以下は前回記事からの続きです。
≪ナレーション≫
○未知のウイルスと戦う人類、そのリスクを高めているのが人類が排出する二酸化炭素による地球温暖化である。2015年、シベリアの永久凍土でフランス国立科学研究所などのチームが3万年前の地層からモリウイルスという新種のウイルスを発見した。温暖化によって永久凍土が解けた場所で見つけたモリウイルスは極めて増殖能力が高い全く未知のものだ。
番組参加者以外の研究者談
○無数のウイルスがあらゆる大地や海に存在します。永久凍土が掘り起こされ、人間がウイルスに感染する機会が増えます。リスクは必ずあります。
≪ナレーション)≫
○リスクは森林にも拡がっている。1998年、マレーシアでニパウイルスと呼ばれる、それまで全く知られていなかった病原体が人に感染し、100人以上の死者が出た。ニパウイルスはオオコウモリから発見された。マレーシアでは養豚業が盛んになるにつれ、森林が伐採され、大規模な養豚場がつくられるようになった。その結果、今までジャングルに潜んでいたウイルスが豚を介して人へと感染したとみられる。
温暖化はウイルスの拡散を加速させる。その一つがジカウイルスの感染症、ジカ熱です。妊婦に感染すると胎児の発育に影響し、脳が未発達のまま生まれることがある。従来、ジカウイルスの感染は赤道付近の熱帯地域に限られていたが、温暖化の影響で媒介する蚊の生息域が拡大し、今や日本での感染も危惧されています。
五箇公一(国立環境研究所)談
○気候変動を引き起こしたのは、経済格差を埋めようとする工業の発展が、途上国で、かつての先進国以上に速い速度で起きている。そうすると、生物多様性のホットスポット(保全の重要地域)というエリアの真ん中でそういうこと(工業発展)が起ってしまう。開発と森林伐採という破壊、それが急速に進む中では、そこに閉じ込められていたウイルスたちが、まさに人間という新しい住処を得て、それが今、北と南がつながることで北の人口密集地に入り込むという図式が、1980年以降からずーと続いているわけですよね。
気候変動を起している開発とグローバル化に、実は今このウイルスが便乗しているという状況がある。
南の人たちが森林を伐採しなくてもいいようにするにはどうしたらいいかというのが、大きな課題なんだが、未だそのゴールには到底たどり着かない。そのしっぺ返しとして、感染症の問題も起こっているのだと思う。
押谷 仁(東北大・専門家会議メンバー)談
○新型コロナウイルスで、この数週間以内で見えてくるのは南北問題です。まずアジアですが、アジアの大都市はこのウイルスを恐らく制御できない。そうすると次はアフリカで、アフリカも非常に経済発展して都市に人が集まっている。中國の武漢のような状態が、アジア、アフリカの大都市に起きて来るということを考えた時に、我々が一体何が出来るのか?アジア、アフリカの人たちをどう救うのかということもありますけども、日本でこのウイルスをどう制御するかということで、大きく変わってくる。
五箇公一(国立環境研究所)談
○感染症というパンドラの箱が開いてしまったという状況ですから、医療や技術をサポートとして南の爆発を抑えなきゃいけない。逆に言うと、このパンドラの箱を閉じる為にも、今までと同じことをやっていては駄目で、パラダイム・シフトが出来るかどうかが、人類として生き残れるかどうかの鍵になる。 (パラダイム・シフト:価値観やライフ・スタイルの転換)
押谷 仁(東北大・専門家会議メンバー)談
○世界は自分の国さえよければという方向に動いてきたが、このようなウイルスに対しては全く通用しない,ということが突き付けられているんだと思います。もし日本で大きな流行が起きそうになった時、そして医療の限界を超えそうになった時には徹底的に社会活動を制限して、ウイルスの拡散を抑えるわけだが、ウイルスは完全になくなるわけではなく、また他の場所で小さなクラスターが起る。それをまた潰していく。長期戦覚悟でやって行かないと、このウイルスへの対応はできない。
五箇公一(国立環境研究所)談
○外来種対策も同じで、地方の現場でよく尋ねられるが、「これはいつまでやればいいんですか?」と聞かれる。僕はいつも「終わらないです」と言うしかない。何故なら、入り続けるから。日本がインポートとインバウンドに頼り続けるかぎりは、これは終わらないんです。
特に感染症の場合は感染者=重症者という形で出ればすぐ芽が摘めるんですが、このウイルスのように潜伏という形で来る以上、終わらないですよね。しかも、日本だけじゃなく世界中で起きているとなれば、日本で潰しても、また世界から入って来る、の繰り返しになる。
≪押谷 仁(東北大・専門家会議メンバー)談
○これは非常に制御しにくいウイルスだが、相当な積極的対応をすれは確実に制御できます。で、クラスターを起さないように、人が集まる機会を極力減らす対応をすれば確実に減ります。ただ、それをすると大きな社会的、経済的影響がある。日本でどこかの地域で厳しい状況になることが十分予想されますが、そうなった時に、人工呼吸器が足りない、ICU(集中治療室)が足りない、そうなれば人が救えなくなる。そうなった場合に日本の国民性やメンタリティーから言うと、それを受け入れることが出来ないと思います。であれば、それが予想される場合、その前にかなり積極的な対応をせざるを得ない、その準備をみんなで積極的に考えなければいけない。そういうところに来ているんだと思います。
五箇公一(国立環境研究所)談
○ウイルスに対しては当然新薬の開発などの科学技術に頼らなければならないが、根本的には長期的に見て、こういったクライシス(危機)を繰り返さないためには、自然と共生するというライフ・スタイルの転換を、これからは本当に考えて行かなければならない。我々は本当に手を出してはいけないところまで自然に対して侵食してしまったがためにこういう問題が起きている。そこからウイルスなど、人間社会へのリスクとして降りかかって来ている。その悪循環を断つためには、自然の摂理に準じた共生ということを今始めないと、人間社会は崩壊しか道筋がなくなってしまう。それぐらいに深刻に受け止めないといけない。それを今回のコロナウイルスが教えてくれている気がしています。
以上ですが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
≪追記≫
豚コレラが流行したとき、何万匹もの豚が殺処分されました。感染していなくても、感染が拡がるのを防ぐためには止むを得ないとして・・・。そして、新型コロナウイルスの流行が始まったころ、知り合いが冗談で「豚でなくてよかった」などと言ってましたが、私も今、つくづく「豚でなくてよかった」と思います。もし自分が豚だったら・・・と想像し、恐ろしいことだと思い、ああ、人間でよかったと思うわけです。
『神との対話』という本には、
「あなたがたは自然は残酷だというが、自然ほどやさしいものはない。あなたがたは自然に対して如何に残酷なことをしているか、少しは考えた方がいいのではないか」ということが、書かれていたのを思い出しました。