2004年7月12日から14日まで仙台市で行われた国際膵臓学会(International association of pancreatology)に参加してきました。この学会期間中、関東地方では暑い日が続いていて梅雨明けが宣言されましたが、仙台は梅雨空で、気温も関東地方より10度近く低い過ごしやすい気候でした。 私は、膵臓がんの術後経過の推測に術前のPET検査が役立つという報告をしました。少し詳しく説明しますと、術前に施行したPET検査で腫瘍に強く集積した人では術後再発が早く、腫瘍への集積が弱い場合には再発が遅い傾向があるのです。これまでの検査では、膵臓がんの手術後の再発を高い確率で予測できる指標はありませんでした。もちろん今でも、膵臓を切除した後に顕微鏡で組織学的な所見を観察すれば、リンパ節転移の有無とか、がんの後方組織、大血管、神経叢等への浸潤程度が詳しくわかりますので予後が悪いかどうかはある程度わかります。これに対して、PETでは手術前に予後の予測ができる点で画期的なのです。 既にLancetとNew England Journal of Medicineにも報告されていますが、膵臓がんに対する手術と術後補助化学療法と放射線化学療法の多施設共同のランダム化比較試験の結果がヨーロッパの膵臓がん治療グループから報告されました。その結論は、膵臓がんの手術後には抗がん剤(5FU+Folinic acid)を投与することで有意に生存期間が延長されるが、放射線+抗がん剤治療は効果がない、というものです。現在は5FU と別の抗がん剤(Gemcitabine)とのランダム化比較試験を行っていることも報告されました。 また、国立がんセンター中央病院内科と千葉大学大学院腫瘍内科は、膵臓がんに対するGemcitabine+S1という2剤の抗がん剤投与の有効性を報告しました。奏効率が40~50%あるとのことですので、今後大変期待される治療法です。
2004年7月21日から23日にかけて鹿児島市で開催された日本消化器外科学会に参加してきました。この期間、関東も暑かったそうですが、鹿児島と宮崎も暑い日が続きました。宮崎では早くもお米を収穫していました。 21日は宮崎市のブレストピアなんば病院と病院内の収束超音波手術(Focused ultrasound surgery, FUS)装置を見学しました。羽田発9時半の飛行機に乗り鹿児島空港に11時に到着。鹿児島空港からバスで国分駅まで行き、そこから特急霧島で宮崎に向かいました。鹿児島と宮崎は特急で2時間弱の行程で、宮崎には午後2時過ぎに到着しました。ブレストピア病院には国立がんセンターのレジデントの橋本真治先生と二人で伺いました。病院の外観はヨーロッパの古い街の建物のような雰囲気で、内部も落ち着いた癒し系の雰囲気を感じさせる造りでした。ブレストピア病院では院長の難波先生、FUS担当の古澤先生、事務の大久保さんなどに迎えていただき、FUSの肝臓を焼くデモンストレーションを見学させていただきました。FUS装置はMRIに組み込まれていて、リアルタイムにMRIで治療部位を観察しながら治療するシステムでした。このFUS装置は最初はGEが開発し、現在はイスラエルのベンチャー企業が引き継いで開発しているとのことでした。乳がんだけでなく子宮筋腫、肝臓がん、脳腫瘍などについても世界中で治療が開始されているようです。ブレストピアなんば病院での乳がんの切除件数が国立がんセンター東病院より多いことにも驚きました。ちなみに院長の難波先生は私の千葉大の1年先輩であることもわかりました。夕方見学が終わって宮崎から鹿児島に向かいました。 22日午前は消化器外科学会ビデオシンポジウムで「膵がんに対する門脈合併切除術」について発表しました。その内容ですが、国立がんセンター東病院での通常型浸潤性膵管がん切除101人中、門脈合併切除を約4割に当たる38人に施行し、その中で組織学的にも門脈浸潤を認めたのは21人で、17人は癒着だけで浸潤は認めませんでした。これらの人の生存率に関しては、門脈合併切除をした38人と門脈を切除していない63人では差がありませんでした。しかし、組織学的に門脈浸潤を認めた21人は、組織学的には浸潤を認めなかった17人より予後不良でした。また同じ門脈浸潤でも、門脈の外膜までの浅いがん浸潤では長期生存例がいたのに対して、門脈中膜や内膜まで深くがん浸潤があった人では長期生存した人がいませんでした。つまり、膵臓がんが門脈へ癒着していたけれども組織学的に浸潤が認められなかった場合や、がんの門脈浸潤があるけれども浅い場合には門脈合併切除は効果が期待できるけれども、がんが門脈壁深くまで浸潤した場合には切除しても効果が期待できないわけです。 22日午後は免疫と食道がんをテーマとした教育集会がありましたので参加しました。学会終了後に、会員懇親会が桜島で開催されましたが、大変にぎやかで楽しい会でした。私も屋台で鹿児島ラーメン、黒豚、さつまあげなどをいただきましたが味はかなり本格的でした。 23日午前は緊急企画として日本発の膵臓がん、大腸がん、胃がんの多施設共同のランダム化比較試験の成績が発表され注目されました。膵臓がんでは、名古屋大学、北海道大学、国立がんセンター東病院等から拡大リンパ節郭清は効果がないことが示されました。大腸がんでは、国立がんセンター中央病院、国立がんセンター東病院などから術後に経口抗がん剤UFTを服用した群の成績が有意に良好であることが報告されました。1~3cmの食道浸潤のある胃がんでは、国立がんセンター中央病院、国立がんセンター東病院などから開胸しない群の予後が開胸群より良好であることが示されました。これらの内容はいづれも今後の日本の標準的治療になるものと思います。 23日午後には膵管内乳頭腫瘍に関するワークショップがあり、私が指導した橋本真治先生が膵管内乳頭腫瘍の手術適応について発表しました。その内容は、膵管内乳頭腫瘍の主膵管型は全例腺癌であったので、切除すべきであり、膵管内乳頭腫瘍の分枝型では嚢胞径が大きいか(3.5cm以上)または主膵管が拡張している(7mm以上) 場合には腺癌の可能性が高いため手術すべきである、という内容です。これは以前から私なども発表してきた内容であり、今回の発表前に何度も相談して練り直したこともあって、大変順調なプレゼンテーションでした。
2004年6月13日のBS-iの“健康DNA”という番組で“OpeAnime”が紹介されました。OpeAnimeは、私と早稲田大学助教授の河合隆史先生、(株)メディアグルーの伊藤朝香さん、早稲田大学研究員の風間瑞穂さんとで共同作成した手術CGアニメーションです。その中には,胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がん、乳がんなどのがん手術を中心に16術式を収録しています。 番組内での高田万由子さんとTAKE2の二人がOpeAnimeについての感想を述べているのですが、そのコメントがとても良かったのでここでご紹介したいと思います。高田万由子さん“立体的になっているだけで、ああ、なるほど、ここの奥にこれがあって、と、わかりやすいです。平面で絵だけだとどうしてもわかりづらいですし。”TAKE2“CGアニメはお医者さんにとっても気が楽になったというか、教えることが容易になったのではないですか。映像があると理解しやすいですよね。”
2004年4月からメディカ出版の消化器外科NURSINGという雑誌で、看護師さん向けにイラストを用いて手術の術式と術後のケアのポイントを解説する連載記事を執筆しています。2004年7月号では亜全胃温存膵頭十二指腸切除術について解説しました。 この手術は主に、膵頭部がん、胆管がん、および十二指腸乳頭部に対して行います。切除臓器が膵臓、胆嚢、胆管、十二指腸、胃の一部と多く、再建箇所も多いので大変難しい手術です。また膵臓と空腸の吻合部から膵液が漏出すると出血を引き起こすことがあるため術後も気が抜けません。 私の勤務している国立がんセンター東病院では年間約40件の膵頭十二指腸切除術を行っています。他の病院の正確な手術件数はわかりませんが、恐らく全国でもベスト5くらいに入っていると思います。国立がんセンター中央病院、大阪府立成人病センターも多数の膵頭十二指腸切除を行っています。逆に地方の大学病院などでは年間数例というところもあるようです。手術件数がそれほど違ってしまうと、手術の技量や術後管理にもある程度の差が出来てくる可能性が考えられます。また手術をピアノ演奏に例えると、一応弾けるのと上手に弾けることに相当するかもしれません。患者さんの立場からは後者を選択したいと思うのが当然だと思います。 それではどうすれば外科医の手術の技量を見分けることができるのでしょうか?残念ながら現在は各病院の手術件数や手術成績の情報が全ては公開されていませんのでそれを判断することができません。病院によってはインターネットのホームページに情報を積極的に公開しているところもあります。恐らく、近い将来には各病院の膵頭十二指腸切除術の件数、術後合併症発生率、5年生存率などの情報が公開されるようになると思います。ちなみに国立がんセンター東病院で膵頭十二指腸切除を受けた最近の約100人の患者さんは全員無事に退院しています。