朝の短い時間
(六時から七時くらい)
瑞々しい光が注いでいる
僕はまだ不自然な
まったりとした眠りの中にいる
一日が追いかけてきても
泰然としている
朝の台所に呼ばれた日
光は陽気に僕を包んだ
粒状のリボンが
台所いっぱいに舞踏した
思ってもみない出会いに
僕はふたたび
暗がりの眠りにもぐった
母は毎日
台所の光と仲が良かった
覗くと何かを頬ばっていた
受け入れるべきものを
すべて受け入れていた
それを見て
僕はまた布団に包まった
朝の短い時間
(六時から七時くらい)
瑞々しい光が注いでいる
僕はまだ不自然な
まったりとした眠りの中にいる
一日が追いかけてきても
泰然としている
朝の台所に呼ばれた日
光は陽気に僕を包んだ
粒状のリボンが
台所いっぱいに舞踏した
思ってもみない出会いに
僕はふたたび
暗がりの眠りにもぐった
母は毎日
台所の光と仲が良かった
覗くと何かを頬ばっていた
受け入れるべきものを
すべて受け入れていた
それを見て
僕はまた布団に包まった
未来を渇望して
走りつづけた日々
そこでは勝利の旗や
求めただけの抱擁や
与えただけのの報酬が
生活の中に
僕だけに横たわってい
はずだった
僕はもう辿りつけそうもない
現実は秋の光が
幻影のまま未来を揺らす
生きとし生けるものの生命と共に
一九七〇年代の音楽が聞こえる
眠気と目覚めの入り混じった朝
荷物の重さが負担になり
手放す準備にゆれている
二拍子の律動に授かって
歌詞の意味を
閉じ込めてきたのは
あなたのお陰
せめてその場所は
眺めの良い一角へと
予約と空き順をかぞえながら
廃棄の荷造りを始めている
つよがりの盛夏は
九月の大気にひっそりとし
なぐさめにさえならない
しわがれた皮膚
折れ曲がった骨格
視覚は恣意を遠ざけた
第二のスタートに
荷造りの紐を結び始める
否というさえずりに
グッバイと笑顔をかたむけて
盂蘭盆会には
ご先祖さまが泊まりに来るという
本当かしら
ナスや胡瓜の乗り物に
揺られ揺られて来るという
あら、はいからさん
涼しくなった夕餉に
提灯ぶら下げ
お久しぶり、どうぞお上がり
卓袱台を囲んで
煮物とか魚やらつまんで
おはぎは後で
細い煙がなびいて
線香の匂いがぷーん
となりに居るのは誰だろか
あのときの娘は
六歳だったけれど
どこに居るのかしら
人影がおぼろに
障子戸に映る
老いた母はもう眠っている
思い出話は尽きて
灯りは消えて
永遠が泊まっている
母の散歩はめっきり減った
冬が過ぎて
暖かくなって
お出かけ日和になったのに
ベッドに寝転んでばかり
今日は窓から青空が見えるよ
たまには外に出たら
でも足が痛くなるからと
起き上がる気配はない
歩けなくなっちゃうよ
と忠告しても
しょうがないよと一言
ひととき母の傍らに居ると
いつものヘルパーさんがやって来て
手際よく濡れた下着の交換をして
歩かなきゃねとニッコリ
青空の下には田畑
母が忙しく働いていた場所
今では閑散としている