儀三郎、あの握り飯は美味かったな。」
「ああ、美味かった。」
顔を合わせて笑った。昼に食べたことを言ったのか、遠い昔のことを言っているのかはわからなかった。胸を突いて止めを刺した。

座を占めて諸肌脱いだ。落ち着いた様子で袖を裂いて刃を巻き込む。
「人生 古より誰か死無からん 丹心を留取して 汗青を照らさん。」
腹を揉みながら文天祥の詩を口ずさむ。
伸び上がって腹に突き立てた。腰を揺らしながら横に割いた。
抜き出して教えられていたように胸元を貫きながら前に伏せった。しばらく痙攣を繰り返して動かなくなった。ゆっくりと血が広がり土に滲みた。

遠くで弾けるような銃声が聞こえた。風が通り過ぎて木洩れ日が差した。静寂に包まれて、もう何も動かなかった。


※これまで掲載していた頂いたイラストは、gooブログの要請によりこのページから削除させていただきました。

 飯盛山で自刃した白虎隊20名の最期は、唯一蘇生した飯沼貞吉の証言などが残っているが、同時に自刃した人数など諸説ある。「石田和助が一番最初に腹を切った」「永瀬雄次と林八十治が刺し違えた」など自刃の情景としてよく書かれる話があるが、今回kikuさんが書いたストーリーはそれとは関係なく独自のイメージをもとにしている。自分もいつか自由な想像(妄想)のもとに「白虎隊自刃・異聞」というような感じのイラストを描いてみたい。

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