ウクライナに侵攻したロシア。プーチン大統領は何を考えているのか。AERA2022年3月14日号では「ウクライナとロシアの現実」を緊急特集。彼と4回会ったことがあるという鈴木宗男・参議院議員に聞いた。

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 プーチン大統領の考えを理解するには、東西冷戦が終結した頃からの歴史を俯瞰する視点が必要です。

 1989年にベルリンの壁が崩壊し、ブッシュ(父)米大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長の間で東西ドイツの統一に向けた議論が始まりました。その時、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大はしない、と米国はソ連に約束しました。

 文書化されていませんが、当時のベーカー米国務長官の回顧録『シャトル外交 激動の四年』(新潮文庫)にも、1990年2月9日のベーカー国務長官とゴルバチョフ氏の会談で「1インチたりとも拡大しない」と伝えた場面が紹介されています。

 ゴルバチョフ氏は西側を信頼し、ワルシャワ条約機構を91年に解体したのです。

 この頃、KGB職員として東ドイツにいたのがプーチン氏でした。ところがNATOはその後、東方拡大を進めました。

 プーチン氏は一方的に約束を反故にしてきた米国の信義違反を繰り返し批判してきました。ゴルバチョフ氏はノーベル平和賞を受賞しましたが、結果として「弱いロシア」になってしまった。プーチン大統領には、西側を善意に解釈したゴルバチョフ氏の愚は繰り返さない、という強い決意と覚悟があります。

 NATOに加盟した旧ソ連の国々にはロシアに照準を向けたミサイルが配備されています。ウクライナまでNATOに加盟する事態をロシアは看過できません。

 しかし、今の日本のメディアを見ていると、「ウクライナが善、ロシアが悪」という構図の報道ばかりが目につきます。これはちょっと短絡的すぎる。ウクライナのゼレンスキー大統領に何らの過ちもなかった、というのは公平な見方ではないと思います。

 ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」で続く紛争をめぐっては、「ミンスク合意」という和平の道筋があります。2014年に欧州安全保障協力機構(OSCE)が支援し、ウクライナ、ロシアとドネツク、ルガンスクの4者が署名した停戦合意と、15年にドイツとフランスが仲介した「ミンスク2」という包括的な和平合意です。

 この和平合意を履行しなかったのは、19年に大統領に選出されたゼレンスキー氏です。彼は、自分はミンスク合意に署名していないと言い始めたり、昨年10月に攻撃ドローンを飛ばしたりしたことが、現在に至る緊張状態の発端になっています。米国も今年に入り「ロシアは明日にも侵攻する」といった情報を世界に流し続けました。

 プーチン氏には「挑発」と映ったはずです。米国は本来、ロシアとウクライナの間に話し合いの場を設け、ミンスク合意の履行を双方に促すのが役割だったはずです。ロシアが侵攻に踏み切ったのは、この間、話し合いに応じようとしなかったゼレンスキー氏がミンスク合意を履行しないことが明白になったからだと思います。

 ロシアが侵攻する前の動きを時系列で見れば、プーチン氏は話し合いを求めたが、それに応じなかったのはゼレンスキー氏です。

 ミンスク合意をウクライナが履行していればこんな事態は起きなかった。ゼレンスキー氏が大統領になるまでは散発的な戦闘は起きても、紛争の拡大は抑えられてきましたから。外交は積み重ねです。過去の約束は守るのが基本です。米国が言っていることがすべて善、ロシアは悪という単純な分け方は危険です。

 私は今回のロシアの侵攻、力による現状変更、主権侵害は認められるものではないという前提でお話ししています。ただ、ここに至るにはそれなりの経緯がある、ということを知ってもらいたいのです。

 プーチン氏の目的は、ウクライナの中立化だと思います。紛争を抱えている国はNATOに入れません。ドネツクやルガンスクで紛争が続いていますから、ウクライナはもともとNATOに加盟できる状況ではありません。プーチン氏が求める中立化は、NATOに加盟しないというのにとどまらない、スイス、オーストリアのようなイメージをしているのではないでしょうか。

 私はプーチン氏に4回会ったことがあります。

 1999年にキルギスで日本人技師4人が誘拐された事件が起きた直後のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、当時首相だったプーチン氏と初めて面談しました。当時、プーチン氏は恩着せがましく外交カードとして利用することなく、事件の解決に尽力してくれました。強面と言われますが、人情家だと思います。

 また、56年の日ソ共同宣言の有効性を認めた指導者は、ソ連、ロシア時代を通じてプーチン氏が初めてです。日本は北方領土や平和条約締結という政治課題がなければ、米国と一体でいいと思います。しかし、日本の国益を踏まえれば、ゼレンスキー氏ともプーチン氏ともバランスの取れたトップ外交を展開すべきだと思います。

 長い目で見れば、中国の東アジアでの覇権主義的な動きを抑えられるのは米国ではなく、ロシアではないでしょうか。ロシアは世界一のエネルギー資源大国です。2050年のカーボンニュートラルに向けても、当面はロシアのLNG(液化天然ガス)が必要です。

 いかほどの経済制裁をしても事態は収まりません。いま必要なのは一にも二にも話し合いです。

○鈴木宗男氏(すずき・むねお)
1948年、北海道足寄町生まれ。日本維新の会所属の参院議員。小渕内閣で内閣官房副長官を務めた。北方領土問題の解決に取り組んでいる。

(構成/AERA編集部・渡辺豪)