SURGERY NOW note

がん治療と外科手術に関する新しい情報や日常診療を通じて感じたことなどを紹介します。

ドクターハウスでも有機リン系農薬中毒

2008-02-24 | 雑感
 テレビドラマの「ドクターハウス」に有機リン系農薬中毒が登場しました。以下ねたばれになりますのでご注意下さい。

 ドラマでは農薬の付いた服を買った2人の高校生が突然倒れてハウスらの勤務する病院に入院しました。症状としては突然の腹痛、意識消失、除脈、低血圧、全身痙攣、呼吸機能低下などを示しました。ハウスのチームは、アトロピン、プラリドキシム投与と人工呼吸器による呼吸循環管理をしましたが重症のためなかなか改善しませんでした。ドラマとはいえ迫真の演技で臨場感が感じられ、かなりはらはらさせられました。今年の冷凍ギョーザによるメタミドホス中毒事件で最も重症だった人では、やはり突然の腹痛、嘔吐、下痢、縮瞳、唾液分泌、意識障害、痙攣、発熱などの症状が認められたことが報道されています。

膵がんに対する重粒子線治療の班会議

2008-02-23 | 治療
 2008年2月19日膵がんに対する重粒子線治療の班会議に参加しました。現在は局所進行膵がんに対する重粒子線+塩酸ゲムシタビン投与と切除可能膵がんに対する術前重粒子線照射の2つのプロトコールが進行中です。両プロトコールとも第I/II相試験であり安全性と重粒子線量(抗がん剤の投与量)を決定するための臨床試験です。臨床試験では患者の適格基準(がんの進行度、年齢、肝機能、腎機能、血算、他の治療歴、他がんの有無、内容を理解した上での同意など)が重要であるため、班会議でも症例ごとに適格基準から逸脱しているかどうかがしばしば議論になります。

 膵がんでは重粒子線照射開始時点でわずかな腹水や小さな肝内結節が認められることがあります。しかし、それらが真の転移なのかどうかはその時点でははっきりしませんので試験に登録されて照射が行われてしまうことがあります。しかし照射中または照射終了の頃に腹膜転移による腹水や肝転移がはっきりすると、臨床試験での症例の扱いは大変難しくなります。一旦始めた治療を途中で止めることを患者さんに納得してもらうことも難しいかもしれません。従って、膵がんに関しては腹水も無く、肝に小結節も認められない症例に限って重粒子線の臨床試験に登録すべきであると思います。

小説「キュア」を読みました

2008-02-17 | 雑感
 小説「キュア」を読みました。主人公は肝臓がんになった消化器外科医です。テーマの一部はがん治療に関するものですが、本文の記述に妄想的な部分が多くてなんとも釈然としないものでした。また本文内のがんに関する記述には、専門家からみるといくつか初歩的誤りと思われる部分がありました。本来全く次元の違うものである超越的存在の力と医学の科学的効果とが同一の視点から評価されているような強い違和感を感じたため、私の心には残念ながら「ひびかない」で終わりました。

ドクターハウス

2008-02-12 | 雑感
 FOXテレビで米国の医療ドラマ「ドクターハウス」を見ました。米国ではERに勝るとも劣らない程人気のあるドラマだそうです。この後少々ねたばれになっています。

 今回の患者はウィルソン病の女性でした。ウィルソン病は遺伝性の銅代謝異常であり、銅を胆汁中に排出することができないために、脳・肝臓・目の角膜などに銅が沈着して、脳神経障害・肝硬変などを引き起こす疾患です。この病気に関しては私も学生時代に勉強しましたが、医者になってから実際のウィルソン病患者を診たことはありませんでしたので、ドラマを興味深く見ることができました。

 ストーリーでは最初に幻聴などの神経障害と吐血があり、その後併発した肝臓がんが診断されました。その段階で肝臓がんに対して最初に肝移植が治療法として提案されるのがいかにも米国らしいと感じました。結局は日本と同じように肝切除手術がなされました。その後、目の銅沈着からウィルソン病との確定診断にいたりました。肝臓がんにエタノール注入をするシーンではがんでなくて腎臓に針が刺さっているように見えるなど若干不自然と感じる点もありましたが全体としては大変面白いドラマだと感じました。

 また、ドクターハウスを中心とする内科チームの様子にも大変興味を引かれました。米国の若手医師がチームリーダーであるドクターハウスに対して対等にずばずばと物を言うのは日本とはかなり違うと思いました。今回のストーリーではチーム内でのこうした率直なディスカッションから診断にたどり着いていました。確かにこうした率直なディスカッションは肯定的に評価できると思います。

受け入れ拒否という報道表現は不適切

2008-02-11 | 雑感
 最近、新聞紙上およびテレビなどでも救急患者が何カ所もの医療機関に受け入れを拒否された、というような報道がしばしばなされています。そして、受け入れ拒否というマスコミの表現には、病院が患者を受け入れなかった対応に対する批判的な印象を強く感じます。

 実際は、病院は受け入れたくても、対応する診療科の医師がいなかったり、他の患者に精一杯で受け入れることが不可能なのです。例えば、循環器科の当直医師がいないのに重症の心筋梗塞の患者を受け入れるほうがどれほど無責任であるかを考えればわかることです。ですから正しくは受け入れ不可能なのであり、マスコミ関係者は受け入れ拒否という表現はやめるべきだと思います。ある病院が受け入れを断ったなどというレベルの報道ではなくて、勤務医不足から救急医療が危機的状況であることを医療システムの問題として報道すべきだと思います。