憲ちゃんは蕎麦屋の誉くんの家の
小銭を盗んだりと手癖が悪いのですが、まさか僕のモノまで盗むとは信じられなかったことがありました。
北海道弁で「ばくる」は「交換する」という意味で、僕と憲ちゃんは「仮面ライダーカードのばくりっこ」をすることになりました。
同じカードがダブっていたりとお互いに不要なカードを交換するのですが、ある日、その「ばくりっこ」を僕の家ですることになりました。
憲ちゃんは自分の要らない1枚のカードと
手に入れたいカード2枚を言葉巧みに「ばくらせる」そんな技を持っていました。
宥めすかし、嘘をつき、時には泣き落とし、おだてたりどう喝を繰り返す、そんな技を身に付けていました。
そして友達の多くが「ばくりっこ」で憲ちゃんに被害を被っているのでした。
さて、結局大損した気になるような「ばくりっこ」も終わって自分のコレクションを確認するとカードを入れる「アルバム」がひとつ消えていることに気がつきました。
僕は直ぐに憲ちゃんが盗んだのだと確信しましたが、両親は「友達を疑うもんじゃない!」と叱るのですが、それは憲ちゃんの様々な盗みのことを知らないからそう言えるのです。もっと言えば、そんな憲ちゃんをもう友達とは思ってないのです。
僕は言い方を考えて憲ちゃんに電話することにしました。
「憲ちゃん、さっき帰る時に間違って憲ちゃんのカバンに僕のライダーアルバムが入ったりしてないかな?」
「う、うん。ちょっと待ってて。調べてみるからさ。(しばし探している様子)見てみたけどやっぱりないよ。玄関とか探してみた?
一緒に探してあげるからこれから朴ちゃんの家に行っていいかい?」
暫くして憲ちゃんがやってきて、そんなところに落ちているはずもない玄関の端っこを懸命に探して(フリをしている)いたと思うと突然、
「あ、あった!朴ちゃんあったよ。こんなところに落ちてたよ!」
と大声で(わざとらしく)叫んだのです。そこは自分でも一番に探したところでしたからアルバムが落ちている訳がありません。
そうこうして、憲ちゃんが帰った後に「ほら、友達を疑うもんじゃないだろ〜」とまた叱られた私は
渋々と非を認め見つかったアルバムを開いてみるとなんと!
表紙裏に「茅野憲一」とボールペンで書いた名前が砂消しで消しきれずに残っていたのでした!
盗んだモノに早速自分の名前を書いて、バレそうになって証拠を消す。そのやり方ももう少し考えれば良いものを。
憲ちゃんがアルバム探しと称してやってきて、玄関の二枚引き戸の隙間からアルバムを中へ滑り込ませ、あたかもそこに落ちていた
ような芝居をしたのです。
表紙裏の消し損じた愚かな筆跡を両親に見せると母親はなんと
「憲ちゃん、やっぱりね〜。思った通りだったわ。ほら、憲ちゃんのお父さん本当のお父さんじゃないからね〜、やっぱりね〜。ウチは本当のお父さんで良かっね〜。」と偏見に溢れた母の発言は憲ちゃんの愚かな行為よりもっと愚かで哀しく響くのでした。
相変わらずの憲ちゃんにはがっかりしましたが、母には呆れてもっとガッカリしたのでした。
僕にとっての「仮面ライダー」はそんな哀しい記憶が付きまとっているのでした。