本館横を過ぎる頃から、目の前に満開の桜園が見えてきます。
誰もがこの場所でカメラを構え、恋人達は手の平にスマホを持って、桜の前に肩を並べます。
本館横の小さな花壇には、ヒマラヤユキノシタやギョリュウバイがひっそりと花を咲かせていました。
華麗な桜の群に目は奪われがちですが、遥遥とヒマラヤやタスマニアなどからやって来た、これらの可憐な花の姿は、ステーキに添えたクレソンのような清涼感をもたらしてくれます。
すぐに、満開の桜の中へは入らず、21番標識のある桜園の手前を右へ曲がることにします。
ヒマラヤスギを右に見ながら歩を進めると、目の前に染井吉野の花盛りが見えてきます。
今年は(2016年)この木が、小石川植物園の染井吉野の中で最も早く花を咲かせました。
あれから二週間、桜の古木は今、若葉萌える紅葉並木の入口で、満開の枝を飾り、花舞う姿で季節を語っています。
桜の古木の横ではシャガが、緑の中に白い点々の花をちりばめていました。
見上げればナツミカンが、春の陽射しの中に黄色い果実を晒しています。
右へと弧を描く道の、その右手のヤブ中のシャクナゲが、鮮やかな朱色の花に彩られていました。
真っ赤なシャクナゲを見るたびに、ヒマラヤの山村で出会った、真直ぐな目を見せた少年を想い出します。
夫々の花に夫々の思い出が重なり、歩みは遅くなりがちです。
右へと弧を描く道の先に柴田記念館が見えてきました。
北国の落葉松林の中に、こんな風な赤煉瓦煙突の小さな山荘を建てて、友と酒を酌み交わしたいのですが、夢のままに終わってしまうかもしれません。
柴田記念館の前にはシダ園があって、日本の代表的なシダなど130種が集められています。
筆者は最近シダにも関心を向け始めましたが、これ以上手を広げたら、収取が付かなくなりそうで、ちょっと心配になります。
柴田記念館の裏手に、ショカッサイが紫色の花を咲かせていました。
ショカッサイはアブラナ科の越年草で、別名をムラサキハナナ、オオアラセイトウ、ハナダイコンと幾つかの名で呼ばれています。
ショカッサイの名は、中国で、三国志に登場する諸葛孔明が出陣の先々でこの種子を蒔いたとの言い伝えに由ります。
皇居のお濠には、桜の下にショカッサイが群れ咲く場所があって、見事な彩を満喫することができます。
※他の記事へは 小石川植物園 ちいさな花旅 index をご利用下さい。
他の旅の記事へは 旅の目次 をご利用下さい。