憲ちゃんと僕と同じクラスの誉くん(たかし)は地元では有名な蕎麦屋の息子で、僕らと同い年なのに僕らよりずっとずっと歴史や地理に詳しくて、そんな誉くんを、あぁ凄いなあと感心していました。
僕らの住む北国の港町は、入れ替わりにロスケ(旧ソ連)の船が停泊しては、街には見たこともないような白い肌の、煤けた赤毛や艶のない金髪で毛むくじゃらの大男達がいつも酔っ払って喚いているところ。
誉くんは「あれはソ連の人達で、眼の色と肌の色からするとコーカサス系かな?」とか説明してくれるんだけど、かく言う誉くんはそんな大男達よりずっとずっと色白なものだから、誉んちは蕎麦屋じゃなくて、うどん屋じゃないかとからかわれていました。
そんな誉くんちは一階がお蕎麦屋さんで、2階はお客さん用のお座敷部屋が幾つかあって、どれも広くて綺麗です。
僕が小学4年の頃、僕らの住む港町はたいそう栄えていて、誉くんと2階の宿題をしていると従業員の人達が、「誉坊ちゃん、宴席の支度をさせてもらいますね~」といつも繁盛しているようでした。
誉くんのお父さんお母さんも「朴くん、いつも誉と仲良くしてくれてありがとう」といつも良くしてくれていました。
僕がそうやって誉くんといつも仲良くしていると、近所の憲ちゃんがやってきて、
「朴ちゃん、誉と仲良いよねー。今度俺も行っていいか聞いてくれる?」
と居丈高にお願いというか命令してきました。
「あ、聞いてみるけど、ダメだと思うよ。」
「え? なんで?」
「だって憲ちゃん嘘ばっかりだし。こそこそしてるし」といつも言えないことを恐る恐る切り出してみると、
「あ、じゃあいいわ!」と呆気なく諦めた様子なので、僕もホッとしていたのでした。
そして一週間後、誉くんの家に宿題をしに行くと、踵を踏んだ汚い運動靴が玄関に乱雑に放られていました。
僕の一足先に
憲ちゃんが上がり込んでいたのでした。
玄関の真正面から2階へ続く急な階段の上に憲ちゃんがいるのが分かります。
でも、逆光で顔は暗くて見えないんです。
それでも、誉くんより先に部屋から出てきた憲ちゃんは
「あ~朴ちゃん、なんだぁ来たんだ?」とにやにやしているような影だけの顔で笑うのでした。
僕らの住む北国の港町は、入れ替わりにロスケ(旧ソ連)の船が停泊しては、街には見たこともないような白い肌の、煤けた赤毛や艶のない金髪で毛むくじゃらの大男達がいつも酔っ払って喚いているところ。
誉くんは「あれはソ連の人達で、眼の色と肌の色からするとコーカサス系かな?」とか説明してくれるんだけど、かく言う誉くんはそんな大男達よりずっとずっと色白なものだから、誉んちは蕎麦屋じゃなくて、うどん屋じゃないかとからかわれていました。
そんな誉くんちは一階がお蕎麦屋さんで、2階はお客さん用のお座敷部屋が幾つかあって、どれも広くて綺麗です。
僕が小学4年の頃、僕らの住む港町はたいそう栄えていて、誉くんと2階の宿題をしていると従業員の人達が、「誉坊ちゃん、宴席の支度をさせてもらいますね~」といつも繁盛しているようでした。
誉くんのお父さんお母さんも「朴くん、いつも誉と仲良くしてくれてありがとう」といつも良くしてくれていました。
僕がそうやって誉くんといつも仲良くしていると、近所の憲ちゃんがやってきて、
「朴ちゃん、誉と仲良いよねー。今度俺も行っていいか聞いてくれる?」
と居丈高にお願いというか命令してきました。
「あ、聞いてみるけど、ダメだと思うよ。」
「え? なんで?」
「だって憲ちゃん嘘ばっかりだし。こそこそしてるし」といつも言えないことを恐る恐る切り出してみると、
「あ、じゃあいいわ!」と呆気なく諦めた様子なので、僕もホッとしていたのでした。
そして一週間後、誉くんの家に宿題をしに行くと、踵を踏んだ汚い運動靴が玄関に乱雑に放られていました。
僕の一足先に
憲ちゃんが上がり込んでいたのでした。
玄関の真正面から2階へ続く急な階段の上に憲ちゃんがいるのが分かります。
でも、逆光で顔は暗くて見えないんです。
それでも、誉くんより先に部屋から出てきた憲ちゃんは
「あ~朴ちゃん、なんだぁ来たんだ?」とにやにやしているような影だけの顔で笑うのでした。