続・切腹ごっこ

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「武士道無惨伝」

2010-07-03 | ★レビュー(本)
 嗚呼、いつの間にか7月だ。今年がもう半分過ぎてしまった。

 「武士道無惨伝」(平田弘史)という漫画を読んだ。以前、プレゼントされた「切腹」や「白虎隊」に関係する書籍のうちの一冊だ(
一覧はこちら⇒)。著者平田弘史については説明する必要もないと思う。本物の戦国時代・江戸時代はこんなんだったんじゃないだろうか、と思えるほど実写時代劇よりも重厚で迫力のある絵を描く御仁。
 このハードカバーの本の表紙には上半身もろ肌脱ぎになった壮年の武士が両手で掴んだ大刀で立腹を切っている姿が描かれている(凄い表紙^^;)。
 9話の短編が収録されており、どの話も武士の生きざま(というか死にざま)の凄まじさを感じさせる。そして必ずと言っていいほど腹を切る場面がある。少年が切腹する場面のある話も3話あるが、その中の一つのあらすじを紹介する。

「悲愴の父」
 病床の若君鶴千代の傍に仕える市之丞は、「若君が他界あそばされたならば追い腹を切る覚悟」と父新九郎に告げる。新九郎は一計を案じ、市之丞が心労から発狂したことにして、抵抗する息子を無理矢理座敷牢に閉じ込める。
 「市之丞、発狂」の報告に不審を抱いた家老松倉民部は、篠宮小四郎に確かめてくるように命じる。切れ者の小四郎は新九郎の嘘を即刻見抜き、新九郎は老いてから授かった一粒だねを失いたくないと白状する。小四郎は新九郎に同情し、市之丞は確かに発狂していたと報告。さらに、鶴千代が十四歳の若さで他界すると、「追い腹無用である」と藩主右京太夫に宣言させる。
 しかしそれを快く思わない家老松倉民部はその触れを握り潰す。そのせいで追い腹を切る者が出てしまう。小四郎は自ら馬を走らせて「追い腹無用!」と各家を触れて回るが、臆病者呼ばわりされるばかりで追い腹を切る者が続出。鶴千代に仕えた息子に無理矢理腹を切らせる父親まで現れる。
 そんな中、市之丞発狂は嘘ではないかと新九郎への風当たりは強くなる。新九郎は小四郎に伴われて藩主右京太夫に全てを打ち明けるが、右京太夫は新九郎を責めることはなかった。新九郎が家に帰ると市之丞が座敷牢を抜け出し刀を振り回す騒ぎを起こしていた。「市之丞発狂は真であった」という噂が広まり、新九郎を責める者はいなくなる。
 追い腹騒動は鎮静化し、新九郎、市之丞父子に静かな日々が訪れたのだが…、市之丞はいつか鶴千代が来てくれると信じ庭を掃き続ける。


 物語はまさに“無惨”といった感じだ。市之丞は鶴千代に会えぬ苦しみにとうとう精神を病んでしまった。
 この話には前髪を落とす前の少年の切腹が二場面描かれている。この少年の髪型は
角前髪と呼ばれるものなんだろうか?この髪形の生首というのは、すぐに「=少年」と断定できるだけに凄惨さを増幅させる。
 介錯を受けて転がる小さな首や、倒れた華奢な体が何とも言えず萌える。

※戴いた切腹・白虎隊関係の書籍の一覧を掲載した記事「切腹100年史」は、
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武士道無惨伝 (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)
平田 弘史
小池書院
インスタント若衆カツラ
丸惣
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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (UFO)
2010-07-05 08:20:11
子連れ狼の小島剛夕さんを彷彿させるようなド迫力な絵ですね!

実はケン月影さんのファンだったりします
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Unknown (ゴッコ)
2010-07-06 00:15:45
UFOさん、コメントありがとうございます

平田弘史さんも小島剛夕さんも時代漫画にぴったりな絵柄ですね。迫力もあるし、言うまでもなく物凄く上手いですね。
ケン月影さん、検索したら艶めかしい漫画がいろいろヒットしましたw 着物の色気を描ける人に憧れます。もっと着物を上手く描けるようになりたい。
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殉死、追腹、詰め腹 (RYU)
2011-09-07 12:26:34
武士道無残伝は、作画が平田弘史で、原作は滝口康彦になっていますね。滝口康彦は、「切腹」「一命」の原作の「異聞浪人記」の著者で、6月に講談社文庫から「一命」が映画化に合わせて短編集として出ていたので、先日買って来ました。こちらにも、殉死にまつわる追腹、詰め腹を描いた作品が入っていました。殉死が正式に禁止となる前、一種の殉死ブームがエスカレートし、亡君の寵愛を受けた者へかなりの追腹圧力のかかることがあったらしく、そういう状況が描かれていました。(「高柳父子」)家族や親類縁者は金銭的欲求や名誉欲、同僚は主君からの寵愛への嫉妬心から、人に無理やり腹を切らせようとする、いかにもそういうこともあっただろうと思わせる状況です。腹切る方も、そういう不純な動機で切腹を迫られるのはやりきれないでしょうね。

それと、高校の授業で聞いた話では、この時の殉死ブームでは、単に腹を切るだけでなく、どれだけ介錯前に頑張ったか、なども競われたそうです。殉死を勧める妻から、「あの、できれば十文字にし遂げては頂けませんこと。ちょっとお苦しいかも知れませんが、残される子供とわたしの将来のためとお思いになって」なんて言われたら、きっと悲しいでしょうね。
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追腹圧力 (ゴッコ)
2011-09-10 23:50:59
RYUさん、コメントありがとうございます

「一命」、もうすぐ上映開始ですね。楽しみです。自分が見る初の3D映画になるかも。
「追腹圧力」「殉死ブーム」、そそられる単語ですね^^ 「能力もないのに主君の寵愛を受けて分不相応な出世をしたんだから、主君の最期に殉ずるべき」…もしくは「上様にあれだけ愛されたなんて、羨まし過ぎる!イイ思いしたんだからこれ以上のうのうと生きてるんじゃねぇよ!」という周囲からの圧力。ジェラシーって恐いですね~^^;

難易度の高い切腹を平然とやってのければ、周囲の評判も良く、遺された家族もそれなりの顔ができる。立派に腹を切れたら介錯前にどや顔とかしたんだろうか?? 一族の出世を託して腹を切る商腹というのもあったそうですね。現代人からすれば江戸期の武士の世界というのは、戦乱の世よりも理解と共感の難しい時代だったのかもしれません。
自分の立場を犠牲にして、他の何かを良い方向に持っていくってことは現代でもあるけど、犠牲にするものが自分の「命」ってのがやっぱり現代ではありえない部分ですよね。
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嫡子切腹 (RYU)
2011-09-14 17:42:04
「命」の重みが現代と江戸時代では相当違うので、理解しがたいものもありますが、今でも通じるものもありますね。
「商腹」、時に自分の腹を切って、あるいは夫や子供、親族の腹を切らせて一族の利益を求める、今なら保険金殺人に近いでしょうか。自殺の扱いが違いますが、根底は誰かの命と引き換えに、何か利益を得ようとするものですね。
「詰め腹」、こちらは「いじめ」でしょう。ただ、今「いじめ」で「死ね」というのは良くないこととされていますが、江戸時代の社会通念では、「殿に準じて腹を切れ」というのは、結構正論だったりするので、言われた方はぐっと来るものがあったと思います。

今の時代で通じそうにないのは、「嫡子切腹」でしょうか。身分が高いと、問題を起こした当人が罰せられるだけでなく、嫡子に切腹させる例が結構ありますね。城内で刃傷沙汰を起こし本人はその場で自害しても、嫡子は切腹など。親の方は問題を起こしたり政争に負けたりで切腹も致し方ないかもですが、子供の方は自分に何の落ち度もないのに突然切腹申し付けられて、ずいぶん不条理です。年齢的にも相当若い時にそういう目にあうこともあったでしょう。元服して間もなく、習った切腹作法を実践する羽目になって、どんな気持ちだったでしょうか。
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嫡子切腹 (ゴッコ)
2011-09-15 22:21:07
RYUさん、コメントありがとうございます

嫡子切腹、そそるシチュエーションですね~ 個人ではなく家単位で評価が下される時代ならではですよね。現代の感覚からすると無関係な子供も連帯責任で切腹。

刃傷沙汰を起こした父親の責めを負ってある日突然謹慎の上切腹を言い渡された元服前の少年(13歳)。昨日まで藩校でいっしょに普段通り過ごしていた同い年の友人たちは見張りの目を掻い潜って少年宅に忍び込む。死装束で正座し固く目を瞑っている少年。友人のうち1人が少年と約束していた剣術の試合を申し込む。木刀を打ち合わせるうちに子供らしい表情が戻って来る。
夕刻、心地よい汗と涙を茜色に染めて、最期の別れの言葉を交わす少年たち。
翌朝、少年は年若ながらも特別に元服を済ませ、前髪を落とす。そして間をおかず、香を焚きしめた仏間にて少しも取り乱すこともなく見事作法通りに切腹して果てた。
数日後藩校の裏山で、切腹した少年の友人3人の遺体が見つかる。3人とも見事一文字に腹を掻いており、うち2人の首は落ちていた。1人目が腹を切り、2人目がそれを介錯した後切腹。3人目がそれを介錯した後切腹し、自分で首を突いてトドメとしたようだ。…みたいな。
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