桜の咲く季節はまだ、午後に時計が進むと、肌寒さを感じるようになります。
カリン林を抜ける辺りで、白いコートに身を包んだ乙女がコブシの下で、倒木を刻んだベンチに座り、スマホ片手に誰かに思いを伝えようとする姿を見かけました。
饗宴の桜の園を外れ、森の奥に歩を運び、白い花が密やかに咲き揃う姿を愛しむ人も居ます。
散策路は針葉樹の中へと入ってゆきます。
森の床にはヤマアイの緑の絨毯が広がっています。
針葉樹の直線的なフォルムの木洩れ日の中、ヤマブキが優しい表情で微笑みかけます。
モミやトウヒの木立を抜けると、東屋が、武蔵野台地の肩で桜を見上げていました。
咲き進む花の時を惜しみながら、来園者が寛いでいます。
現在居る場所が、小石川植物園で最も西に位置することになります。
東屋を過ぎると、台地の下へと階段が続き、オフィス街の方角にビルが見えています。
眼下の日本庭園に広がる池の周囲を、満開の花に覆われた桜が飾っていました。
階段を進みながら下を覗くと、湧水を溜めた小さな池があります。
池の中には花を終えたミズバショウが二株、水に若緑の葉を浮かべていました。
池の脇には、多くの人々が誘われた踏み跡が残されていました。
日本庭園の池の畔に立つと、白と赤錆色に塗り分けられた旧東京医学校本館が、お洒落な景色を演じ、鏡のような池の水面に、情緒を映しています。
次郎稲荷の前から滲みだす湧水を覗くように、イロハモミジが枝を広げていました。
その枝々の先で、イロハモミジの花が、線香花火のように弾けていました。
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