https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200519-00000004-ykf-soci
新型コロナウイルス感染症の治療薬として、他のウイルス性感染症(インフルエンザやHIVなど)の既存薬(抗ウイルス薬)が転用・承認されたり、候補に上がったりしている。
抗ウイルス薬はこのように、新薬を含めて次々と開発されてきている。それに対して、細菌の増殖を抑える抗菌薬(抗生物質)は、開発が頭打ちになっている。ご存じのように、ウイルスと細菌は大きさや仕組みが違うため、ウイルスに抗菌薬は効かず、逆も然りだ。
抗菌薬は抗ウイルス薬より歴史が古く、多くの薬が開発されてきたが、ここのところ新薬は現れていない。その大きな理由の1つは、投資に見合った収益が出にくくなってきていることがある。開発には莫大なコストがかかるが慢性疾患の治療薬に比べて投与期間が短く、また耐性菌を生じないよう使用に制約がかけられる、などのためだ。
そもそも、なぜ薬剤耐性菌ができるのだろうか。何らかの方法で薬剤耐性を得た細菌は、通常の生物のように、その情報(遺伝子)を親から子に受け渡す。しかしそれだけでは、世界中で薬剤耐性菌が蔓延することの説明がつかない。
昭和大学病院外科学講座小児外科の千葉正博准教授によると、抗菌薬の耐性化に関与するのは「プラスミド」だという。細菌のDNAは、染色体上にあるものと、プラスミドと呼ばれる染色体外にあるものの2種類がある。
「プラスミドとは、染色体の外にある遺伝物質の総称です。この中には、耐性をもつ遺伝子と耐性をもたない遺伝子があります。通常は、耐性をもっている遺伝子をもたない細菌が、それをもっている細菌と、まず初めに接合を起こします」
接合とは、くっついた細胞間で遺伝物質を伝達することだ。
「接合すると、耐性を持っていないほうに持っているほうの遺伝子の複製が流れていきます。これを、プラスミドの水平伝搬といいます。そうすると、今まで耐性を持っていなかった細菌が、薬剤耐性を持つ遺伝子を持つようになってしまうのです」
これが薬剤耐性を持つ菌が増える大きな要因で、このような水平伝搬は菌種を超えて行われることもあるという。
薬剤耐性菌をできるだけ増やさないようにするためには、医師もわれわれ患者も、抗菌薬の適正な使用を心がけることだ。風邪やインフルエンザなどに効かない抗菌薬を服用したり、逆に処方された抗菌薬を途中でやめてしまったりすることは、ぜひとも避けたい。英国で2016年に発表された「オニールレポート」によると、2050年には世界で1000万人の薬剤耐性菌による死亡が想定され、現在のがんによる死亡数を超えると予測されている。
抗菌薬を適正に使う以外で、個人が日頃からできる対策は、適正な食事、運動、睡眠で、体力・免疫能を適正に維持することだ。ただし、基礎疾患をもっていたり、乳幼児や高齢者などでもう少し積極的に対策したい場合は、加熱処理した乳酸菌を摂るという方法もある。
「“腸の予防接種”と考えて、食事やサプリメントでそれなりの量を摂取するのも一つの手ではないでしょうか?」