SURGERY NOW note

がん治療と外科手術に関する新しい情報や日常診療を通じて感じたことなどを紹介します。

弘前で日本膵臓学会が行われました

2011-07-30 | 学会
第42回日本膵臓学会が弘前で開催されました。今大会の会長は、弘前大学医学部保健学科の中村光男教授です。今回のテーマは、膵疾患診療の新展開-機能との調和を目指して-であり、膵機能に重点を置いた内容がかなり多かったです。私は膵機能維持と長期生存の両立をめざした膵がん治療というテーマのワークショップで膵がん切除後の膵内分泌機能の変動を中心に発表しました。

膵がん切除後の血糖値の指標であるHbA1cは、膵体尾部切除では上昇しましたが、膵頭十二指腸切除では変化しませんでした。術後にインシュリンが必要になった割合も膵体尾部切除の方が高い傾向でした。インシュリンを分泌するランゲルハンス島は膵体尾部に多いのと、体尾部切除では失われる膵臓の体積が大きいためだと考えられます。

FOLFIRINOXの国内臨床試験

2011-07-26 | 治療
オキサリプラチン、イリノテカン、ロイコボリン、5-FUを用いるFOLFIRINOX療法は、膵がんに対して有効であることが、2011年5月のNEJMに報告されました。それによると、切除不能進行膵がんの全生存期間中央値は、ゲムシタビン投与群の6.8カ月に対して、FOLFIRINOX群では11.1カ月と4カ月以上延長したのです。日本でもFOLFIRINOXの臨床試験が開始されるそうです。

暑気払い

2011-07-22 | 雑感
昨日は肝胆膵外科と手術室外科担当チームの暑気払いでビアガーデンに行きました。しかし、台風6号のために寒いくらいでしたので、最初は屋外にいましたが、途中から屋内に移動しました。新たに外科チームとなった看護師さん達と話すことができて楽しい会でした。

膵がんに対する分子標的薬エルロチニブ

2011-07-21 | 治療
2011年7月1日に膵がんに対する分子標的薬エルロチニブ(商品名タルセバ)が、保険承認されました。この薬剤は、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤というカテゴリーに入り、肺がんに対するイレッサと兄弟の様な薬です。このエルロチニブの作用機序を簡単に説明します。

がん細胞には上皮成長因子受容体(EGFR)が多数存在します。EGFRは、細胞表面から細胞膜を貫いて細胞内まで至る膜貫通型の構造をしたタンパク質です。EGFRの細胞表面部分に、EGFやTGF-αなどの分子が結合すると、EGFRはニ量体を形成して活性化し、さらにEGFRの細胞内部分のリン酸化が起こります。このEGFRのリン酸化が、細胞増殖や分化の刺激(シグナル)となって、K-RASの活性化などを引き起こして、核への増殖シグナルが伝達されます。

エルロチニブはEGFRの細胞内部分でのリン酸化を阻害することにより、シグナル伝達を停止させて、細胞増殖を防ぐのです。しかし、膵がんでは、本来はEGFRからの刺激によって活性化されるK-RASタンパク質が、遺伝子変異により既に活性化していることが大多数です。ですから、EGFR刺激が薬によって阻害されても、K-RASからのシグナル伝達は起こっている可能性が高いと考えられます。ただし、EGFRはK-RAS以外の経路のシグナルも活性化します。

膵がんに対するエルロチニブの治療効果は確かに認められますが、それほど大きくありません。しかも、日本人では、間質性肺炎の発生率が、8.5%と高いことも分かっています。ですから、十分注意して使用する必要があります。

爆笑問題太田光氏の短篇小説『ねずみ』

2011-07-12 | 雑感
爆笑問題の太田光氏が小説を書いていることは以前から知っていましたかが、これまで読んだことはありませんでした。ですからこの『ねずみ』は私が初めて読んだ太田作品です。読む前は、あの太田氏のことだから、かなり斜に構えて書いているのかと思っていましたが、短かくスッキリまとまった短編でした。テーマはいじめとそれに負けない強い自我でしょうか?ご一読をお薦めしたい小説です。