こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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さよなら。ごんちゃんのお父さん

2009-03-08 00:51:41 | 訪問看護、緩和ケア
ごんちゃんは、シーズー犬です.
3年以上前になりますが、私がまだスタッフだったころに、ごんちゃんのお父さんに、訪問するようになりました。
ごんちゃんのお父さんは、慢性の肺の病気で、常時酸素を吸っていなければならない状態でしたが、まだまだお元気で、いつも呼吸リハをかねて、お散歩に行きました。
お父さんと私が、お散歩の準備を始めると、ごんちゃんは、きまって「連れてってー!!」とばかりに吠えまくり、ズボンにかみついたりするので大変でした。最初は、リハビリなんだし、犬まで連れていくわけにいかないと、置いていきましたが、そのうち、お父さんは散歩を面倒がってあまり行きたがらなくなりました。
お父さんは、ごんちゃんを溺愛してましたから、ごんちゃんを置いていくことがつらかったのかもしれません。
「じゃあ、ごんちゃんも一緒だったらお散歩行きますか?」「うん」
ということで、その日から、ごんちゃんも連れてのお散歩になりました。
酸素ボンべをしょって、パルスオキシメータで酸素飽和度をはかりながら、ゆっくり歩いたり、深呼吸をしたり、ストレッチをしたり・・
ごんちゃんは、ずっと私とお父さんの歩幅に合わせて、ちょこちょことついてきました。「ごんちゃんは、かしこいなー
関西弁で頭をなでます。
最初は、私には体を触らせなかったごんちゃんも、そのうち私に駆け寄って、うにうにさせてくれるようになりました。
散歩から帰ると、お父さんは、あまり見えない眼で、コーヒーを入れてくれるようになりました。
「一緒に、コーヒー飲んでや。」こういう場面で、仕事ですからとお断りするのは、逆に問題なので、病気の事や、薬のことなど交えて随分といろんなお話をしました。
お母さんも、お父さんの若いころの話をたくさんしてくれましたが、なにより関西弁での口喧嘩が、夫婦漫才みたいで楽しかった・・・・
やがて、ごんちゃんのお父さんの呼吸機能は少しずつ悪くなっていきました。
それでも、晴れた日は、コースを変えて歩きました。暑い日も、寒い日も・・
2年過ぎるころには、酸素の量も増えてきました。
短い坂も上がれなくなり、平地を歩きましたが、やはり思わしくないので、検査入院。退院してからも、少しずつ苦しさが増えていきました。
具合が悪い日は、お父さんと、お母さんとごんちゃんと、薬の整理をしたり、病気のことを話したりしながら過ごしました。ごんちゃんは、そんな時も、私たちの間を行ったり来たりしていました。
「ごんちゃんは、かしこいなー」それがお父さんの口癖でした。
あるひ、訪問に行くと、ぜーぜーと荒い息をして熱も高く、苦しそうにしていました。
酸素飽和度もあがりませんし、肺の音はバリバリと嫌な音がしていました。
このときは、短い入院で帰ってこれました。
こんなことを何回か繰り返すようになり、ある日は、「胸が痛いんだよ」と言いました。「しんどい」と。
左の肺の音がしません。また救急車です。
やはり、気胸でした。この病気のかたは、続発性の気胸を起こしやすいのです。
それでも、また退院して、お正月を家族と過ごすことができました。
そして、1月の終わり・・
また、訪問すると苦しそうな息をしています。
この時は、すでに酸素飽和度も50%まで下がっていたため、再び救急車を呼びました。お父さんは、苦しい息の中で、私の手をぎゅっと握って、泣いていました。
怖かったのでしょうね。「お父さん。治療して、また帰ってこようね。待ってるからね。」お父さんはウンウンと頷いていました。
それが、ごんちゃんのお父さんとの最後になってしまいました。

私は、もうずいぶんとたくさんの患者さんをお見送りしてきました。
お看とりをした方も、病院で亡くなった方も含めると、もう何百人にもなるかもしれません。そしてそれは、いつの時も辛く悲しいことです。
でも、いくつかの季節を経て、ずっとかかわってきた方は、やっぱりかなりこたえます。本当に、心に穴があいてしまいます。

金曜日に、お花を持ってお線香をあげさせてもらいに伺いました。
いつものように、ピンポンを押すと、ごんちゃんが走って出迎えてくれました。
「みてよ。お父さん、こんなんなってしもた。」「あんたには、いろいろ世話になったなあ。」
お母さんはさみしそうにそう言って、「ほんでも、もうぼろぼろやったからなあ。しょうがないわ。最後まで、いろいろやってもろうたし、めぐまれてたんとちゃうかな。」そういって、コーヒーをいれてくれました。
「お父さんがいないのに、ひとりで飲むのはつらいね」
ごんちゃんとも、お別れです。
お父さんがいなければ、もうこのお宅にも訪れることはないのですから。
思いっきり、スリスリして「元気でね。お母さんをよろしく」
それが、お別れでした。

そうして、これからもたくさんの方をお見送りするんですよね・・
それが、私たち訪問看護師のお仕事なのですから。

そうそう、新患さんの家に行く道すがら、彼岸桜が満開でした。
大和と瀬谷を隔てる川べりに、一足早く春を告げていましたっけ。