桑山十兵衛の第4作である。
高原新田笹ノ沢の霊風
白旗村への誘い
五つで売られた飯盛女
江戸からの恋飛脚
十と一つの花嫁の涙
隠すより現る
勢至堂宿の馬泥棒
思い立ったが吉日
8編の物語だが、関八州を巡回している間に起こった事件から、物語が次々とつながってゆく。
最初は、日光の先、会津西街道、今の鬼怒川温泉の奥の方、高原新田での事件
次は、熱海での話。
甲州街道を八王子へ向かった十兵衛は、八王子で事件を起こした悪党者が甲州へ向かったので追いかけたが、
その後駿州へ逃げたので、三島まで追いかけた。しかし、甲州も駿州も八州廻りの管轄外なので、あきらめて
熱海に向かうことにした。熱海には大湯と言って、間歇泉があったという。
ここでの事件が、その後の展開の始まりとなり、独身の八州廻り桑山十兵衛の再婚へつながる。
この八州廻りの物語は、桑山十兵衛が関東の各地を廻村と言って、巡回して事件を解決していく物語である。
今回も日光街道を皮切りに、甲州街道から熱海へ、銚子へ向かうのに、成田方面への木下街道や鮮魚街道、
ついでは、大山街道の矢倉沢往還・厚木の宿などとにかく、各地を巡回する。
その間に、作者は各地の名所や名跡、由緒などを盛り込んで案内してくれる。
とにかく地図を手元に見ながら、小説を読まないといられなくなるものである。
そして、巡回の間に江戸時代の各地の事件やできごと、十兵衛の生活などが盛り込まれて、話は進展してゆく。
今回は、姫君を連れた五人組の話と十兵衛の再婚の話が織り込んである。
特に興味を持ったのが、公事方勘定奉行・石川主水守(もんどのかみ)に指示された、将軍・家斉からの
探索依頼で、会津若松・松平家へ旅の絵師になりすまして出張することであった。
会津若松での捜索後、勢至堂峠を越えて江戸へ帰ろうとするが、後を追ってきた会津藩士と思われるものたちに
襲われ、窮地に一生を得たところなどは、十兵衛の活躍に感心したものである。
最後に、姫君を連れた五人組の正体が明かされ、会津松平肥後守の出生の秘密までつながってくるような話であった。
とにかく、いろんな資料を読み込んで物語が組み立てられていると思う。史実との相違はどうなのかとも思われるが、
江戸末期の社会の動きも知れる面白い小説である。