
漁業における担い手、乗組員不足が深刻化する中で、外国人漁業技能実習制度の活用が進んでおり、制度の拡充を機に新たなニーズも表面化している。
人口の少子高齢化に伴う日本の漁業および労働市場の構造変化を基礎に、外国人技能実習制度の形成過程から現在までをとらえ、課題と方向性を分析した『外国人労働力に支えられた日本漁業の現実と課題―技能実習制度の運用と展開に必要な視点-』(佐々木貴文・三輪千年・堀口健治)が「東京振興」第568号として発行された。海外で操業する漁船に外国人を乗船させる「漁船マルシップ」方式からパイロット事業を経て2010年に法改正によって本格実施された「漁業技能実習制度」。現在は毎年300人を受け入れ、沿岸・沖合漁業に約900人の技能実習生が従事している。これに遠洋における外国人漁船員を含め、年間3千人~4千人の外国人が従事し日本漁業を支えているという。
著者たちは、すでに産業を支える水準まで達している外国人労働力の実態を踏まえ、今後の議論の方向性として人数を制限して就労ビザを単純労働者に発給する制度を新規導入するか、現状の技能実習制度をベースとした拡充という二つの選択を問う。どうも政府の意向や業界の要望では後者の方向に行くようである。
北海道の沿岸漁業においても法務省・厚労省が明らかにした制度見直しの枠組みに沿って新たな漁業技能実習生の受け入れを検討している。全国的にはすでに巻き網、イカ釣り、かに・えびかご、まぐろはえ縄を対象に13漁協が監理団体として実習生を受け入れている。
北海道で要望の高い漁業はイカ釣りで、業界団体が希望調査を実施したところ、41隻・61名ものニーズがあった。このうち、漁協に未加入あるいは兼業船を除く21隻・27名が制度上問題のないケースとされる。近く説明会を開き、それぞれの漁協が監理団体として登録するかどうかの可否を判断してもらうことになっている。
国の拡充策は、実習期間の延長、人数枠の倍増、対象職種の拡充(複数職種の同時実習)とされ、2015年度中に新制度への移行を表明している。具体的な内容が不透明な中、新制度への移行前夜の状況をこの論考はリアルに伝えている。すでに「実習生の雇用は、人件費の削減より労働力の確保が重要な目的」とされ、韓国や台湾との競争が激化する中、「選ばれる日本」をめざす漁業における労働力政策の視点が求められているようだ。

(写真は、三輪千年氏)